星見の里の落ちこぼれ

「これはすごいぜ……」

「ええ、何というか……」


 メラニだけではなく、フェアトも動揺していた。

 そのテントの外観が凄まじかったからだ。

 どう凄まじいかというと、他のテントとは違い、カラフルさが一切ない。

 むしろ、ヘドロを被ったかのような――どす黒い外観だ。

 動物の頭蓋骨や、血文字の御札、干したヤモリなどで飾られている。

 こぢんまりとしているのだが、威圧感だけは大きく感じてしまう。

 一言でいえば呪いのテントだ。


「ど、どうですか、あたしのテント。雰囲気ありますよね!?」

「あ、ああ。すげぇ強烈だぜ……」


 一応、あったばかりの相手なので気を遣うメラニだったが、フェアトはストレートに発言をしてしまう。


「占いと呪術って、どこか似てる雰囲気がありますもんね」

「うわあああああん! やっぱりダメなんだ、あたしのテント!? お客さんが全然寄ってこないと思ったさー!!」


 泣き崩れてしまう占い師、固まるフェアト。

 メラニはボソッと呟く。


「泣~かした~、泣~かした。せーんせーに言ってやろ~」

「……僕が先生ですけどね。いや、申し訳ないです。配慮に欠けていました」

「うぅ……ひっく……それじゃあ、ちゃんと逃げないで占いを受けていってくださいね……」


 どうやっても逃げられなくなった二人は、テントの中へ案内されてしまった。

 中は薄暗く、蝋燭の火だけが頼りだ。


「では、そこにある用紙に名前や御職業の記入をお願いします……!」

「わかったぜー、って、先生?」

「ああ、メラニ君の分は僕が書きますので」

「え、でも頑張れば馬の足でも書け――」

「ハハハ、いいからいいから」


 フェアトは笑顔を見せてから、二人分の用紙に記入していった。

 それを占い師に手渡す。


「よろしい、では、占いを始めます。星よ~星よ~キラキラ光るお星様よ~。ハーッ!! トゥインクルスタァァァア!!」


 何か雑すぎる雰囲気を感じたため、メラニは冷めた眼で見ていた。

 本当にコイツの占いが当たるのかと半信半疑だ。


「まず、あなた達は捜し物をしていますね!」

「なっ!? なんでそれを知っているんだぜ!?」


 呪いの解き方を捜す旅という目的は伝えていないはずだ。

 メラニは驚いてしまった。


「胸の奥底に情熱を秘め、進んでいる最中! ですね!」

「た、たしかに先生は変態的な情熱を秘めて驀進しているぜ……! すごい、コイツは本物の占い師だぜ!!」

「ふむ……」


 大はしゃぎするメラニに対して、フェアトは非常に冷静だった。

 それを見て、占い師はビシッと指を差す。


「フェアトさん、次はあなたのことを詳しくいきましょう!」

「どうぞどうぞ」


 占い師は机の上に置いてあった水晶玉らしき物に手をやり、パワーを送るような仕草をする。


「うーむむむむ……見えます……見えますよ……これはぁぁぁ!!」

「見えましたか、どんな感じですか?」

「フェアトさん!! あなたは料理人として最高の食材を求め、人生最高のフルコースを決めようとしていますね!!」

「違いますね」


 フェアトはニッコリと笑顔で答え、占い師は固まった。


「あ、え……その……最高の食材を求めていますよね?」

「いいえ」

「じゃあ、料理人……?」

「違いますね」

「……そちらのユニコーン様の御名前はフタコブラクダで、御職業は観光案内」

「すみません、嘘を書きました。本物の占い師さんかどうか試すために」

「もおおおおおおしわけございません!! 本当は全然占えませんでした!!」


 超高速で土下座を繰り出してくる占い師、顔を上げさせようとするフェアト。

 メラニだけが状況を理解できていなかった。


「え、どういうことだよ? だって、最初は占いがバシッと当たっていたぜ……?」

「んー、それは占いというか心理学ですね。バーナム効果と言います」

「バーナム効果?」


 バーナム効果とは、大昔の王バーナムが占い師に対して行った逸話から名付けられたモノである。

 端的に言えば、誰にでも当てはまるようなことを言えば、それを勝手に自分のことだと思い込んで占いだと信じてしまう効果だ。


「占い師さんが言ったのは『あなた達は捜し物をしていますね』でしたね」

「あ、ああ……」

「そりゃ、占いをしに来ているのですから、〝物品〟や〝事柄〟……または〝悩みの答え〟など多種多様な何かを探しているのは当然ですね」

「た、確かに……!」

「『胸の奥底に情熱を秘め、進んでいる最中』というのも、まぁわざわざ星見の里までやってきているのですから、当てはまる可能性は高いですね」

「そう言われると、確かにインチキだ……。もしかして、星見っていうのはすべてインチキで――」


 メラニの言葉に、土下座していた占い師が声をあげる。


「ち、違います! 星見自体はインチキではありません!!」

「いや、だってさ……」

「あたしが星見の的中率が低すぎる落ちこぼれだからです……」


 その言葉にフェアトは眼を輝かせ、占い師の両手をギュッと握った。


「あなたは星見の知識があるのですね!? 希少な星見の知識! 詳しく聞かせてください!」

「うっひゃあ!? 手……手を離してください!!」


 なぜか占い師はジタバタと暴れ始めた。

 その拍子にフードが脱げて、メラニだけが理由を察した。


「あ~……」


 淡い銀色のショートカット、くりっとした大きな銀の眼、ついでに可愛らしい猫耳と尻尾も生えていた。

 フェアトからの知識欲の熱視線に耐えきれず、必死に顔を逸らす〝女〟占い師。

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