第6話 ある第一艦隊特務機関の一日 ますます (前編)

 星暦二千百十一年三月十五日早朝。天の川銀河連邦宇宙軍、特務機関部隊長の秋山信二は、先ほど届けられた緊急報告書を見て、頭を抱込んでいた。

 天の川銀河連邦に於いて、売り上げ、収益、販売数他、世界第三位をキープし続けている、有名大企業の最重要人物と、その知り合い他二十数名が護衛艦も付けず、恒星間を大移動するという情報が、密やかに流れ、拡散しているのは何時もの事であるのだが、その情報に食いついてきた宙賊団と思われる団体の規模が、前代未聞な事になっていたのだ。

 確認されただけでも、大戦艦三。戦艦十。重巡洋艦五十。軽巡洋艦二百。駆逐艦千。一国の軍隊に匹敵する規模であった。

 しばらく、内容を眺めていた秋山では有ったが、ナニカを思いついた様子で、ポンッと両の掌を打ち合わせた後呟いた。

「俺、司令官だよ。適切な人選して仕事を割り振るのが職務だったよな。じゃあ、有能な部下に、対応を任せる様に指示を出すまでが俺の仕事だよ」

 要するに、やっかい事を丸投げする事を思いついたらしい。投げ渡される部下の方にしてみれば、たまったものではない呟きではあるのだが、幸いと言って良い物か、不幸にしてと言うべきか、現在、部屋に残っている者は秋山以外誰もおらず、その呟きが本人以外の耳に届く事はないのだった。

 そして、数時間。本日、定時勤務の隊員第一号が、開いた扉を潜ってくる。

「おっはよー。って、わたしが一番?」

 鮮やかなブルーグリーンの長髪をポニーテールに纏めた、大きな笹の葉の様な耳が特徴的な女性。名を、キティ・キャット・シャリエティプスと言い、大佐待遇軍属である。

「おお。キティ。早いな。じゃあ、ご褒美に、特別な仕事を受け持って貰おうかな?」

 一瞬、にやり、と笑った秋山隊長の、その表情を見る事無く、はしゃぐ様に答えるキティ。

「おー! ご褒美! ありがとーたいちょー。やるやるー」

 何の疑いもなく、指示書と資料の記憶された指令書(パッド型携帯端末)を受け取るのだった。此の後、相棒がやって来てしこたま叱られる。等という未来については、欠片も想像しては居ないのだった。極めて、前向きな考え方をする女性である。言い方を変えると、脳天気。

 そして、ご褒美、ご褒美。と、繰り返し呟きつつ、大事そうに指令書を胸に抱くキティが待つ事数分。部屋に入ってきたのは、黒髪をショートボブに纏め、十六、七歳の少女に見える外観の大将待遇軍属、姫野まゆ。キティの相棒、兼、上官である。そう、上官である。言うまでも無い事だが、上官を差し置いて、仕事を受諾する事は、普通はしない。

「おはようご「おはよー!お仕事貰ったよー」ざ…い?」

 まゆの挨拶に被せて、心底嬉しそうに報告するキティと、挨拶をぶった切られた上に、非常に物騒、且つ聞き捨てならない台詞を聞き取り、その意味を理解しようと固まったまゆ。ギギギ…と擬音の聞こえそうな動きで再起動し、キティの持つ指令書と。何故か目を逸らしたまま自分を見ようとしない秋山を交互に眺めた後、キティの持つ指令書を取り上げると同時にキティのアタマを今、取り上げたばかりの指令書で叩くまゆ。

 スパーン!と言う小気味よい音が、部屋に響き渡った。しかし、指令書の端末は、このような事態を想定してでも居るかの様に、頑丈に造られているのだった。ヒビが入るどころか、びくともしていない。叩かれたキティの方は、頭を押さえて蹲っている。目には、大粒の涙を湛えながら。

「いつもいつもいつもいつも言ってるんだけどさ。キティ。仕事受けるかどうか決めるの、わたしなの! あなた、決める権限持ってないの! なんで、毎回毎回毎回毎回同じ事言ってるのに勝手にお仕事受けちゃうのかな? かな!!??」

 激おこ状態だった。どうせ既に秋山の事だから、受理扱いで処理済みになっている。今さら撤回出来ないのは、何時もの事なのだった。上手い事言いくるめられたキティが、勝手に仕事を請け負ってしまうのも、上手い事を言って、キティにやっかい事を押しつける秋山も。そう。何時もの事。更に、こうして、秋山が、決して視線を合わせようとしない時と言うのは、極めて面倒事であるという事は、経験上、十二分に思い知っている事実であった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 星暦二千百十一年三月二十三日 昼前

「何処からかき集めたんだ? この、大艦隊…」

 指令書の資料欄に目を通し、頭を抱えて唸り始めるまゆ。

「艦隊? どの位いるの?」

 艦隊、と言う言葉に興味を持ったキティが、指令書の問題となる部分を覗き込む様に読み始める。そして、添付されている艦隊を撮影したと思われる何枚かの写真を見て、ぽつりと溢す。

「これー、アイソリーオ帝国政府の予備艦隊に似てる様な?」

 がばと顔を上げ、キティを睨み付ける様に凝視するまゆ。その剣幕に、あわあわと慌て始めたキティ。

「いやー、そんな気がするなーってだけでね? 確信がある訳では…」

「根拠は何!?」

 オロオロと言い訳を始めたキティに、気付いた事があるんなら、隠さず話せ! と、詰め寄るまゆ。

「えーっとね、なんで専用の小型アンテナ複数搭載にしないのかな? って不思議に思う位ブサ可愛い多周波共用アンテナを一組だけ搭載しててシルエットが面白いから?」

 ますますおどおどとしたまま、根拠の説明を終えたキティ。これで良いのかな? と、大層不安そうな顔をしている。

「具体的には?」

「艦橋の所に生えてる、どこぞのお国の熊さんとかネズミさんみたいなまあるいお耳?」

 更に説明を求められ、まゆが手元で確認中の資料を指差す。。

「為るほど…」

 キティの指差した解像度のやや悪い、シルエットしか判らなそうな写真の艦橋部分は、形状がドーム型である事も相まって、まさしくどこぞのネズミであった。

 頷いたまゆに、漸く納得して貰えたと判断したキティは、心底ほっとした表情でだれていた。

「なんでキティはそんな細かい事覚えてた訳?」

 思いもしなかった追撃に、一瞬身体をビクッと硬直させた後、再びしどろもどろな状態で思考を巡らせ始めるキティ。

「えーっと、えーっと、えーっと。なんだっけなー。なんか、共同訓練だったか、指導だったかで一緒になった事が有ったような気がする? てか、あ! 操艦指導だ。一昨年一週間位やったんだった」

「よし! よく覚えてた!」

 叫ぶなり、資料の入った端末を片手に部屋を飛び出して行くまゆ。キティは、最後に褒められて心底ほっとしましたという表情で、その後ろ姿を見送った後、

「シミュレーションで暇潰そーっと」

 等と呟きつつ、同じく部屋を出て行った。


  *********************************


おひさしぶりなお話です。

忘れた頃にやって参りました。

威張って言うことじゃない? その通りですね!

…御免なさい。

後編(だと思う)に続きます。

但し、投稿予定は立ってません! ダメじゃん!!

しばし、お待ちくださいませ。

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