準備は大事、三つの射術を修行

 星見の里へ行くために準備しなければならないことはいくつかある。

 移動中の食糧の確保、危険な森の中を移動するための射術練習、ケガをしたときのための薬草採集などだ。

 それらを解決するために、〝英雄の教室〟空間にある森にやってきていた。

 外のモンスターがうろつく森と違い、猪や鹿などの野生動物しかいないため、比較的安全と言ってもいいだろう。


「射術の修行で狩りをして、そこで得た肉を保存食にする。ついでに移動中に薬草を見つけたら摘んでおく。一石三鳥ですね」


 フェアトは一人、森の中を歩く。

 まだ日は高いが、高い木々に遮られて少し薄暗く感じる。

 獣からの警戒する視線、草木のざわめきもあって非日常の雰囲気だ。

 古くより人々が、森を神聖視したり、恐ろしい場所だと認識していたのも納得できる。


「恵みをもたらしてくれて感謝致します。……森信仰はしていませんが、そういう気分になってしまったので」


 誰に言うでもない独り言だ。

 声に出して現状を確認するという意味もあるので続けていく。


「さて、試したい射術は三つ。そのどれもが外の森でやったことがあるので、精度を高めていく感じですかね」


 フェアトは手の中に星弓を出現させた。

 体内の魔力を吸い上げられる感覚があったが、以前よりは長く使えそうだ。


「一つ目は剛力射術。これは立ち止まり、集中して一射に強い魔力を籠める射術です」


 鳥型のモンスターを撃退した射術。

 利点としては、一撃で大ダメージの貫通を与えることができる。

 欠点としては、構えている最中に動くことができないのと、一発の魔力消費が激しいことだろうか。


「剛力射術は命中精度と威力を伸ばす方向性ですかね」


 遠方に見えた鹿に狙いを定め、矢を放つ。

 見事命中。

 胴体に大きな穴が空き、鹿は痙攣した後に動かなくなった。


「命中……ですが、うーん……狩りとしては0点ですね」


 内臓まで大きく傷付けてしまい、糞尿なかみが飛び散ってしまっている。

 周囲を汚してしまうし、運ぶときに衣服も大きく汚れてしまう。

 それに食肉用としては、臭くなってしまったり、砕けた骨の破片が混入たりする危険もある。


「メラニ君とニュム君に食べさせるわけにはいかないので、僕用にしますか」


〝英雄の教室〟内なら呼べばやってきてくれるニュムに頼んで、血抜きをして内臓を出し、川まで運んで投げ込んでもらった。

 これは仕留めた獲物を川で冷やすことによって、鮮度を維持するためだ。

 狩猟の本で読んだ知恵である。


「では、気を取り直してもう一度――!」


 今度は別の鹿に狙いを定め、剛力射術を放つ。

 前回と違い、命中したのは頭部だ。

 普通は硬くて矢が通らないこともあるのだが、剛力射術なら頭蓋骨も貫通させることができる。

 見事一撃で仕留め、肉も良い状態で手に入れることができた。


「さてと、次の獲物を探すついでに――蜘蛛射術の修行もしますか」


 矢に魔力ワイヤーを付けて、自分自身を引っ張り上げる射術である。

 大穴の中で死ぬほど練習したのだが、横方向の移動も慣らしておきたい。

 樹上に魔力ワイヤーを付けて、木々を移動していく。

 これは使用期間が長かったのもあってスムーズに使えるようだ。


「お、あそこに猪がいますね。最後の射術――神速射術を試してみますか」


 一番難易度の高い射術。

 スキル神速と星弓を組み合わせて、高速移動中に矢を放つというものだ。

 ダイアウルフ相手にぶっつけ本番を挑むも、狙いが定まらずに失敗してしまった。

 これからしばらくの間は、この神速射術をメインに修行することになるだろう。

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