第2話 - 催眠術とは
「……。」
誰もいない放課後の教室。私、
代わり映えのしない、退屈な生活の毎日。学校に行って、授業を受けて、すぐに帰るだけの生活に、今までにない時間が発生していた。
(アナタ、もし放課後の予定が無かったら、少しだけアタシに付き合ってくれないかしら?)
(詳しくは言えないけど……楽しいことよ。それだけは保証するわ。)
ふとしたきっかけから、
「待たせたわね。」
町田さんが教室に入ってきた。さっきと変わらない、何処かミステリアスな雰囲気を漂わせながら。
「……。」
けど、何処か違う。何かとは言えないけど、ほんのりとした別の雰囲気を纏っているような……。
「少し、準備をしていたわ。ちょっとした、精神統一というものよ。」
「え、あ、はい……そうですか。」
「今になって敬語を使わなくてもいいわ。さっきのように、フランクに話してくれてもいいのよ、城山さん。」
「あ……うん、ごめん。」
一体何を始めるというのか、私には全く見当がつかない。
「さて、城山さん。まどろっこしいのは嫌いだから、単刀直入に言うわね。」
「う、うん。」
「城山さんは、催眠術を知ってるかしら。」
「さ……催眠術?」
「そう、催眠術よ。アナタも見たことがあるはずだわ。」
催眠術……そう、時々テレビとかで見るアレだ。催眠術師が色々やると、かけられた人は意のままに動いたり何とかしたりするアレのこと。え、でも催眠術の話を私にするってことは……つまり……え?
「突然だけど、今からアナタに催眠術をかけるわ。」
「え!?い、今から!?」
「そう、今から……って言われたら、アナタはどう思うかしら?」
「え……そ、そりゃビックリするよ!いきなり何を言うのこの人って!」
「まあ、そうよね。いきなりかけるって言われて、いい気になる人は居ないわ。それじゃ、もう1つ。城山さんが思う催眠術のイメージを、思うだけ挙げてもらっていいかしら。」
「え……うーん、そうだなぁ……私が思うのは……記憶がなくなったり、意のままに操られたり、そんなイメージがあるけど……。」
「まあ、そんなところね。何も詳しくない人なら、そう思われてもおかしくないわ。」
そう、思われても……?
「城山さん、アナタの言ったイメージだけど、それは全くの間違いよ。」
「え?そうなの?」
「えぇ、そうよ。どうしてそう言えるのか、これから細やかに解説していくわ……。本物の催眠術、というものをね。」
「まず、記憶がなくなったり、意識がなくなったりするという先入観だけど……思い出して頂戴?テレビで周りから感想を聞かれた人間が、頭がフワフワしたとか、そんなことを言っていなかったかしら?」
「え……あ、確かにそんなことを……あ!」
「えぇ、そういうことよ。本当に意識がなくなったり、記憶がなくなったりしたら、頭の中がどうなっていたとか、そんなことは言えないわ。」
た、確かに……!テレビでアナウンサーが芸能人に質問したら、大体そういう答えが返ってきてる!
「これが、催眠術が記憶をなくしたり、意識をなくしたり、そんな事にならない理由の1つよ。そしてもう1つ、催眠術で意のままに操られるという先入観だけど……それもありえないわ。」
「ほ、本当!?」
「えぇ、本当よ。そもそも催眠術というのは、自己暗示の誘発の上に成り立っているものなの。だからかかりたくないものが存在した場合、それは本能がシャットアウトしてしまうわ。」
「本能がシャットアウト……。」
「えぇ。だから意のままに操られるなんてことはありえないわ。そもそも意のままに操るなんてことになったら、それは洗脳という事になってしまうわ。だから、安心して頂戴。」
そ、そうなんだ……。何か催眠術って、実は安全……?
「それと、催眠は一生解けないという間違ったイメージもあるわね。でも、催眠術自体が集中力を使うものだから、長くて精々30〜60分も経てば解けてしまうわ。それに深くかかっても、一晩眠ることて解けるものなの。」
「へー……何か、色々と思ってたのと違う。」
「初めて知る人は、皆そう思うわ。でも、海外では結構メジャーな存在なのよ、催眠術って。」
「え?そうなの?」
「そうよ。主たるものとして、催眠療法を用いた手術ってのもあるわ。たとえば、泊まりの手術が日帰りに出来たりとか。」
「ひ、日帰り!?そんな事が出来るの!?」
「えぇ。アタシも知ったときはビックリしたわ。しかも、ちゃんと保険が適用できるところもあって、利用している人は少なくないの。」
催眠が、医療の世界で……凄い……。
「まあ、こんなところね。どうかしら?催眠術に対する誤ったイメージを解消できたかしら?」
「う、うん。その……催眠術って、結構安全なんだねって。」
「催眠術というのは、元来そういうものなの。あまりにも危険だったら、国が率先して動いてるはずだわ。」
「あー、確かに……。」
「さて……色々と解説はしてきたけど、やはり実際にかかってみるのが一番ね。」
「え、い、今から?」
「えぇ、そうよ。安心して頂戴。アナタをぐちゃぐちゃにする気はまっさら無いわ。それこそ、催眠術に対する冒涜よ。」
その言葉に、嘘偽りはなかった。真っ直ぐな目と、ブレることのない声がそれを物語っていた。
「催眠術は、元来楽しいものなの。それをアナタにも、ちゃんと教えてあげるわ。だから城山さんも、催眠術を楽しみたいという気持ちを持ってやってくれるかしら?」
「あ、う、うん……!分かった!やってみる!」
「ふふ……そう言ってくれて嬉しいわ。それじゃ、早速始めることにしましょう。」
恐らく……いや、間違いなく初めて受けるであろう、本物の催眠術。
それは間違いなく、私の本心から感じてみたいと思った、最初の体験だった。
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