第4話

 翌年の7月、和正は結城駅北口前に建設された、ゆうき図書館を核とする複合施設にやって来た。「人と情報、人と人、過去と未来の結び目」が建物全体のコンセプトになっており、結城市の情報の起点・交点となることを目的としている。1枚屋根を特徴とし、屋上に天体ドームを備える。地上4階地下1階建てで、敷地面積は6,997.33m2、建築面積は5,064.98m2、延床面積は14,396.21m2である。

 ガラス張りの建物と内部の大きな吹き抜けで、どこからでも見ることが出来る。外国の刑務所に似たような設計のところがあった。

 天体ドームには世界的にも珍しいフローライトレンズを備えた天体望遠鏡を設置する。ドームでは観測会が開かれ、特に月食や流星群など天文現象が見られる際には多くの観測者が訪れるそうだ。


 ゆうき図書館は結城市民情報センターの1階から4階の各一部を占め、1階で子供向け、2階で大人向けの図書・資料を主に扱い、3階は書庫である。2階から3階は大きな吹き抜けを設け、書架から天井に向かって縦向きに配置された蛍光灯とともに、ゆうき図書館を印象付ける特徴となっている。空調は人を感知して送風する「床吹き出し方式」を採っている。


 芦谷佑という小説家の本を読書ブースで和正は読んだ。


 鬼崎数馬は20年間、『レッドペイン』のギタリストであった。しかし左手の指が動かなくなったため演奏に支障が出る。数馬は解雇されるが、リーダーは数馬がこれまでの稼ぎで今後の生活に十分な資金があるとみなす。実際資金は残っておらず、これまで鬼崎は密かに若い歌手、吉川久里子のレッスン資金に匿名で大金をつぎ込んでいたのである。絶望し、金を得ようと数馬は自身が作曲した『ブラックペイン』を出版してもらおうとする。なかなか返答がなく心配になり出版社『ヨークシャーテリア』を訪れる。この楽譜について誰も知らず、誰も気にかけないと数馬は主張するが、社長の毛塚幸一郎は出て行けと雑に言い、スマホをいじり始める。


 諦めた数馬はしばしそこに立ち尽くし悲しくうなだれる。隣室から誰かが演奏する音楽が聞こえ、数馬はショックを受ける。狭山翔が数馬の曲を演奏しており称賛しているのだが、毛塚が『ブラックペイン』を盗み著名な狭山の曲として売り出そうとしていることに気付き、数馬は腹を立てて毛塚を絞め殺そうとする。数馬が毛塚を床に叩きつけると、毛塚のアシスタントの須藤精太が硫酸を数馬にかける。甲高い悲鳴を上げて手で顔を覆いながらドアから飛び出る。数馬は殺人容疑で警察に追われ、下水道に逃げ込む。

 バイクのフルフェイスを盗んで醜く変形した顔を隠しながらも久里子を気に掛ける。


 警官の相馬達也は久里子に歌手をやめさせ結婚したがっている。しかし著名な演歌歌手、長宗我部氷柱も久里子の心を勝ち取りたいと願っている。

 久里子はどちらも良い友達と思っているが、気持ちを伝えたことはない。久里子は、主演のためなら何でもする天馬豊子の代役である。『天馬豊子物語』の上演中、数馬は小道具のワインに薬物を入れたため豊子は倒れ、演技ができなくなる。演出家は久里子を豊子の代役として出演させ、圧倒的な演技をみせる。

 天馬豊子は長宗我部と久里子の仕業と疑う。

 豊子は相馬刑事に2人を逮捕するよう迫るが、証拠がないためその証言の真偽が不明なので逮捕できないと応える。豊子は条件を提示する。上映を中止し、この公演のことを誰も思い返さないのならこの事件のことは忘れると語る。この条件は皆、特に久里子と長宗我部を落胆させた。その夜、数馬は豊子の楽屋に侵入し、彼女と愛人を殺害する。次の公演は休演となる。


 数日後、映画監督たちは豊子の代わりに久里子を出演させるよう要求するメールを受け取る。数馬を捕まえるため、相馬は『天馬豊子物語』の公演には久里子を主演させずに数馬をおびき出す計画を立て、長宗我部は上演後に狭山翔に『ブラックペイン』を演奏させる計画を立てる。しかし数馬は出演者の1人を絞殺し、会場のドーム型の屋根に向かう。数馬は大きなシャンデリアを観客席に落とし、会場は混沌となる。観客やスタッフが逃げ出し、数馬は久里子をさらって地下へ向かう。

 数馬は久里子に愛を伝え、自分のためだけにいくらでも歌うように、そしてずっと一緒にいようと語る(このとき「わが子」と呼び掛けている)。しかし久里子はそれが数馬だと気付かず怖がる。


 相馬、長宗我部、警察官たちは地下に追跡する。数馬と久里子が隠れ家に到着すると、翔がバンドと共に『ブラックペイン』を演奏しているのが聞こえてくる。数馬は久里子の前で曲に合わせてピアノを弾き、そのメロディが子供の頃から聞いていた童謡と同じだと気付く。相馬と長宗我部は数馬のピアノを耳にする。久里子は数馬に促されて歌う。数馬が音楽に集中していると、久里子がこっそり近付き仮面を外し、酸で焼けただれた醜い顔が現れる。同時に相馬と長宗我部が到着する。

 数馬はナイフを抜いて彼らと戦おうとする。相馬は数馬に向かい銃を発射しようとするが、長宗我部が相馬の腕を押して屋根に弾が当たったため崩れ落ちる。長宗我部と相馬は久里子を連れて逃げるが、数馬は落石に当たり亡くなる。長宗我部氏は久里子に、久里子と数馬は同じ地区の出身であるためその童謡を知っているのだと語る。久里子は数馬がよそよそしくしていても彼に近いものを感じていたと語る。長宗我部は数馬の苦しみは忘れ去られるが、音楽は生き続けると語る。怪人の隠れ家は瓦礫に埋もれてしまった。


 あまりの面白さに時間を忘れて読んだ。

 駅前通りをまっすぐ歩くとココイチが見えてきた。もう、午後3時だ。

 今の時代、楽譜なんて売ったところで金になるのかな?和正は音楽業界に詳しくないから、楽譜の価値など分からなかった。

 どことなく『オペラ座の怪人』に似ている。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る