第5話 葬儀で笑う人

 知らない親戚の葬儀の日、その式場でめちゃくちゃ笑う人がいた。そういう人がいたら、即退場しよう。

 親戚の人がいなくなられて、傍系家族には最少でも一人で参列しなければいけないしきたりがある。

 それは二日前のことで、明日、葬儀が行われるという。

 両親は当日互いにやらなければならない仕事があって、ぼくを式場に行かせる形となった。

 親戚とはいえ遠ざかった遠戚である。死者の年齢も名前も知らないのだ。

 それに、葬儀の式場に入ったものの、中に見知りの人はいなかった。これはなかなかの遠戚だ。もしかして参列しなくても大丈夫くらいなのでは? 誰でも知らないし、バレることもない。

 そうは言っても、もう来たことだし、今さら踵を返すのは失礼だ。せめて建前を示そう。

 式場に人が二十人くらい、屋敷の外、中庭は一人もいなかった。

 入場して気付いたことは一つ、本来、死者の遺影写真は正面の中央にかけてあったはずだが、どこにも見かけなかった。

 「ハ、ハハハ……ハハ……」

 馬鹿にうるさい笑い声が室内に響き渡る。内心いぶかしげに声の方へ向けてちらっと見ると、あれは四十がらみの男だった。

 着用している服も弔問者の着る喪服ではなく、普段の着る服だった。

 顔は白蝋のように白けていて、眼球の中に瞳がなく、白眼を剥いたまま何もない空間をじっと見ている。涎の糸が長く引いていて、感じ悪いおっさんの一人だった。

 普通、こんな場で笑うか。こいつ何やってんの?

 そう思うと、男はこっちへ首を曲げた。ぼくを見た。

 ぼくはぎょっと視線を逸らす。

 違和感を感じた。男に構う一人もいない。いいえ、怖いから構わないではない。彼に気がついた人がいないようだ。どういうことか、わからない。けど、考え込んでいるうちに、誰か遺影写真を持って堂内に入った。

 ぼくは写真を見て面食らった。これはあの笑う男の写真だ。どういうことか。ぼくは再びあの男を見る。しかし、あの男はいない。逆に、周囲に視線を感じた。

 誰かぼくを睨んでいる。周りを見ると、全員がぼくの方へ向く。

 もうこの場にはいられない。遺影写真を再度に確かめると、いつかあそこはぼくの顔が浮かんでいた。

 気がつけば、真っ黒の空間に閉じ込められた。

 ここは、どこ?

 自分は知っている。この漆の匂い、棺の黒い漆の匂いだ。ここは棺の中だ。

 

 

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