生徒のスキル開花システム

 早朝、フェアトは全員を教室に集めていた。

 フェアト自身は教壇に立っているのだが、メラニはワクワクした視線を、パイは何が始まるのかとドキドキした表情を向けてきている。

 ちなみに生徒ではないが大事な仲間の一人であるニュムは、天井近くで気楽にフワフワと浮きながら寝っ転がるポーズをしていた。

 妙に落ち着いている。

 この英雄の教室に住み着く精霊なので、大体の事情を感じ取っているのだろう。


「今日は授業の前に聞いて頂きたいことがあります」

「先生、それってアキのことか~?」

「あき? それはいったい――」


 何も事情を知らないパイが聞き返した瞬間、フェアトが持っていた手稿は軽快に喋りだした。


「よう、お嬢ちゃん! 当方はマギス・アキ! 手稿に組み込まれたイケメン人格だ!」

「キエェェェシャベッタアアアアアアアア!?」


 パイは常識では考えられない本が喋るという事態に混乱しているのだろう。


「おいおい、驚きすぎだよ。まぁ、特異な存在過ぎる当方だ。しょうがないとも言えるが――」

「ハァハァ……自分からイケメンとかサラッと言えるとか、絶対に陽キャの人――もとい陽キャの本ですよ!? うぅ……占い以外で陽キャさんと話すと陰キャ部分が刺激されて死にたくなる……」

「……い、意味がわからない!? 当方、自分が特異というよりまともな存在に思えてきたよ……」


 この教室の住人はアクが強すぎて、自らが霞むのではと気付きつつあるマギス・アキであった。


「はい、自己紹介は終わりましたね。では、本題に入ります」

「サラッと流したな、さすが先生だぜ……」


 まだ心臓をバクバクさせて『アァァァ……』と魂を出しているパイをスルーして話を進めていく。


「皆さんをお呼びしたのはワケがあります。僕が使っている手稿がレベル2になったことにより、このマギス・アキさんが発生。それと同時に――〝生徒のスキル開花システム〟という項目が出現しました」

「あ、ちなみにシステム名諸々をつけたのは当方な」


 手稿を開くと、そこにはこう書いてあった。


【生徒のスキル開花システム】


【メラニ】

【授業効率Ⅰ×】

【門の射程Ⅰ×】

【移動速度Ⅰ×】

【馬蹴りⅠ×】

【究極スキル×】


【パイ・スターゲイジー】

【授業効率Ⅰ×】

【占い的中率Ⅰ×】

【占い速度Ⅰ×】

【占い強度Ⅰ×】

【水晶玉投げⅠ×】

【究極スキル×】


「おー、私様とパイの名前があるぜ……」

「ありますね……。お師匠様、これはいったい?」


 パイに問い掛けられたフェアトは、マギス・アキの受け売りとなる説明をしていく。


「どうやら手稿の所有者である私の生徒……つまり、あなた達に与えられるスキルみたいですね」

「スキル……?」

「スキルとは――」


 ――資格ある生物が発動させることができるとされている特異な力、それがスキルである。

 魔術師の魔術と似ているが、基本的に魔力は消費せず常時発動、または任意発動でクールタイムが設けられている。

 しかし、魔術ですら使える人間が限られているのに、スキルはさらに使える存在が少ない。

 戦闘職である兵士や冒険者は訓練をして強くなるが、それは筋力や、魔力による身体強化を伸ばしているだけだ。

 そこにスキルの力を使える存在がいたとしたら、他者と比べて一段飛ばしで強くなるという。

 名のある王、貴族、将軍、聖者、上級冒険者などはどのようにしてかスキルを入手しているという。

 噂では血族による継承、希少なアイテム、特定条件での厳しい修行、教会での洗礼、上位存在の加護で得ることができると、まことしやかに囁かれている。

 今のところ様々なところからの圧力で、正式な情報は出回っていないらしい。


「――という感じですね」

「なるほどだぜー。でも、上位存在の加護って……先生が使ってる星弓もスキルなのか?」

「ああ、言われてみれば! あとで手稿に書き込んでおきましょうか……。ええと、話を戻しますと、そのスキルを生徒達に与えることができるようなんです」

「つ、つまり、私様も先生みたいな格好良い必殺技を使えるようになったりするってことか!?」

「必殺技はどうかわかりませんが……、ええ、はい。たぶんそんな感じです。ですが、これすらも授業だと私は考えています」


 その言葉の意味がわからず、メラニは首を傾げてしまう。


「どういうことなんだぜ?」

「それは、自らの手で選んで欲しいということです。どのスキルを取っていくか」

「えぇ……大人の先生が選んだ方がいいんじゃ……?」


 スキルという重要性が何となくわかってきたメラニは、そんなものを子どもの自分が選んでいいのかと不安になってきた。

 それを『ブックック!』と笑うマギス・アキ。……笑い方は突っ込んではいけない。


「当方も最初はそう思って『フェアトの手稿なんだからテメェで決めちまえ』と言ったんだが、今みたいに生徒の自主性に任せるとか言い返されたよ」

「せ、先生……どうしてなんだぜ?」

「うん、たしかに僕が自分勝手に選んだ方が効率もいいでしょう。これが生死がかかったダンジョンの中とかだったら、私もそうします。しかし、今は授業中です。何を選ぶかを自ら考え、そこからも様々なことを学び取ってほしい」

「――だ~とよ? ほんっと人間って面倒臭いよ」


 フェアトとしては、マギス・アキに呆れられてしまっても気にしない。

 これは教師と生徒の問題なのだから。

 それをメラニとパイも感じ取ったのか、コクリと頷いた。


「わかったぜ、先生。真剣に考えて選んでみるぜ」

「あ、あたし程度がこんなにも尊重されるなんて……」


 こうして生徒二人によるスキル選びが始まったのであった。

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