最終話
夕陽が俺と圭と車を同時に赤く染めている。普段と変わらない最終日だった。
「圭大丈夫か忘れものとかないか」ないよーと聞こえてくる声でドアを閉める。
「今日って迎えは?」
「駅まで行ったら来るよ」駅までの道のりは50分くらい。俺はずっと考えてたことを話そうと思った。
「車のことなんだけど……もう運転やめようかなって思ってる」反応が気になるためか曖昧な感じになってしまった。
圭の表情を覗き見る。分からん。今日に限っては何を考えてるのかさっぱり分からん。
無言の時間が続く「……いいんじゃないの」ほんとにいいと思ってるんだろうか。
「ごめん色々と頼んでくれたのに」独断で決めたことを今更悔いる。でも子供相手に、まして色々喋った圭相手に相談するのは、なんというかかっこがつかない。
結局、かっこつけたいんだろうな俺は圭相手に。もうちょっと良く言うなら大人を見せたいんだろう今更。
数年、車での逃避行を続けて、違法なことをしていた俺が、言えたことではないと自分で分かってても。
「車どうするの捨てる?」
ばあちゃんの形見でもあるから持っておきたい。でも「警察に行くよ、車のことも話す」警察に行ってできるだけのことは話す、圭たちのことは話さないが。
「なら僕も」
「俺1人で行く、圭まで来る必要はない」実際、乗っていただけの子供をどうこうはできないだろう。
圭は心配そうな顔をしている「心配するな、ちょっと怒られる程度だ。それと、できれば立花さんと話がしたい。今日じゃなくてもいい」罪はそこまで重いものじゃない、どちらかといえば軽い方だ、前に調べた。だが、この場所には圭や立花さんも来ている。一応、確認は取っておきたい。
「別にいいけど」その後、圭の連絡先を手に入れた。これで、圭を伝って立花さんに連絡することができる。そういえば、連絡手段なかったんだっけ、今気づいた。今の時代、直接会って次に来る日付、教えてたんだな。
圭は顔を少し下に向けた。
「あぶないぞ、ちゃんと前見ろ」そう言っても、なおも顔は下に向いたまま。
仕方ない。圭の頭、ちょうど耳辺りを手で覆って強引に前を向かせる。強引と言っても力づくというわけじゃない、痛くはないはず。
圭は不服そうに俺の顔を見る。「今車のこと考えてたんだけど」
「圭が考えなくてもいいよ。これ以上迷惑かけるわけにはいかない」色々とかばってくれた。圭がいなければとっくに警察のお世話になっていたと言っても過言じゃない。
「でも大事な車なんでしょ?」
「それはそうだけど」
「お父さんに頼んで、なんとかしてもらう」
「いやこれ以上、圭の助けを借りるのは、俺がまいた種だ。圭に迷惑はかけない」
「……僕は広さんと車で過ごした時間を、誰かにとやかく言われたくない」ぼそっと言った圭の言葉は、俺の心をひどく響かせた。
「それに関しては俺も同じだ」
駅に着いた、変わらず人の姿はない。なんで今もこの駅があるのか不思議なくらいだ。
「ここに来るのか迎え」
「うん、もう少ししたら来ると思う」
腕にあるモニターで時刻を確認する、もう少しで電車が来る。
「じゃまたな」
「また」別れを告げて、改札に入る。
後ろを見る。圭が手を振っている、俺も手を振り返した。
前を見て歩く、大きくもない背中を圭に見せながら。
ガソリン車に乗った最後の記憶 草原紡 @nasutenokusa
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