第23話「も、も、もしかしてあなたはっ!」
それから楓は友達との付き合いもあって毎日ではないが、放課後に図書室に来て俺たちと雑談をして一緒に帰るようになった。最初は緊張していたが、段々と俺たちの歩調を掴んだのか、気が付くと最初から一緒にいたかのように感じるほどになった。
それに先輩と楓は好きなものの趣味が合うようで、今まで以上に楽しい放課後の時間になって、すぐに先輩と楓は仲良くなった。雑談で自己紹介もしていたから割とお互いの人となりが分かったのも効いたかもしれない。
その雑談の中で気がついたのだが、実は楓も読書が好きで最近はネット小説を読んだり、自作の小説を投稿していることを知った。そしてさらに驚きなことにその話を聞いた先輩は、実は……と、続くように話す。
「楓ちゃんも小説投稿しているんだね。……実は私も細々と小説投稿しているんだ」
先輩は少し照れて恥ずかしそうに教えてくれた。
照れた先輩可愛い。
そんな風にボケっと先輩を見ていると、楓はその話に食いついた。
「え! さっちん先輩も小説書いているんですか? もし良かったらどんな作品書いているか教えてもらえませんか? すっごく読んでみたいです!」
目をキラキラさせながらだいぶ前のめりで興味津々な楓。ちなみに知らぬ間に先輩と楓は休日に二人で遊びにいく仲になっていて、お互いに下の名前、というか楓はあだ名でお互いを呼び合うようになっていた。
そんな俺の羨ましい気持ちを隠して、二人のやり取りを見ていた俺。そんな俺をチラチラ見てくる先輩。なぜ俺を見るのだろう。……はっ、もしかしてその小説って俺に見られるとまずい内容なのか? どんな内容かはイメージできないけど、実は……的な。
そんな風に先輩とは少し離れたイメージをしてみたが、さすがにそんなことは無いだろう。そう思っていた俺。そこへ先輩が少し言いづらそうに楓へ返事をした。
「うーん、楓ちゃんに教えるのはいいけど、翔くんには内緒だよ」
予想的中ううううううううう。ええええ、な、なぜなんだ! ……もしかして、『嫌な後輩をバレずに懲らしめる八十八の方法』とか『絶海の孤島後輩殺人事件』とかなのかもしれない。……くっ、なんかそれはそれで面白そうだな。そんな内容であれば反対に見たくなった。というか、先輩の作品に出られるのであればどんな役柄でも嬉しい!
そう変な方向に思考を飛ばしていると、先輩はちょっと慌ててこっちを見た。
「あっ、ごめんね、翔くん。別に翔くんを仲間はずれにしたい訳じゃないんだけど、なんだか翔くんに見せるのは恥ずかしかなーって思って。……どうしても見たい?」
上目遣いで見てくる可愛い先輩。抱きしめたい、できないけど。当然、こんな愛らしい先輩を困らせることはできない。
「まー、俺の事は気にするな」
こういう時はサラッと流すに限る。そうして俺は課題のプリントに再び取り掛かった。先輩の事だからなぜか俺には見せるのが恥ずかしかっただけなのだろう。やはり同性には見せられるけど、異性には見せたくないものもあるだろうし。
課題に黙々と取り込んで俺のそばで二人は先輩をスマホを一緒に見ながら先輩の小説を見ているらしい。……可愛い女の子が寄り添っていると絵になるなと煩悩だらけなので、見た目に反して課題が全く進んでいない俺。
そんな時、楓が突然座っていたイスから大きな音を立てて立ちあがった。
「えええええええええええええ、さ、さっちん先輩って、あ、あ、ああ、あの、さくら先生だったんですか!!!」
ここが図書室という事を忘れ、何か大きな声をあげてしまった楓。すぐに周りの目線がこっちに集まる。楓はすぐにイスに座り直したが、その興奮している感じは収まらなっていない。
できれば話に入らないつもりであったが、あまりの事だったので俺は楓で聞いた。
「何をお前は驚いてんだ?」
「え、いや、さっちん先輩ってこの業界ではすっごく有名な人なんっすよ! しかも、私もさっちん先輩の大大大大ファンで何度も何度も小説を読み返しているっす。というか、私が小説書き始めたのも、さっちん先輩の小説を読んで憧れたからなんっすよ!」
興奮して多少鼻息荒く説明してくる楓。今まで見たことのない楓の様子。その様子を見るとどうも本当の事らしい。俺は先輩の方へ視線を向けてみると、先輩はすごく恥ずかしがったような顔をして自分の顔の前で手のひらをこちらに向けながら手を振った。
「いや、全然そんな有名じゃないよ、私。いくつか書いていた小説が少しだけ人気が出ただけだよ。楓ちゃんは話を大げさに言っているだけで全然そんなのじゃないんだから」
先輩はそう言ったが、今度は楓が反論する。
「いやいやいやいや、そんなレベルじゃないんっすよ、しょー先輩! さっちん先輩はすっごく謙遜してそんな風に言っているっすけど、さっちん先輩の書いた小説はものすごく評価されてて、累計評価も全体で三十位以内に入っているし、書籍化もされているし、今度アニメ化されるのはこの作品だって噂がもちきりなんっす! でも、本当にすごいのは評価だけじゃなくて、小説の中身なんっすよ! 私の一番のおススメは『巨星墜つ、後には……』っていう小説なんすけど、その小説は……」
自分の事でもないのにすごく興奮しながら先輩が小説がいかにすごいかを説明し始める楓。その言葉節々から本当に心の底から好きな小説なんだと伝わってきた。好きだからこそ出せるその強い想いと迸る熱量を感じた。楓は純粋に先輩の小説が大好きなんだ。
昔もサッカーしている時はこんな感じだった。俺や他の仲間たちの良いところを自分の事のように一生懸命誇らしく言っていた楓。姿は変わっても、時間が過ぎても、変わらないものもあるんだな。
いっつも面倒を見ているイメージだったが、こういう風に嬉しい気持ちにもさせてくれるこの後輩には本当感謝しなきゃいけない。ありがとう、と。
一緒に放課後を過ごしてからある程度経ったが、改めて俺は楓であれば俺たちと一緒に放課後を楽しく過ごせると今、心の底からそう思えた。
「なぁ楓」
楓は熱弁を一旦止めてこっちを見た。
「これから"放課後雑談部"でよろしくな」
***
なんとさっちん先輩があのさくら先生だった。私の憧れの人に会えてもう興奮が止まらなかった。こんな偶然があるだなんて今でも信じられない!
そして、しょーちゃんに"放課後雑談部"でよろしくと言われた。直接言われたわけではないし、自意識過剰なのかもしれないけど、本当の意味で私を"放課後雑談部"として受け入れてくれたような気がした。
嬉しい! 幸せ! たまにはこういう日があるんだ!
転校して新しい環境で苦しい時もまだまだあったけど、こうして温かい人達に出会えてともに過ごせるなんて、私は本当についている。
いつかこの人たちに恩返しができるように私は明日も元気に過ごしていこう。
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