第21話「やっと見つけたっす!」


「……それで結局眠気に勝てなくて、その時の俺はサンタの正体を掴めずに寝てしまったんだよな」


 いつもの場所で俺が小学校低学年の時になんとかサンタクロースを捕まえようとして、最終的に失敗してしまった話をしていた。それを聞いて先輩は可愛くクスリと笑ってくれた。


 元々、クラスで幼い頃の話をしていて、やっぱりみんなサンタクロース捕縛作戦を実行していて失敗に終わってしまったあるある話で盛り上がっていた。その話から、ふと、先輩の子どもの頃はどんな感じだったのか気になった。


 きっと幼い頃も可愛いに違いない先輩。できることならば見てみたかった。あわよくば写真とか見せてもらいたいと本気で考えていた。


 そんなこともあり、今日の雑談は子どもの頃の話をしていた。


「ふふっ、私はそんな楽しそうな作戦はしたこと無かったな。良い子で寝ないといけないって思って素直に寝ちゃっていた気がするよ。それに、もし試してみても私もきっと途中で寝ちゃうかも」


 サンタを待つ先輩を想像してみる。きっと、サンタクロースが来るのを待って何とか眠たい目を擦りながら頑張って起きようとして、最後に結局寝ちゃう先輩。それで次の朝に、枕元にあるプレゼントを見つけて大喜びする先輩。




 なんて可愛すぎるんだ。俺がそっと寝落ちした先輩をきちんとベットに寝かせて布団をかけ直してあげたい。こっそりプレゼントを置いてあげる。そうして一生大事に育て上げたい。


 『俺の娘が可愛すぎて本物のサンタよりサンタになってしまい、生涯溺愛が止まらない!』という小説が脳内で高速に書き上げられていく。ベストセラー間違いなし。全俺の参考図書に認定。




 俺のどうしようもない妄想父性がいきなり開花しそうになっていると、先輩は話を続けた。


「でも、もしサンタクロースに会えることができた時はどんな話をしたのかな。やっぱり欲しいプレゼントの話しかな」


「んー、まぁ、ケチらずに三、四個ぐらいプレゼントくれよって言うだろうな。世界中の子どもにプレゼントをあげるようなやつだからな。とんでもない額を持っているに違いないから、俺のささやかなお願いぐらい全部聞いて欲しいところだ」


「あはは、それは欲張り過ぎだよ。きっと世界中の子ども達がケンカにならないように一人一つにしているんだよ。みんな仲良くねって」


 すべてを包み込んでくれそうな優しい言い方で先輩らしい意見を言ってくれた。それを聞いた俺はなんだか変な気持ちになった。


「……咲先輩の言い方、まるで駄々をこねる子どもに言い聞かせる母親みたいだな。そんな優しい母親だったら子どももいう事を聞きそうだ」


「えへへ、そうだと良いんだけどね」


 また口に手を当てて小さく笑う先輩。不意にそんな先輩をからかいたくなった。だから俺はわざとっぽい口調で言った。


「というか、もしかして咲先輩は俺の事を子どもだと思っていないか?」


 おふざけ気味に言ったので、先輩も笑いながら返してくれるだろう。最近の距離感からこれぐらいのおふざけなら伝わるかと思って言った言葉。……そんな風に思っていたが、先輩の反応は違った。





「わ、私は翔くんの事を私の子どもだなんて思ったことはないよ! むしろ、子どもじゃなくて、私のだん……、って私何を言ってんだろう! ごめんね、ちょっと忘れて!」


 先輩が照れながら恥ずかしがっている。少し頬が赤い。







 She is so so so cuteeeeeee!!!!!!!!!!!!!







 っていうか、今、『だん』って言わなかったか。『だん』ってなんだ。だんし。だんせい。だんご。だんべる。だんぼーる。だんな。……ん、だんな? だんな! えっ、もしかして旦那って言おうとしていたのか。俺を。まさかまさか、えっ、さすがに違うよね。


 単語的にはギリギリありそうな表現を見つけ、俺に電流走る。今まで子どもの話をしていたし、『だん』から始まる言葉なんて旦那か段ボールぐらいだろ。となるとその中であれば……、俺の妄想が止まらない。


 まだ先輩は恥ずかしそうにしている。なんだかもっとからかいたくなってきた。それにさっきの言葉の続きも聞きたい。


 俺は先輩に追い打ちをしようとした時だった。





「あっ、しょー先輩! ここにいたっすか! ずっと探していたっすよ!」


 楓が来た。





 突然の来所者。なぜここに楓が?


「なんでお前がここにいるんだ?」


 率直な感想を言った。


「ふっ、ビックリしたっすか? 実は少し前にやっとこの学校に転校できたんすよ。でも転校してからずっとクラスのみんなからお誘いがあってなかなかしょー先輩を探す時間が無くて、今日やっと見つけられたっす!」


 ちょうど先輩をからかおうとしていた俺だったが、楓にサプライズを仕掛けられてしまいタイミングを逸してしまった。こんな状況ではもう話の続きは聞けない。


 そんな状態なので楓の事を考える事にした。確かにもうすぐ転校してくると言っていたが、あれ以降あんまりメッセージアプリとかで連絡を取っていなかったから状況が分からなかった。


 そんな風に少し驚いていた俺へ先輩が少し緊張しているような表情を向けた。


「あの、翔くん、この子は前に言っていた……?」


「ああ、そうだ。小学校の時によく遊んでいた楓だ」


「こんにちは、冬藤 楓と言います」


 先輩に向けて礼儀正しく頭を下げて変な語尾もつけずにきちんと挨拶する楓。


「こんにちは、私は春ノ宮 咲だよ。冬藤さんは今一年生なのかな?」


「はい、少し前に転校してきました。春ノ宮先輩は三年生ですよね?」


「うん、そうだよ。よろしくね」


「こちらこそよろしくお願いします」


 楓と先輩が挨拶し終わったが、なんだか若干ぎこちない。それもそうか、この前の遊園地ではお互い挨拶はしなかったし実質今日が初めて会う感じになるからか。


「それで俺に何か用か?」


 先輩と楓の空気の緩衝材としても俺が会話をした方がいいだろう。それに俺を探していたみたいだから何か用があるのだろう。転校してきたばかりでまだ色々な事が分からないだろうから手助けしてやりたい。


 もしかして、俺以外にも昔サッカーをしていたメンバーに会いたいとかかもしれない。確かに前にレストランでそんな話をしていたから、そろそろみんなに挨拶したいのかもしれないな。


「やっぱり小学校の時のサッカー仲間を探してんのか? それだったら全然紹介できるぜ。違う高校の奴もいるけど、ここにいるやつもいるから、明日紹介してやろうか?」


 俺は気をきかせて提案すると、楓は笑顔になった。


「あー、それは本当にめっちゃありがたいっす。明日お願いしたいっす!……それはそれとして、今、しょー先輩たちは何しているんっすか? 部活とかですか?」


 昔話に食いつくかと思っていたが、意外にも俺たちが今していることが気になったらしい。まぁ、確かに傍から見たら俺たちが何やっているか分からないだろうしな。俺を探していた理由は聞けなかったが、まぁいいか。素直に話す。


「いや、部活じゃない。ただここで、勉強したり本読んだり、雑談しているだけだ」


 もちろん告白のタイミングをうかがっているというのは伏せる。


「そうなんすか。……なんだか、楽しそうっすね」


 ああ、俺の至福の時間だ。これがあるから学校に来ていると言っても過言ではない。むしろここが俺のメインだ。そんな風に本心を暴露するわけにはいかないので、軽く同意するだけに留めておいた。



 それを聞いた楓は何か決意を決めたような顔をしてこちらを見た。






「あの、もし良かったら、私も今度からこの"放課後雑談部"に入部してもいいっすか?」





***




 改めて会った翔くんの本当に可愛い後輩さん、冬藤さん。


 翔くんの昔からの友達で翔くんと独特の雰囲気を作りだす冬藤さんの姿を見ていると楽しそうで羨ましいような、でも少し不安になるような気持ちが芽生えた。


 やっぱり前に翔くんから教えてもらっていた関係のようだけど、心に残る何かは取れない。だから、冬藤さんにお願いを言われた時にビックリしてしまった。





『私も今度からこの"放課後雑談部"に入部してもいいっすか?』




 私は……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る