第24話「その物語の真実」


 私はさっちん先輩の、いや、風月(ふうげつ)さくら先生の昔からのファンである。


 そんな私が先生の作品に初めて出会ったのは私が中学一年生の時。


 本が小さい頃から好きで、日本にいる時は図書館によく通って絵本を読んでいた。それから児童向けの物語を読むようになり、段々と文字の多い小説も読む本好きになっていた。しかし、小学生の途中で引っ越しした海外では図書館で日本語の本を読むことはできないし、オンラインで自分の欲しい本をあまり買う事はできなかった。好きなものができないフラストレーションと新しい環境でのストレスで落ち込んでいた。



 そんな時に見つけたのが、とある小説投稿サイト。誰でも自分の書いた小説を自由に投稿でき、読み手も好きなものを好きなだけ読むことができる。いつも色々な小説に溢れている私にとっては夢のような場所。


 すぐに私はその夢のような場所に溺れるぐらいにのめり込んだ。長い間水分が無くて枯れかけていた花が急に降った雨を全力で吸収するように、ずっと小説が読むことができなかった私に急に現れた素敵な物語達を読み倒した。朝は目が覚めてから夜は寝る直前までずっと小説を読んでいた。


 そこで私は出会った。自分の一番ハマることになる作家さんに。そう、風月さくら先生に。


 さくら先生の作品を見かけたのは先生の作品がサイト内の新着作品ページに出ていた時だった。普段は新着作品のページを見ない私がたまたま開いたのが始まり。


 その時は全然人気が無く、評価も低かった先生の作品。ただ、そんなことは関係なかった。私はその小説を読み始めて一瞬でその世界にとらわれた。



 キャラクターそれぞれがそれぞれの色で輝いていて、みんなが主人公のように物語の中を自由に動き回って私をワクワクさせる。こんなに生き生きとしている登場人物がいる小説を私は読んだことがなかった。


 そして、本当に不思議な事に、登場人物が感じている楽しさも悔しさも悲しさも好きという気持ちまでも、私は読者という視点ではなく同じ世界にいる仲間のように一緒に感じることができた。文字を読んで登場人物の気持ちを理解したということではなく、私自身がその喜怒哀楽を自身の中に感じていた。




 こんなにも読者の心の中に感情を生み出す物語。私はただただ感動した。




 そこからずっとさくら先生の小説を読み続けている。ちなみに私が最初に読んだ先生の作品が初めての連載投稿作品だった。だから私は勝手に先生のファン第一号だと思っている。誰かにいう事はないけれども。


 そんな先生だから、私はどんな作品も追うことが習慣のような使命のようなものになっていた。


 さくら先生の作品はファンタジーやミステリーもあるけど、一番多く出している作品は恋愛モノだった。私は元々恋愛モノがそこまで好きだったわけではないが、先生の作品に惹かれて恋愛モノにハマり今では一番好きなジャンルになっていた。それぐらいにはハマっていた。



 読み始めて月日が経ち、ちょうど一年と少し過ぎた。自分で言うのもアレだけど、私は本当にさくら先生の作品を解説できるぐらい何度も読んだ。投稿サイトには面白い作品はたくさんあるけど、こんなにも読み直した物語は無かった。それに何度読んでも面白く、新たな発見ができるのはさくら先生が織りなす素敵なお話だけだった。



 さらに一年が経ち、私が中学三年生になっていた。生活にも慣れて、友達もできて充実した日々を送っていた。そんな生活の変化もあり、投稿サイトは継続して見ているが、昔と違って空き時間があれば少しだけ読むぐらいになっていた。


 それでもさくら先生の物語だけは自然と読み続けていた。もうそれは生活の一部のようなものだった。




 そんなある日の事、さくら先生の小説にわずかな変化を感じた。恐らく今までずっと読み続けていた私だから分かる変化。


 今までの先生のどの作品の登場人物も何かしらのモチーフはあって生まれてきていたと思う。だけどそのモチーフは本体までは透けて見えるようなものではなかった。


 けれど、今、先生が書いている小説のキャラクターはハッキリとそのモチーフとなった人の姿が見える。もちろん実際にその人の絵が描いてあるわけではない。しかし私には見える。先生の文章から先生がその誰かをはっきりと意識して、その人物を登場人物として落とし込んでいる。






 その人物は若干ぶっきらぼうで表情豊かではないけど、相手の事を真剣に考えて、困っている相手へ優しく手を伸ばして、一生懸命に相手へ向き合う男の子。






 私の頭にふとあの時の男の子、一歳年上で私の初恋で絶賛片想い中の相手を思い出した。


「なんだか、このキャラクターはしょーちゃんに似ているな。もしかしてしょーちゃんの事だったりして。……なーんて、そんなわけないのにね」


 つい、ひとり言をぼそりと言ってしまった。


 それから私はこのキャラクターが徐々に気になり、しまいには一番のお気に入りになっていった。そのキャラクターが小説の中で他のキャラクターを好きになってしまうと嫉妬してしまうぐらいに。本当に恋をしているみたいに。






 そんな感覚は今まで無かったのに、どうしてこのキャラクターは特別なんだろう……と自分なりに考えてみたものの理由が見つかることは無かった。






 そうしてさらに月日が流れ、日本に帰ってきて、私はしょーちゃんと同じ学校に転校できた。久しぶりに会ったしょーちゃんは昔と変わらず私に手を差し伸べてくれて、背中を押してくれた。まるで小説のあのキャラクターみたいに。


 そうして私は春ノ宮先輩、さっちん先輩にも出会い、"放課後雑談部"という居心地の良い集まりにも入れてもらえた。


 そして偶然にもさっちん先輩がさくら先生がだということを知った。本当に嬉しかった。ずっとずっと憧れていて、辛い時も私の心の支えになってくれたさくら先生に会えた。色々伝えたい気持ちがあった。感謝と昔からの大好きなこととそれ以外にもたくさん。言いたいことがあり過ぎて伝えきれないぐらいに。


 その事実を知った夜は本当に嬉しくて眠れなかった。しょーちゃんに言われたこともあって。


 だけど、その後に気が付いた。気が付いてしまった。


 さくら先生がさっちん先輩だということは、あの物語の私の一番のお気に入りの男の子は誰がモチーフなのか。その物語の中で男の子と最後に結ばれた子が誰かに似ていることを。








 ……誰が誰に恋をしているのかを。

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