第2話
次の休み、どうしようか悩みはしたが、子供に教えた日付通りに俺は来た。
まだ子供の姿はない。このまま黙って車を出そうかとも思ったが、可哀想に思えたから止めた。
ほどなくして例の子供が来た。
「今日も乗るのか」子供はうなづく。だよな、ここまで来たんだから当たり前だ。助手席に乗せて車を出す。運転して数分、もう何度も見た自然の景色だが隣に人がいるといつもみたいにいかない。
人を乗せての運転は経験がない。ハンドルを握る手がいつもより固くなる。いつもよりさらに速度を落として運転しようと心がける。
「なあ、名前教えてもらっていいかな」しばらくしてこの状況にも多少慣れたところで会話を試みる。
心の中でずっと子供子供言うのもあれだし。「あー俺から先に言うよ、
「
「ああそうか……圭くんね」
「あのときはごめんなさい、どうしても乗りたかったので」
「そう。車好きなの?」
「まあ」
……話が続かない。どうすんだ今の子何が好きなんだ。ゲームだと俺の世代はVRとか一時期めちゃくちゃ流行ったけど今どうだ。そもそもこの子……圭くんはどうなんだ。どうしても乗りたいってことは車好き? まいったな、だとしたら俺あんま車詳しくないぞ。昔の車も今の車もよく知らない。
でもこの気まずい感じを維持したままなのはなんかな。
「今って何が流行ってるの?」結局、直接聞くことにした。
「ゲームとかあと、アナログなゲームも流行ってたはずです」へーアナログね。
「それは、ボードゲームとかそういうやつ?」圭くんは「はい」と短く返す。
「へー今でも流行るんだね。やっぱり昔のは昔ので良さがあるんだろうね」
「だと思います。……あの聞いてもいいですか、免許証どうして取ろうと思ったんですか?」圭くんの方から話が来た。
「んーやっぱりこの車、運転したいって思ったからかな」こういった車が禁止されているから免許証、持ったところでなのかもしれないが。それに、最近じゃ自動運転とカーシェアで、免許と車を持ってない人が大半だ。それを持つ人間なんて、特殊な職業の人か、その人の趣味ぐらいだろう。
「車好きなんですか?」
「うーんこの車は好きかな」
「特別な車なんですか」
「特別な車かな俺にとって」
そんな他愛もない話をしながら、数十分運転して元の場所に車を止めた。うん、意外と話した。
前みたいに、圭くんが次の日を教えるようせがんできたので口頭で伝えた。
この日を境にそんな日が何度も続くようになった。最初は抵抗があった、でもその抵抗は話していくうちに消えていった。
何度目かの2人でのドライブ、その日は少し踏み込んだ質問をしようと思った。
「なんで俺に声かけたの」ずっと思ってた疑問、圭くんの様子から探ろうとはしなかったけど。
「……いわなきゃだめですか」やっぱり言いたくないのかな。
「絶対ってわけじゃない。ただ、俺もそこそこ危険なことやってるから理由ぐらい知りたい」圭くんの頼みとはいえ、未成年の子を車で連れまわすのは犯罪だろう。
圭くんは押し黙ってしまった。
はぁー「腹減らないか?」物で釣るみたいになってる、もちろんそんな意図はない。
圭くんは曖昧な返事をして、俺はそれを肯定と受け取った。
車をいつものルートと違う場所を通るようにハンドルを回す。
「近場にコンビニがある。向かっていいか?」
圭に確認を取って、今までまったく人がいない場所を走っていた車は、ほんとに少しだけ人が居る場所に着いた。
「行くぞ」そう言って車を降りる、戸惑った様子で降りてくる圭くん。
車は人目がつかないような場所に止めた。そのせいでコンビニまで歩くことになった。
圭くんは、疑問符を浮かべていてもおかしくない表情をしている。
「さっき俺が言った理由、言いたくないなら言わなくてもいい。だからせめて、それ以外でお互いのことを知ろう、車に乗ってるだけじゃ知る機会ないだろう」
俺は直感的に圭くんとは仲良くなれそうな気がしていた。俺の精神年齢が低いのか、圭くんが高いのか。まあ、このまま車に乗っているだけでは、自然消滅する関係なのは分かってる。だからそれを防ぐためにも「欲しいもんあったら買うよ」変化をつけたかった。結局、物で釣るみたいになったな。
2人でのコンビニ来店以降、俺は積極的に圭くんと話した。好きな菓子から、好きな子、年齢も聞いたな。しかし小学生か、俺より10以上も離れてる。
できるだけ核心には近づかないような話ばかり。
それでも、圭くんは俺の話に乗ってくれた。不思議と俺が話すと圭くんは自分のことも話した、律儀な子なのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます