次の目的地
フェアトがケイローンから頼まれたのは二つ。
一つは――メラニの教師になってくれということだ。
これはメラニから『先生』として認めてもらえたし、今日から教室で授業を始めたのでクリアだ。
「先生、馬の姿でも意外と字を書けて驚きだぜ……」
メラニは黒板を見ながら座っていた。
具体的には犬のちんちんポーズに近い。
空いている右前足にフェアト手作りペンアタッチメントを装着して、ノートに文字を書いている。
ちなみに備品は最初から置いてあったものだが、あとで街などから補充した方がいいかもしれない。
「さてと、初日なので授業はここまでにしておきましょうか。少し話したいこともありますし」
「ああ、うん。わかったぜ」
メラニが一息吐くと、前足のペンアタッチメントがニュムによって外された。
ノートの片付けなどもニュムが行っている。
どうやら下級精霊時代から世話をしていたらしく、そこらへんの記憶が曖昧でも手慣れたものである。
「さて、ケイローン様から二つの頼まれ事をされました。一つはメラニ君の教師になること。これは達成ですね、地道に授業を続けていきましょう」
「は~い。先生の授業わかりやすいから続けられそうだぜ~」
「そして、もう一つの頼まれ事が――メラニ君の呪いを解くことです」
「私様の呪いを……? ど、どうやって?」
急に自分の悩んでいた呪いを解くと言われ、メラニは困惑気味に四本足で立ち上がった。
フェアトとしては、デリケートな部分なので言葉を選んで慎重に紡いでいく。
「まず、残念ですが、すぐに解呪できる手段を僕は持っていません。ただの教師ですから」
「そ、そりゃそうだよな……うん……」
「ですが、智慧を蒐集することによって解呪の手がかりを得ることは可能だと考えています」
フェアトは呪いについて、様々なことを考えていた。
まずはメラニが呪いを受けた状況。
これは誕生日パーティーで唐突に、ということらしい。
どうやって呪いをかけられたか、というのは前例がないので推理は難しい。
誰がかけたか、というのもこれほどに強力な呪いの使い手なら遠所からの可能性もある。
安易にメラニの周囲の人間が犯人と決めつけては、メラニの精神的負担もあるだろう。
いずれ家族や友人の調査はしなければならないが、様々な意味でメラニが強くなってからの方が良さそうだ。
では、どうやって呪いのことを調べるか。
候補かいくつかある。
北の方にある大魔法図書館。
呪いに詳しい西の魔女。
南にいるという神獣ユニコーン。
東にある失われしルーンの石碑。
ただ問題としては、どれも距離が遠いということだ。
これらを行き来しては時間がかかりすぎる。
まずはどれを調べれば解呪の確率が高いかを知りたい。
そこでフェアトが考えているのが――
「ケイローン様も使っていた、星見を頼りましょう」
「星見……? たしかお爺様が使っていた占いの一種で、先生が大穴にやってくるのも予知していたっていうアレか……」
「正解です。あとでノートに取っておきましょう」
「はーい……はっ!? もうすっかり先生と生徒になっちまったぜ!」
まだ数日前には反抗期のような態度だった自分を思い出して、メラニは少し恥ずかしくなってしまった。
何というか距離感が近い。
そんな少女の機微を理解できないまま、フェアトは話を続ける。
「この近くに、星見を生業とする一族の里があるようです。そこへ向かうことにしましょう」
「なるほど! そこで占ってもらえば、どうやって呪いを解くかがわかるってことだな! お爺様の星見もすごかったし、すぐに解決できそうだぜ!」
「まぁ、そうなってほしいのですが……」
「どうしたんだぜ?」
「いえ、何でもありません。星見の里へ向かうための準備を始めましょうか」
メラニは、フェアトの珍しく不安げな表情に嫌な予感がしていた。
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