初めてのスキル選択
「生徒のスキル開花システム……私様のは――っと……これだよな」
メラニは、フェアトの右側に引っ付くようにして手稿のスキル項目を確認する。
現時点では六個選べるのだが、よく見ると必要ポイント、解放条件、効果などの細かなコメントが書いてあった。
「なぁ、アキ。この必要ポイントってどんな感じなんだぜ?」
「あ~ん? 意外と細かいなメラニ。そうだなぁ。手稿に価値あることを書き込むことで溜まっていくポイントで、本当だったらすげぇ溜めるのが大変なんだけどよ~……フェアトの奴が異常な勢いで溜めていくから、長い目で見れば結構な数のスキルが取れるよ」
捻くれているせいか、機嫌が悪そうに答えるマギス・アキ。
しかし、きちんと答えてくれる辺り面倒見が良いのかもしれない。
「それじゃあ、どれを最初に取った方がいいか、という基準になるわけか……ありがとうだぜ!」
「ブックック! いいってことよ! 当方は女に優しい!」
「その割には男の先生とも仲が良さそうな気がするぜ……?」
実は女の子に優しいと見せかけて、男である先生を狙っている可能性もあると念のために警戒しつつ、スキルのコメントに目を通していく。
【メラニ】
【授業効率Ⅰ×】授業全般の能力値が上昇しやすくなる。解放条件はフェアトとの一定以上の親密度と、二人目の生徒を迎えること。
【門の射程Ⅰ×】英雄の教室の門を発生させる射程距離を上げることができる。解放条件は一定回数の門使用。
【移動速度Ⅰ×】走る速度が上がる。解放条件は一定距離を走ること。
【馬蹴りⅠ×】馬蹴りの攻撃力をアップさせる。解放条件は一定回数の馬蹴り使用(条件未解放)。
【一時的解呪Ⅰ×】月夜の晩以外も人間の姿に戻れるようになる。解放条件は???
【究極スキル×】??? 解放条件は???
「んん~、なるほどだぜ~」
一通り確認したメラニ。
今あるポイントを考えると、選べるスキルは二つ分程度だろうか。
解放されていないスキルのために溜めておくという手段もあるが、解放条件のわからない【一時的解呪Ⅰ×】と【究極スキル×】を待つというのは非現実的だ。
「【一時的解呪Ⅰ×】は個人的に魅力的だけど、現時点だと却下だぜ。【馬蹴りⅠ×】は……割と条件が緩いから解放を目指せそうだけど、私様の馬蹴りが強くなってもなぁ……優先度は低いか」
消去法的に残ったのは、今すぐ取れる三つ――【授業効率Ⅰ×】【門の射程Ⅰ×】【速度Ⅰ×】だ。
「【授業効率Ⅰ×】……これは授業全般の能力値が上昇しやすくなると書いてあるから、先に取っておくのがよさそうだぜ。よし、一つ目はこれにしよう! 先生、頼むぜ!」
「はい、頼まれました」
フェアトが意思を籠めてページに指を触れると、表記が【授業効率Ⅰ×】→【授業効率Ⅰ】に変化した。
×が取れて、取得した状態になったという意味だろう。
メラニは自らの身体に何か変化が起こったかと思ったが、特に何も感じなかった。
「私様の身体が光るとか、派手なことは起きないんだな」
「ブックック!
「それじゃあ、授業の時間を楽しみにしておくぜ。……さて、残り一つはどうしようかな」
ポイント的に【門の射程Ⅰ×】【移動速度Ⅰ×】のどちらか片方を取得できる。
メラニとしては、門の射程が伸びたところで良いことは何もない気がしている。
たとえば、家の玄関部分が伸びたところでそれのメリットというのがわからないからだ。
一方、移動が速くなるスキルというのは常時恩恵がある。
普通なら【移動速度Ⅰ×】を選ぶところだ。
しかし――
「うーん、何か引っかかるぜ……」
素直に【移動速度Ⅰ×】を選ぶことができないのだ。
理由としては、日々フェアトから受けてきた授業のせいかもしれない。
印象深かったのが先日の授業であった『短い時間で強制的に消えてしまう失敗術式。これを応用して、被術者の体力消耗が激しい回復魔術を体内に常駐させて、怪我が治るタイミングで自動的に消滅させる。こうして患者を常時診なくても済むようになって効率が上がった』というものだ。
このように様々な知識を得ていくことによって、無駄と思える要素が工夫で素晴らしいモノに変化するということを知ってしまったからだ。
「メラニ君、ゆっくりと落ち着いて考えていいんですよ」
スキルという希有な事柄でテンションが上がってしまっていたのだが、いつものフェアトの声を聞いて心が落ち着きを取り戻し、冷静になってスキル効果を整理することができた。
【移動速度Ⅰ×】の有用性はわかりきっている。
今考えるべきは【門の射程Ⅰ×】だ。
外で門を開けるのは自分の目の前だけである。
それが目の前から、遠くへ門を開くことができるようになる。
何のメリットがあるか?
自分が入るだけなら現状でも問題はないはずだ。
射程が伸びるということは、自分以外に関係がある。
という柔軟な思考に至った。
「ん……自分以外に門を使って助かったこと……。ッそうだ、あったぜ!」
授業だけでなく、実際にフェアトと行動したことによって閃きを得た。
そう、門を使って追っ手からの逃走に成功したことだ。
「門の射程が長くなれば、もっと柔軟なタイミングで逃がすことができる。それに逃がせるのは何も味方だけじゃないぜ……!」
「良いところに気が付きましたね。メラニ君の可能性が大きく成長します」
「よし、私様は残りのポイントで【門の射程Ⅰ×】を取るぜ!」
「はい、では――」
フェアトが以前と同じような操作をして、【門の射程Ⅰ×】から【門の射程Ⅰ】に変化させた。
今回は【授業効率Ⅰ】と違って、すぐに試すことができる。
「どれどれっと――おぉ! 二メートルくらい遠くまで届くぜ!」
人間で言えば手を伸ばしたさらに先くらいの距離だろうか。
以前の鼻先くらいの射程と比べて、随分と届くようになったものだ。
「なるほど、素晴らしい。スキルというのはかなり効果があるようですね。私も手稿に色々と餌を与えたかいがあったというものです」
「えへへ」
頑張って考え抜いた結果、フェアトに褒められてメラニは嬉しくなってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます