その顔面でマフィアかよ‼︎

@pain_n

第1話 encounter

——

 あの日生理前とかじゃなくて、何事にも苛々してなくて、

 舌打ちが癖になってたりしてなくて…


 後から色々考えるけど多分どうしたって、あの日あそこであの路地で

 あのタイミングで出逢ってしまうんだ

 国籍も違う貴方と運命みたいに出会ってしまうんだ

——



あー、イライラする。

もう全部ダメ、全部やる気も起きないし、全部だるい、

生理前だからって、もうイライラしすぎる。


首を上げるのでさえめんどくさいが照りつける太陽を見た。

「あっつ…だる…」


そういえば、今日日焼け止め塗ってないじゃんと思い出す。

最近急に暑くなって、日焼け止めを普段から塗る習慣がなく

もっと日がでたら塗ればいいと思ってまだ買ってすらない。


「チッ、ほんっとうざいだるい」


さらにイライラが増しどうでもよくなっていたが

バイトに行くまでの短時間で日焼けするのも絶対に嫌だった。


チッ、日陰多い道の方から行くか—


頭の中でも舌打ちをし、

細い路地他人の家のコンクリの塀の間を通り抜けていく。

眩しいからと下向きながらに歩いていた。



—ドンッ!!—



「ッチッ、」

なに?ぶつかった? 人と?

細い路地で下を向き歩いていた私は、最初電柱にでもぶつかったかと思ったが

すぐに肩に当たった感触で人とぶつかったと判断し上を見上げようとした。


ん?

咄嗟に顔を上げかけて、見慣れないものが目に入った。


肘まで捲し上げている黒いシャツの下から

手首の少し上くらいまである刺青のようなものが目に入った束の間


『Dan what』


聞き慣れない流暢な英語に驚き刺青の事を忘れ目の前の人へと顔を上げた。

しかし、眩しさに若干目を細めてしまう。


がいじん、だ——


しかし先程話したのが目の前の人じゃない事にすぐ気付き

肩越しに向こうにさらに人がいるのが見えた。


—綺麗…—


目があった瞬間電撃が走り、ただ綺麗だと言う文字が浮かんだ。

先刻目の前の目鼻立ちの整った見慣れない外人にもびっくりしたが

比では無いオーラを感じる。


細い路地に風がフワッと通り、その人の髪を撫でた。

風までも味方につけたようにいい仕事をしている。

目があった一瞬の出来事にも感じたが、長い間風が吹いていた気もする。


『おい、今お前舌打ちしたな?』


一気に現実に戻された。

今度はぶつかった目の前の人が何か言ってるが何を言ってるのか分からない、

そんなことよりも低い太い声に“やばい”と感じ背筋が伸びた。



は?いやいや、ちょっと待って———

人を刺して、る…?



前屈みだった時には視界に入らなかったが、

先程綺麗だと感激を受けた向こう側の男が塀に向かって光る鋭いものを突きつけ

その塀とそのモノの間に男の人が項垂れて蹲っている。


先ほど自分が感じた“やばい”の正体が一瞬で頭によぎった。

テレビでしか見たことの無い様なその異様な光景に目を見開き動けないのが自分でもわかる。

最初の刺青といいこの人達まじでまじもんの人??


『ダン、誰なんだそれ?』

『いや、分かんないっす急にぶつかってきて

 でもこいつ舌打ちしてこっち睨んできやがりました』

『ガキか?女か?』

『ガキで女です。どっちにしろ見られてますよ、どうしますか』

『はぁ、めんどくせぇ』


目の前でずっと英語が飛び交っているが

何を言ってる全然分からない、

そもそも目の前の状況が読み込めず息さえ忘れて固まっている。


最後に向こう側の男がため息を吐き何か言いながらナイフを抜いてこっちを見た

その途端“ドシャ“っと刺されていた男が地面に力無く倒れたのが見えた。

その光景に我に帰り逃げなきゃという思考が頭を占めたその瞬間。


ものすごい勢いで振り返り、後ろに逃げようとしたが

—ドンッ!!—


また鈍い衝撃が体に走り目の前が真っ暗になる。

なんと背後にさらに人がいた。

一本道の細い路地で前後囲まれ逃げれないと悟り血の気が引いた。


『セドお前入口固めとけって言ったよな?』

『すみません、ダンさんの後すぐ入っていきやがって』

『すみませんじゃねんだよ、見られてん…

『お前ら黙れ、早くその女寄越せ』

『『はい、ボス』』


1番奥の人が一喝して何かを言い放ち

すぐさま前後の2人が話をやめ、私の両肩をがっしり持ち

ボスと言われてた人の方へ引っ張る。


先程まで男の人を刺してたナイフを持ったままで

私が近ずくのを仁王立ちで見て待っている。

抵抗と言うことすら頭に浮かばす、恐怖に腰を抜かしされるがまま引っ張られた。


いつの間にかどれに対してか勝手に涙が溢れて止まらず

近づく間ずっと私の目線は手に持たれたナイフに集中していた。

先程まで人に刺さっていたナイフが怖いのもあったが

この人は“やばい“なんてもんじゃない、最初の印象とは違い目を見ることすらできない

私の第6感が言っている、存在感が比ではない。と。


『立て』


両肩をグッと持たれ姿勢を正される

多分立てと言われたのだろうと理解した。

膝の感覚が無いが身体中に全力で力を入れ自分を奮い立たせた。



私が手中のナイフを凝視しているのに気づき隠す様に後ろ手に組んだ。

それに気づき恐る恐る目線を上げると驚いたことに穏やかな笑みを浮かべ

屈み私に視線を合わせる。

微笑み掛けられているのに、全くもって安堵を感じ無い

綺麗ずぎる顔立ちのせいか逆に物凄い圧しかない。

また仰反る様に背筋が伸び背中を冷や汗が伝うのを感じた。


『お前何者だ?なぜこの朝の時間に此処にいる?

 刺された男は知り合いか?いつから見てた?何を見た?』


何か捲し立てて質問攻めにされているのわ分かるが

全くもって内容がわからない

いや、この状況日本語で聞かれても多分内容が入ってこないだろう。


『ダメだ何も吐かせられねぇ。やれ。』


あ、死ぬ——

咄嗟にそう思った。

その瞬間脇腹に鈍痛が走り意識が遠のくのが分かった。


「う゛っっ」———


前に倒れ込みボスと言われる男へともたれ掛かる。

女を抱き止め男は言った。


『おい殴れと言ったか?』

『え、やれとおっしゃ…』

『女、子供を殴る趣味は無いといつも言ってるだろ』

『すみません、騒がれたらと思い』

『もういいすぐ車に乗せろ、誰にも見られるな』

『はい、ボス』


セドは軽々と女を片手に抱え路地脇に着けていた車に乗せた。


『ボスは日本の女なんか連れてどうするつもりですかね?』

『分からん、でもボスがあんなに優しく笑いかけているところなんて

 初めて見た。』

『まじっすか』


長年ボスに付いているダンでも珍しい光景だった。


『おい、何話してる早く出せ』


あれ、いつの間に乗ってたんだ…?

ダンはやばいと思いすぐさまエンジンを掛けルームミラー越しにボスを確認した。



そしてどこか上機嫌なボスをのせて車は更に路地裏へと走り出した。




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