第5話

 圭に渡された紙。そこに書かれた日付になった。この日まで、周りで特別なことは起きなかった、警察も尋ねてくることはなかった。

 不思議な感覚を抱きながら俺は、いつもの場所に来た。そこには、ここ数か月で見慣れた風景があった。

「圭……なんで」さらに圭の後ろには車があった。もうなくなっていると思っていた。

 呆然としている俺に近づいて「車乗ろうよ」圭の言葉で意識が戻される。

 ああ、と曖昧な返事を返して車に近づく、車内は思った通りの灼熱で何度かドアの開閉を繰り返す。

 エンジンをつけ、エアコンをつけ、車は発進する。久しぶりの音と匂いが体に伝わってきた。

 しばらく運転して意識を会話に向ける「どうして車があるんだ、それに俺もここ数日何もなかった」

「僕が頼んだんだよ、お父さんに広さんと車の件は何もしないでって」

 圭が頼んだのか。しかし、それだけで何もないものなのか。釈然としない俺の顔を圭が見ている。

「広さんがお父さんの秘密を知ったのも関係してると思うよ」そうかそれもあるのか。

「でも、それだけで黙るのか」

「今回の件を知ってるのは僕、お父さん、立花さん前に一緒に来た人ね、後数人いるお父さんの部下みたいな人それぐらいかな。全員がお父さんの味方みたいな人だから大丈夫だよ」

「そうか」少し不安になるが、俺がどうこうできるものでもないか。

「うん……勝手なことしてごめんなさい。でも、広さんが捕まってほしくなかったから」

 まっとうな大人だったら罰を受けていたのかもしれない、いや受けたいと思うかもしれない。しかし、俺が感じているのは安心、つまりはまっとうな大人ではなかったということだ。

「いいよ謝らなくて……ありがとう頼んでくれて」うん、と小さい声が聞こえる。

「……今更だが大丈夫なのかここにきて。その、立花さんが何か言ってなかったか」

「ちょっと強引に来ちゃたんだよね。立花さんからの伝言で、何かしたら分かってるな、だって」肝に銘じておこう、実行できる能力が相手にはありそうだ。

「あーあ結局僕もクズの仲間入りだね。お父さんと変わんないや」

「それを言うなら俺も変わんないよ」

 2人して苦笑した。子供相手に何やってんだか。

「次はいつ来るんだ」

「……うーん」

「どうした? 歯切れ悪いな」

「いやいままで通りの感じだったら次は来れるんだけどさ。夏休み明けたら来れなくなる」

「そうか」特に驚きはしなかった。親が許さないのは当たり前だ、よく今日というか夏休みまで許してくれたのが不思議なくらい。

「お父さんがやめろっていうし、僕もそろそろ向き合わないと」向き合わないと。その言葉が俺をひどく不安定にさせた。

 その後も圭と、他愛もない話を繰り返してお互い何事もなく帰った。

 家でその不安定が何なのかを探ってみた。

 一体何を不安定に思った。圭から言われた言葉だ、まさか俺は子供相手に傷のなめ合いを期待してたのか。

 まさか、ベッドに入り無理やりにでも目を閉じた。

 朝起きても不快な気持ちは限りなく薄く俺の中に残っていた。

 数日経っても消えず、その気持ちのまま俺は圭と会った。

 田舎道を車で走る。走るというほど速度は出せてない。

「広さん大丈夫?」

「え。ああ大丈夫、大丈夫」

 圭に心配されるほど、不快な気持ちが表面化していたらしい。

 話題を変えよう「それにしても奇跡だよな、俺たちが出会ったのって」

「奇跡?」

「奇跡だよ。たまたま出会った俺たちがこうなるなんて誰が想像する」

「ああ」

 圭は「うん」とは肯定しなかった。圭は嘘を吐くのが下手だ、自分にとって都合の悪い質問は曖昧な返事で返す。

「知ってたのか俺がここにいること」

「……知ってた」

「詳しく聞かせてほしい答えられる範囲でいいから」

「さっきの奇跡だけどさ、半分合ってて、半分間違ってる。広さんと車でドライブできるのは奇跡だけど、出会ったのは奇跡じゃない最初から知ってた」

「もうちょっと詳しく」

「書類があるんだ今手元にはないけど。そこに違法で車を所有している人物と場所。その所有している車の車名? とかが載ってるリストがある。それを僕が知ってたからここに来た、知ってるのは立花さんとかお父さんとかその部下とか。僕は盗み見したけど」

 色々と頭が追い付かない。

「書類の人物は関係者を調べたら出てきたらしい。車には色々と必要だから」

 ガソリンとかか「だとしたら俺は最初からマークされてたってことか」

「うん」

 まじか。立花さんが言っていた「圭に感謝しろ」はそういうことだったのか。

「もし圭が来なかったらどうなってた」

「……たぶん部下が来て最終的にお父さんのものになってたんじゃないかな車。警察が来るかどうかは分かんないけど」

 圭のおかげで車があるのか。下手すれば警察が来てもおかしくないと考えれば。

 ……ここまで圭に世話になって、あんなことを俺は考えてたのか。

「圭ありがとうな」

「感謝されることなんて何もしてない。迷惑なことはしたかもだけど」

「迷惑だなんて思ってないよ」

 俺は1つの決断をした。

 それから俺と圭は話した。ほんとに他愛無い話。

 友達と遊ばないの? と聞いたら。

「いないよ」と言われた。

 俺も似たようなもんだと返した。

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