胡蝶の悪夢

古井論理

本文

 今日も暗くなってから目が覚めた。さあ、一日の始まりだ。食べ物を探して大きな影の下から這い出て、地面を這い歩きながら、落ちている食べ物を探す。この前は、仲間が何かの中に落っこちてしまった。なので僕はその轍を踏まないように気をつけて歩いている。仲間が落っこちてしまった場所を避けながら、食べ物を探す。探し始めてから少しして、僕は白くてふわふわした小さなかけらのような食べ物を見つけた。これを食べて、さらに這い歩いて探すと、今度は小さくて短い曲がった棒のようなものを見つけた。これを食べて、さらに這い歩いて探すが、なかなか食べ物が見つからない。そこで、上に向かってデコボコした壁をよじ登っていった。壁の上には、大きな湿った食べ物の山があるはずなのだ。登り終えて少し歩いたところに、案の定、食べ物の山があった。僕は、どれがおいしく食べられるか、物色しはじめた。まずおいしそうだと思ったのは、大きなかすかな光を反射する薄いものの上にくっついている、白くて少し黄色っぽい小さなかたまりだ。食べてみると、とてもおいしかった。ほかにもないかと探してみると、たくさんあった。夢中になって食べていると、突然明かりがついた。ビックリ仰天した僕は、目がくらむ中を、何とか影の下に逃げ込んだ。しばらくすると、また暗くなったので、また影から出てさっきの場所に戻って、さっきの白くて少し黄色っぽい小さなかたまりを食べはじめた。すると、また明るくなった。次の瞬間のことである。

「キャー!」

 けたたましい悲鳴が聞こえてきて、ガシャガシャという音がした。ヤバイ、そう本能的に感じた。この前この音が聞こえてきた直後、仲間が命からがら影に逃げ込んできたっけ。そう思い出した次の瞬間、上から板状のものが降ってきた。何とかよけようとしたその瞬間、僕の体は宙に舞い上がっていた。どこへでも飛んでいけそうだが、恐ろしいことに気がついた。

「キャー!」

 絹を裂くような声が聞こえる。どうやら僕はあわてて、影とは反対方向へ逃げてしまったようだ。もう飛んで逃げるより手はない。僕は全力で先ほどまで存在を知らなかった翅を動かして飛んだ。横から板状のものが迫り、僕の体を横に飛ばす。

「くそ」

 僕は壁にぶつかり、慌てながらも走って逃げた。

「待て!」

 そんな声の相手を出し抜き、股抜きで逃走を図る。だがそこには先ほど上から落ちたであろう色々な箱や食品保存袋があった。僕はそのラップのケースとアルミホイルのケースの間に隠れたが、積み上がっている箱やジップロックは次々と取り払われていく。そして上から大きな板状のものが降ってくる。もう逃げられない。目の前にジップロックのロゴが見えた一瞬の後、パシンという音とともに僕の体は潰れた。……と思って目を開けたら、僕はベッドに寝ていた。僕の耳元でアラームが鳴っている。時計を見ると、4時ちょうどだ。寝付けそうもないので、少し早いが一日の始まりだということにしよう。水を飲みにキッチンに行くと、僕より早く起きていた母がゴキブリを潰したところだった。

「あとでバルサン焚かないとなあ……」

「そうだね」

 床には棚から落ちた箱が転がっている。ジップロックにはおなじみのロゴがある。僕は全身がゾワリとあわ立つのを感じながら、水を飲み干して死骸の掃除を手伝った。

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