第3話

 7月5日午前8時頃、結城市の人気のない農道の路上に焼死体があるのをトラックの運転手が発見した。遺体はタオルのようなもので目隠しされ、後ろ手に縛られており完全に炭化していた。死因は頚部圧迫による窒息死で、絞殺後に灯油をかけられたものと見られた。


 この焼死体は矢追町在住で結城市に勤務する、ナースの秋坂泉あきさかいずみ(24歳)の遺体と判明。泉は4日に同僚と退社して午後8時半頃に自宅に電話した後は行方不明となっていた。泉の家族によって4日午前1時頃に捜索願が出され、同日午前3時頃に勤務先2階の女子更衣室ロッカーから泉の携帯電話が見つかっていた。


 同年9月、恋愛問題のもつれによる犯行として、同僚の蛆原恵美うじはらえみが逮捕・起訴された。


 以下の状況証拠をどう判断するかが焦点となった。


 被害者が恵美の恋人と交際を始めた後から被害者への度重なる無言電話の受信記録があったが、事件直後に無言電話にまつわる受信記録が無くなったのは事件直前に恵美の恋人が被害者と交際を始めたのを妬んだ恵美による可能性が高いこと。

 被害者のロッカーの鍵が恵美の車内で発見されたこと。

 死亡後も生存偽装工作目的で勤務先と、恋人に宛てに発信されていた被害者の携帯電話の電波発信記録が恵美の足取りにほぼ一致する一方で他の従業員の足取りでは該当者がいないこと。

 死亡後も生存偽装工作目的に勤務先を除けば特定個人としては唯一被害者の恋人に宛てて発信されていることについて、恋人の電話番号は被害者の携帯電話の着信履歴には残っておらず、被害者の携帯電話のメモリダイヤルには恋人の自宅及び携帯電話を含めて計45件の電話番号が登録されていたが、勤務先以外の送信先を選ぶ際にメモリダイヤルに45件登録されている中から適当に選んだ電話番号が唯一の特定個人である恋人宛ての送信先に偶然になったとはおよそ考えられず、犯人は恋人の電話番号を知っていたか、メモリダイヤルでわざわざ恋人の名前を入力して電話番号を呼び出すかして意識して恋人宛てに発信をしたとされ、犯人が恋人と特別な関わりや思いのある人物である可能性が高いこと。

 死亡後も発信されていた被害者の携帯電話が部外者の入りにくい会社2階女子更衣室内のネームプレートがない被害者のロッカーに戻されたのは恵美である可能性が高いこと。

 恵美が事件当日にタンク入り灯油10リットル分を購入して事件後に再び灯油を購入していること。

 再び灯油を購入した理由に関する恵美の証言が父親や同僚の証言と食い違うとその都度証言が変遷したこと。

 恵美の車の左前輪タイヤに高熱の物体に触れて溶けた跡があったこと。

 恵美の車の助手席のマットに灯油の成分があること。

 犯行現場とされる恵美の車内に被害者の血痕や毛髪が確認されなかったこと。

 遺体発見現場で恵美の靴跡やタイヤ痕は見つかっていないこと。

 遺体の状態が男性による強姦殺人の可能性を示唆する要素があると弁護団が主張していたところ、検死における司法解剖で強姦の有無を調べられなかったこと。

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