暗号鍵
英雄の教室での日々が流れ、星見の試験まであと1日となった。
メラニは山ごもりの自習で何かを掴んできたらしい。
かなり好調だ。
しかし、パイの方は浮かない顔で、付きっきりのフェアトも違和感を覚えていた。
(現代の星見……。神馬ケイローン様が使っていたモノと同一とは思えないですね)
本の内容を習得していくと、たしかに星見の的中率や、占い相手への信頼獲得などの効果は高まっていった。
しかし、それではただの質の良い占い止まりなのだ。
フェアトが最初に目にした星見――ケイローンが予知めいたことを占っていたのに対し、現在の星見ではそこまでの精度を保てていない。
今ある本の内容を極めていっても、それは同じことだろう。
「お、お師匠様……やっぱりあたしがダメなばかりに……」
「ああ、すみません、パイ君。不安げな顔をしていたので心配させてしまいましたか。パイ君はよくやっていると思いますよ」
むしろ、パイは授業の飲み込みや、星見の才能などかなり高かった。
明らかにスターゲイジー家の跡取りに相応しい逸材とも言えるのだが、パイの兄であるジンはなぜか嘘の口伝を教えて足を引っ張るようなことをしていたのだ。
何かが引っかかる。
それにまだ別の解けていない謎が、手の中に実体としてあるのだ。
「暗号……」
メラニとパイが写本として残してくれた、二冊分の暗号だ。
初めて見たとき、明らかに言葉の体を成していないため、それは一瞬で暗号とわかった。
使われている文字は、この世界で広く使われている公用語だ。
魔族の希少種族の言葉だったら、フェアトも読めないのでアウトだった。
一つ一つの文字はわかるのだが、規則性もバラバラで読むことはできない。
そこで暗号の方向性がわかった。
以前、似た暗号を本で読んだことがあるのだ。
暗号の歴史は意外と古く、言語が誕生した直後からその概念があったと言われている。
そして、星見が誕生したという歴史と照らし合わせた年代と一緒のタイミングで、別に暗号鍵を用意するというモノが流行していた。
つまり、これ単体では解けない暗号だと目星をつけたのだ。
「うーん、暗号さえ解ければ何か星見の力を上げられそうなんですけどねぇ……」
「別の何かが必要なんだろう? だったら、部屋に閉じこもって悩んでても仕方がないぜ! だから、今日は気分転換にやってきたわけだ!」
今、フェアト、メラニ、パイが歩いているのは星見の里である。
考えすぎて頭をパンクさせていたフェアトを、心配したメラニが外へ連れ出したのだ。
「ほら、先生お気に入りのブラッドソーセージがある、あの店に到着だぜ!」
「おぉ、あの合理的で美味しいソーセージ! 脳みそも良かったですねぇ……」
「の、脳みそも気に入ったのか……」
「よーし、食の知恵でお腹を満たしますか!」
そうして店に入り、各自が注文して、フェアトが生の羊脳みそにチャレンジしているときだった。
「なぁ、パイさん。ここの店の壁紙……布とか革だから壁布、壁革か。何か可愛い絵柄だよな」
「もー、メラニ様。外から来た方々には可愛く映るかもしれませんが、一応はその家系の歴史を記したものとかもあってお堅い物なんですよ。あ、でも、レプリカを作って売り出せば儲かるかな……」
突然、フェアトが脳みその塊を囓りながら立ち上がった。
「うわっ!? どうしたんだよ、先生!? そんなに脳みそが美味かったのか……?」
フェアトはしっかりと咀嚼してから、口に何もない状態にして話し始めた。
「そうだ、それですよ。最初からヒントはあったんですよ!」
「も、もしかしてお師匠様……暗号が分かったんですか!?」
「ええ、正確には暗号鍵がある場所です。パイ君、図書テントに向かう途中、誰かに出会うかどうか占ってくれませんか?」
「と、図書テント!? 無許可で入ったら怒られますよ……」
「それでも、です」
「わ、わかりました……占います……」
冗談でないことがわかり、パイは今までとは違い真剣に星見を開始した。
「星の精霊よ、その美しき瞳の力の一端を我に授けたまえ――〝
料理屋のテントの中が、パイを中心に明るくなった。
パイの周りに暖色の透明な壁が現れ、周囲を覆ったためだ。
何事かとやってきた店主も、その光景に目を奪われてしまう。
「障壁に投影された星の位置からして、んー……ここをこう読み解いて、現状と照らし合わせると……今から特定のルートなら、30%くらいの確率で望みは叶うでしょう」
「30%なら今のタイミングで行く価値はありますね。行きましょう!」
「おう、善は急げだぜ!」
希望を乗せた表情で店から出て行こうとしたのだが――店主に呼び止められた。
「お、おい……盛り上がっているところ
「ああああああいつもいつもあたし、不出来なスターゲイジーがすみませんすみませんすみませぇぇえん!!」
多めにお金を払ってから、気を取り直して出発するのであった。
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