いざ、星見の試練へ
危険だからと止めようとしてきたジンを振り切って、一行は星見の試練がある場所へと向かっていた。
そこは星見の里から北に数十分の位置にある、大昔の地下遺跡ということらしい。
その途中、フェアトはパイに優しく語りかけた。
「吹っ切れましたか?」
「い、いいえ! 全然です! あたしは先生が思っているほど強くないし、信念があるわけでもないので……」
「でも、星見は嫌いじゃないのでしょう?」
「……はい。頭の中はグチャグチャになりましたけど、嫌いになれなかったです。いつも星見をしていた両親の背中を見ていましたから」
パイは泣き笑いのような表情を浮かべていた。
「ですよね。僕はどんなに占いで失敗しても、めげなかったパイ君を知っていますから」
「ど、動機はニートになるためですけどね!」
「パイさん、星見って立派な職業だからニートになれないと思うぜ……?」
メラニは横をカッポカッポと可愛らしく歩きながら、我慢できずにツッコミを入れてしまった。
「た、たしかに……! じゃあ、趣味で星見をするニートということで! 実は占いでドロドロした恋愛相談とか聞くのが好きで……でへへ……」
「えぇ……」
目を星のようにキラキラ輝かせるパイ。
メラニは一瞬でも、立ち直ったパイのことを尊敬しようとした自分が馬鹿だったと思った。
将来、こうはなりたくない。
「あ、メラニ様、今『将来、こうはなりたくない』と思いましたね!?」
「そ、そんなことないぜ!?」
「顔に出ていました……。何なら、星見で占ってもいいんですよ……!」
「そんなことに星見を使うかー!?」
その生徒二人のやり取りを見て、フェアトは微笑ましく思った。
そうしている内に、星見の試験会場である古代遺跡に到着した。
石造りの入り口があり、薄暗い地下へと続いている。
フェアトの印象としては、以前見たことがある教会の地下墳墓の雰囲気に近い。
丁寧なレリーフも目を惹く。
モチーフとなっている大きな羊――これは星見の民が遊牧民ということもあるのだろう。
そこの横に弓矢、月桂樹、竪琴、太陽なども並んでいる。
「……ということは、あの暗号の中にあった存在が力を与えているというので間違いなさそうですね」
「先生、どうしたんだぜ?」
「いえ、何でもありません。先を急ぎましょうか」
「そうだぜ! いつものように知識欲を爆発させてたら、馬蹴りを食らわせてやるところだった」
フェアトはギクッとした。
この古代遺跡をじっくりと見学したいという欲求に駆られていたからだ。
しかし、生徒と知識欲を天秤にかけて、ギリギリのところで生徒に傾いている。
「……先生、今スキル選択で【馬蹴りⅠ×】を取りたいんだけど?」
「ちょ、ちょっと待ってください! 早まらないでください! 魔が差しそうなだけで、まだ僕は何も!?」
「いや、先生に強化された馬蹴りを食らわせようってんじゃなくて、ちょっと用心して取っておきたいなーって思っただけだぜ?」
「あ、ああ……なるほど……」
フェアトは地下の湿気のせいに違いない脂汗を拭いながら、手稿を出現させてマギス・アキに呼びかけた。
「マギス・アキさん。スキルを取得しようと思うのですが、英雄の教室の外でも可能でしょうか?」
「あぁん? 寝てるところを、おはようございますだ!」
「あ、はい。おはようございます」
「もちろん、英雄の教室の外でも、手稿さえ操作すれば可能だ。それがたとえ戦闘中でもだよ」
それを聞いたフェアトは、早速手稿を操作して【馬蹴りⅠ×】→【馬蹴りⅠ】にした。
ポイントは一週間で充分に貯まっていたので足りている。
「ありがとうございました。では、先を急ぎますので収納しますね」
「お、おい待てよ! 久々に出てきたのに――」
一瞬で消えた手稿とマギス・アキを余所に、一行は先を進む。
少し歩いて角を曲がると、そこには大きな門があった。
「この先が試練の行われる場所ですね。では、パイ君頼みました」
「は、はい!」
石造りの大きな門。
ここまでの建材とは違い、薄い膜のようなモノが白く輝いているように見える。
それは陽の光のように暖かく、神聖で――
「我、星見の民の娘、パイ。
パイは呼吸を整えてから門に手を触れた。
ヒンヤリとした手触り。
神聖な輝きは身体を包み込んで、こちらの〝存在〟を探っているようだった。
やがて、門は開かれた。
「ふぅ……どうやら、あたしでもちゃんと資格はあったようです」
「さすが僕の生徒ですね。さぁ、行きましょう」
中に足を踏み入れると、そこは空気が違った。
地下特有の湿気と澱みはなくなり、澄んだ空気が流れている。
薄暗さも消えて、陽の光が差したように明るい。
そして、ことさら特殊なところがあった。
「道が分かれていますね。それも五方向に」
試練を受けたジンから、中の事を聞いていた。
最初の道が五方向に分かれていて、その先でさらに五方向、また次に五方向――延々と分かれ道が続いているらしいのだ。
しかも、不思議なことに構造は毎年変化するという。
もしかしたら魔法の力で作られた空間なのかもしれない。
「これが続くとなれば、正しく星見を使える者以外は最奥に辿り着けないということですね。というわけで頼みました、パイ君」
「は、はい! 自信は無いけどやってみます!」
パイは星見を開始した。
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