第22話「放課後雑談部!」


「あの、もし良かったら、私も今度からこの"放課後雑談部"に入部してもいいっすか?」




 楓の発言で俺は動きを止めてしまった。えっ、ん? 楓は何を言ってるんだ? というか、まず"放課後雑談部"ってなんだ? 楓の発言の意味を理解できなかった俺は素直に聞いた。


「"放課後雑談部"ってなんだよ?」


 楓は待ってましたとばかりににやりと笑った。


「このしょー先輩と春ノ宮先輩が放課後にしている雑談の集まりのことっすよ! 聞いている感じ毎日ここで先輩たちは集まって雑談とかをしてるじゃないっすか。なんだかそれって部活みたいっすよね。でもここでの集まりに名前が無かったので、私が今勝手に名付けてみましたっす」


 どうも勝手にうちらの習慣に名前をつけたようだ。


「それで、その活動に私も入れてもらって、放課後に先輩たちと一緒にここで雑談したいなーっと思って入部願いをしたっす」


 最初"放課後雑談部"と聞いてなんだそれと思ったが、放課後の俺と先輩の事を指すのにあまりにも適切な言葉過ぎてしっくりきてしまった。……いや、まあ、名称の事はどうでもいいとして。


「お前、普通に運動系の部活とか入らないのか? うちの学校は女子サッカーはないけど、他の部活だって色々あるし、文化系の部活も色々楽しそうなことをやっているんだぞ」


 実際部活に入っていない俺が言うのもなんだけど、本気で楽しい部活があるからそっちに入った方が健全だという気持ちが半分、本音としては先輩との二人きりの時間を死守したいのが半分だった。


 いや、確かに楓もいればこの時間はもっと面白く楽しくなることは間違いないが、先輩と二人っきりでいられる時間が無くなるのは困る。というか告白自体できなくなってしまう。


 俺が表情には出さずにそんな私利私欲で謎の葛藤をしている間に、動いた人物がいた。先輩だ。


「ねぇ、冬藤さん、どうして放課後に一緒にお話ししたいと思ったのかな? あっ、悪いとか言っているわけじゃなくてね、純粋にどうしてなのかなって思って」


 先輩の表情は本当に純粋に楓の気持ちを聞いているようだった。話を振られた楓は少し緊張気味ながらもしっかり先輩の顔を見ながら話す。


「あ、あの、せん、先輩たちがこの時間をとても大切にされているのは私も知っています。それに、実は今日、こっそり先輩たちの会話を聞いていて、お二人だけのとても楽しそうな雰囲気で私が入っちゃダメかなっていう風にも思っていました。でも、あまりも優しくて素敵で楽しそうな雰囲気の二人を見て、しょー先輩だけじゃなくて、春ノ宮先輩とも仲良くなれたら嬉しいなって心から思って、お邪魔なのは承知していますが一緒に仲間に入れて欲しくてお願いしました! 私もそんな風に幸せな学校生活を送ってみたくてそばに居させてくれませんか!」


 楓は緊張していて、足は少し震えていて、両手でスカートを少し血管が浮かぶくらい強くしっかり握っていた。その力一杯握っている拳から思いが伝わる。




 俺は、楓としばらく会っていなかったし、再会してからも顔を合わせたのは今日で三回目だ。だから楓が現在どんな人なのかはやっぱり分からない所もある。それに先輩とのこの時間は本当に俺にとっては大事な時間である。できれば先輩を独占したい。



 ただ、こんなにも真剣にお願いしているヤツの願いを無下にすることは違う気がする。


 それに、昔は自分から声をかけられず外から見ているだけだったカエデが、今は自分から新しい環境に入れるように一生懸命頑張っている楓を先輩の俺が応援しないわけにはいかない。そんな頑張ってる後輩のためであれば俺の小さいワガママなんてどうでもいい。俺が応援しないでだれが応援するんだよ!


 俺はそう決意を決めて先輩へ話をしようとしたが、それは少し遅かった。すでに先輩が動いていた。


「……うん、教えてくれてありがとうね。そんな風に思っていてくれてもらえると嬉しいな。実際にしていることは本当に大したことないんだけどね。私もそんな冬藤さんとぜひ仲良くなりたいな」


 先輩はしっかり楓の方を見て話をする。もしかしたらこの二人の中では言葉以外の何か特別な思いが伝わったようにすら見える。


「改めてこれからよろしくね。正式な部活じゃないけど、冬藤さんが良ければ"放課後雑談部"?のメンバーとして一緒に色々お話しようね。……翔くん、もし翔くんが良ければそれでいいかな?」


 先輩が俺の方を見た。どうやら先輩も俺と同じ気持ちだったらしくて、先に楓の提案を同意してくれた。


 俺の答えももちろん決まっている。






「"放課後雑談部"へようこそ、楓!」






***




 もしかしたら私がしていることは二人のおじゃま虫をしているだけなのかもしれない。すでに完成しているジグソーパズルに私という余分なピースを無理矢理くっつけようとする作業みたいに。


 それでも私は全力でぶつかると決めたからできることは全部やってみる。たとえどんな結果になったとしても。まだ試合終了のホイッスルはなっていない。最後の一秒まで諦めちゃいけないんだ。





 だって結果はまだ分からないのだから!





 ただそれとは別に胸が少し痛い。本心ではこんな事を思っている私をしょー先輩と春ノ宮先輩は素直に優しく受け入れてくれた。……もしかしたら、春ノ宮先輩は私の気持ちに何か気が付いているかもしれない。私のしょー先輩、しょーちゃんへの思いに。それにもしかしたら先輩たちが大事にしているあの場所に何か影響があるかもしれないのに。


 その優しさが嬉しくもあり、辛くもあった。


 ライバルが悪人なら良かったのに。




 そんな消え去れることの無い罪悪感とともに私は目をつぶり、今日という一日の幕を下ろした。

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