第7話 X40寄生
「ああ、いい部屋だろう」
かもめ荘の管理人さんが愛想笑いをしながら言った。
ぼくの名前は紀S。仕事で引っ越してきたぼくは、安上がりの賃貸アパートを探している。
見つかったのはこのかもめ荘。
それにしても、東京か。
なんかイメージと違う。ぼくの思う東京は人がいっぱい溢れている。そして誰も走っている、走っているだけでなく、走りながら朝食をする、走りながらスマホを見る、走りながら通勤ラッシュに巻き込む、毎日忙しなく仕事をする。けど、そんな場面は見れなかった。
東京は広いからだろう。広いからそういう東京の中にいるのに、そのエリアだけが大都市に似つかわしくない異なった雰囲気を醸している区域もある。ぼくのいる街は人もまばらで、道を歩いていたら一人もいなくて死の静けさだけが渦巻いて本当に怖かった。何か特殊な力によって、人々が立ち寄らないようにしているんじゃないかと思われてしまう。
「聞いた話では、この屋敷は事故物件だそうなんですが」
「とんでもございません。幽霊なんか不現実ですよ。ただ、虫が多いことで、あまりいい噂がないだけですにょdぎゃねっvその虫が多い噂も、いつの間にか事故物件だのという噂に塗り替えされたんです。全くもってヤツらは」
「虫? 噂になるくらいそんなに酷いんですか?」
「それはまあね」
虫くらいはいいだろう。ぼくは虫とか怖がらない。家賃も普通のアパートよりかなり低いし、環境も、出来栄えも上出来だ。そういうわけで住む場所をここにすることにした。
屋敷は二階建てで、ぼくと管理人さんの二人を除けば、ここに住む同居人はまだ三人いる。貸し部屋はまだまだあるから四人増やしても貸し出せると思う。
リビングの客間は共用。リビングはテレビも付いていて、テレビを見たい時や他の同居人と会話したい時もここにする。
住むこと三日経ち、会社からの帰り道、ぼくは色々考えていた。なぜかここに限って人はあまりいない。市中心へ行くと人が一気に湧いってくるけど、ここにくると凄まじいほどの荒涼感が一気に襲ってくる。何かが深く関わらない方が良さそうな感じがして、立ち止まってしまう。夜になってもここいら一帯は街灯が一向についてこない。夜道が暗くて散歩もできない。
部屋に料理は一切できないので、食事は外食と出前の二択ほかなかった。
今日も出前を呼ぶ段になって、外から無人区域に非常食を送り込んでくるような感じだった。大都会なのに田舎にいるみたいだ。
客間を借りて食事する。
同居人の健治さんは客間で本を読んでいる。
「おや? あなた、新しい同居人やないか」
「はい、紀Sと申します」
「初めまして、同じかもめ荘に住んでる健治です。どうかな、もうここの暮らしは慣れた?」
部屋に引っ込みがちなぼくはまだここの同居人と挨拶していない。
「まあ、お気遣いありがとう。すっかり慣れたよ」
「それは何よりだ。近くはショップも料理屋もないから、初めは大変だと思うよぎょげーえげ時間があれば、一番近い料理屋に連れてあげるよ」
ぼくの視線は彼の持っている本へと向かった。
「その本、面白い?」
「結構面白いよ」
「どんな本?」
「読みたいなら貸してあげるよ。『無理ゲーしすぎた転生』という、いわゆる転生系ラノベっていうやつか。最近、こういうのが好きかもえkウェnヴァ部屋に何冊もあるよ」
なんか管理人さんといい、この健治という同居人といい、彼らと話を交わす時、たまに意味のない言葉がその中に混ざっている。意味がないからスルーしたけど、長く続いていたら違和感も覚えてしまう。
それに、管理人と健治はとこどなく変な匂いがする。空気中に漂っているその匂いに虫たちは引き付けられ、集まってくる。
「ただいま」玄関から中年男と女の声が聞こえた。
夫婦の大島さんと佳奈子さんの二人組だった。
「こんばんは、初めまして、紀Sと申します」
ぼくは立ちながら挨拶する。
「おお、噂の新人さん。こんばんは、私は花屋の大島です。こちらは妻の佳奈子おんぎょgえん」
とりあえず挨拶は交わした。
この三人と当たり障りのない話をして、ぼくは部屋へ帰ろうと立ち上がった、と、その途端、ぼくは変にぐらついていた。
「大丈夫か」
「はい、少し疲れたかもしれない」
ぼくはおいとまを告げて頭を抱えながら部屋へ戻った。
頭が痛い、まるで中に何か入っているような感じだ。時間はまだ早いが、今日はもう寝よう。
————
一週間後、紀Sさんはいつも通りに会社へ通い、仕事をした。夕方になってかもめ荘へ帰ろうとすると、黄色い通行止めテープが貼られて近くのすべての道が封鎖された。
予想内のことだ。紀Sさんはテープをくぐり抜けて中へ入った。
しばらく帰り道を歩いていくと、近所の人と出会った。紀Sはその人と軽く挨拶し、また前へすすむ。
「ただいま」
かもめ荘に入り、玄関から客間を覗き込む。そこに健治と大島がいた。
二人を見て、紀Sはにっこりと笑い、話を交わした。
「お父さん、テレビ見ているのびびぃげ? 私たちのことはバレたと思う。ニュースを見て」
紀Sはテレビを開けて見る。
何でも日本の東京で危険な寄生虫X40が発見され、大範囲な封鎖が行われている。その虫はなんとまあ、人の脳を食べた後、その人の記憶を継承して体を乗っ取る。また、寄生された個体は、変な匂いと、時々無意味な言葉を口にする特徴があるという。
そのニュースを見て、健治はせせら笑う。
「人間はいつでも愚かなんだ。そんな虫いるわけないだろう。我々は人間だ。なんてね」
紀Sは健治の話を聞いて、共に笑った。
「お父さん、お父さんの本体が見たいわ」
隣に座っている大島は「はいよ」と了承した後、手の指を健治の両目の穴に差し込んで、力任せに頭蓋骨を開けた。
寄生された人間の骨は脆い。
脳があるはずの頭の中に、脳はもうなかった。代わりに蝿のような一匹の虫があった。蝿といえど、大きさは拳くらいで、目は三つもある。
「まったく、こんなに開けたら、この体はもう使えないぞ」
「心配ない、明日から新しい同居人が来ると管理人さんは言った。その人を乗っ取ればいい」
「それは、最高だね」健治は言う。
————————
この小説は、遊び半分で書いたものなのです。
ホラー小説を読むことも書くことも苦手なのに、なぜ書いたのかわかりません。
とはいえ、もう最終章です。
そんな中途半端な短編小説を書いたのですが、次回は本格的に小説を書こうと思います。よろしくお願いします。
では。
ホラー短編小説集 小友幸 @otomosati
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