第5話 二日目
二日目は本屋の隣に移動販売のカフェが出来たと聞きやってきた。
こじんまりとしたカフェには、簡単な軽食メニューとドリンクがあり、折りたたみのテーブルとイスが設置されていた。一応カフェの旗と看板が出ている。
紙コップに注がれたリンゴジュースを飲みながら、うららが話した。
「ねえ、わたし達あややと特別なことできているかな。面白いことできているかな」
「三日連続で遊べるし?午前中もうちで映画見ながらお菓子沢山食べたじゃん」
きららが不思議な顔をして答える。
「そうじゃなくて。明日あややは引越しちゃうんだよ。今日一日、特別になっているかなって」
あややはうららの言葉に息を飲んだ。
昨日はプールに行って、ハンバーガー食べて、買い物して。今日は家で映画を観て、カフェに来て。このあとはスイカ割りと花火と…時間が過ぎ去るのが早い。
「この前あやや言ったよね。面白いことやりたいって」うららがあややを見つめる。
普段は物静かなうららと様子が違い、二人は戸惑っている。
「みんなでスペシャルな計画を立てたじゃん!」
「悪くないけど、それって面白くてびっくりするようなことかな…」
「えーとつまり…?」苦笑いをしたきららがうららに聞くと、
「計画変更。もっと面白くて、忘れられない計画に変更しようってことだよ!」
「えー!!」
うららの提案に、きららとあややは顔を見合わせ声を上げた。
***
突然の計画変更。
あややもきららもびっくりして声が出てしまった。
普段は冷静沈着で物静かだと思っていたうららが突然あんなことを言い出すなんて。
きららは「今更ムリ」と言おうとしたら、あややが「それいいね!」と立ち上がった。きららがぽかんとすると、あややは計画変更してもっと面白いことしようと言った。
「もうお昼過ぎているし時間そんなにないよ?」と焦る、きらら。
「わたし達だけでわくわくできることある!」
あややときららの顔に不安が滲み出ている。
「これ見て。さっき図書館でもらった」とうららがチラシを取り出した。
チラシには数十年に一度の流星群について書かれてあり、まじまじと見たあややが意を決して力強く言った。
「いいね!わたし達だけで星を見に行こう」
「いやいやさすがにムリで…」と焦るきららを遮り、うららが「行く!」と一蹴した。
今夜は晴れの予報。星を見るなら川沿いにある公園が星の絶景スポットかもしれない。
というわけで、当初の計画から今夜は180度違う計画に変わったのだ。
***
(来ちゃった、来ちゃった。親に黙って来てしまった)
深夜12時。わたし達はジャングルジムの上で星を眺めてる。
夜空には雲一つなく、あるのは公園の街灯と無数の輝く星だけだ。
本当なら今頃は布団の中にいるはずの時間だ。家を抜け出して公園にいると親にバレたらと考えると胸がドキドキと高鳴る。
深夜なのに眠くない。
***
ジャングルジムを下り大きなタコ足の滑り台に移動した。ここならゆっくりお別れパーティーができると、レジャーシートを引いて座り込んだ。
「例のもの持ってきた?」
「もちろん」
「忘れるわけないじゃない」
あややは、パジャマのズボンに忍ばせていたチョコレートクッキーを取り出すも暑さでチョコレートが少し溶けかけていたが、オレンジジュースで口の奥へ流し込んだ。
ピンクやペパーミントカラーのマシュマロをうららはぽいっと口に放り投げ、きららもサワークリーム味のポテトチップスを取り出しバリバリと食べだした。
「ふふふ、夜中にお菓子をたくさん食べちゃうと太っちゃいそう」
「今夜は特別ってことで。大好きなチョココロネを持ってきたから食べようっと」
「一生に一度だけだからと・く・べ・つ」
学校の話や新しい街のこと、少女たちのおしゃべりに花が咲いていた。
突然きららが「じゃーん」と小さなブリキの缶を取り出した。
「かわいい箱だね!何が入ってるの?」とあややが興味津々で聞いた。
うららがきららにこそっと『高い頂き物』と目配せすると、にししと笑った。
エトワールと書かれた銀色のふたをゆっくりと開けると、丸や四角、星や花の形をしたクッキーが所せましと詰められ、わたし達は一斉に声を上げた。
「わあ!宝石みたいだね」
「絶対美味しいに決まってるよ」
「可愛すぎて食べれないかも」
甘酸っぱい木苺のジャムサンドクッキー、ほろほろと口の中でとろけるスノーボール、ココナッツとチョコレートサブレ、どれも甘い香りでわたし達を包み込んだ。
「あやや、口の周りに粉がついてる」
「美味しすぎて止まらないんだもん」
「太っちゃうわー。けど美味しいから、まぁいっか~」
そうこうしているうちに楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、星空のお別れパーティーは終わりを告げようとしている。
「星、綺麗だね」とあややがふと夜空を見上げて呟いた。
「本当。家から見る星空とは違う気がする。ずっと星が近くに感じる」
「あれは天の川かな…?あっちの星はキラキラしている」
「新しい街でも同じように星見えるかな」
沈黙が続く中、三人は空を見上げていた。
手を上げた隙間からチカチカ瞬く小さな光が見えた。
小学校を卒業したら同じ中学、高校に行って、ずっと変わらず続いていくと思っていた。明日から新しい街で、二人がいない生活になる。わたしはもうこの街にはいない。
「新しい街に行っても、きららとうららと同じ星が見えるんじゃないかな」
すっと小さな流れ星を星を見つけ「今夜のことをずっと忘れませんように」
わたし達は流れ星に願いをし自宅に戻った。
秘密のお別れパーティーは終わったのに、興奮して眠れない。あややは今夜の出来事を思い出し、きっと大丈夫、新しい学校でも大丈夫だと念じながら、まぶたを閉じた。
「お星さま、ありがとう」
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