第12話『前職:詐欺師』

「急に叫ぶなよなー、テオ。愛の告白かと思ったぜ」


 パチパチと爆ぜる薪の前で呟くパウル。俺たちは巨大な魔石をいくつも引きずって、帰還の途についていた。

 エリゥに帰ったら飲みまくるとしよう。それはそれとして、今晩は祝勝会の前夜祭ってやつだ。予想外の戦闘もたくさんあったしな。


「仕方ないだろ?ずっと探してたんだ」


「ねえ、まだ口説くつもり?疲れてるんですけど」


 心なしか距離のある喋り方をするアーデ。違うんだよ、美人だとは思うけど!変な誤解が定着する前に説明しないと。こういう時は単刀直入がベストかな?


「なあ、人間を召喚したことないか?俺を召喚した人を探してるんだ」


「え……。まさか、別の世界からやって来ました!とか言わないわよね?」


 変人に対する目で見てくるアーデ。……失敗した。ちょっとまずい状況かもしれない。いくら召喚のスキルがあっても人間を、しかも異世界人を呼ぶなんて発想がなかったっぽい発言だ。

 パーティを組んで半年ほど。せっかく信頼関係を築きかけているのに、俺がその関係を爆発四散させてしまうかもしれない。


「……実は、そのまさかなんだ」


 けどここまで喋ってしまったんだ、最後まで言わない訳にはいかなかった。

 俺は誤魔化すことを諦めて、この世界に来た経緯を全て話した。もう今更隠せないと思うし。

 女神うんぬんの話をするのは、パウルの前って事もあって控えたけどね。


 勢い任せに喋ったものの、正直言って不安だった。普通に考えて、私は他の世界からやってきたんです!なんて言う奴がいたら、頭の残念な人としか思えないだろ?


 俺が女神エスメラルダの言葉を信じたのも、死ぬ直前に超常現象を経験したからだしな。



 ◇



「……と。俺の身の上はこんなところかな」


 半分ヤケクソで説明し終えた俺は、恐る恐る仲間の表情を伺った。


 三人は俺が話している間、黙って耳を傾けてくれた。他の世界から来た、なんて馬鹿げた話を笑わずに聞いてくれたんだ。パウルなんかよほど感動したのか、俺の話に肩を震わせているじゃないか?やっぱり俺の仲間は最高だ。


「フッ、クク……!他の世界…………?そ、そっかぁ……っふ……!……あー、笑った笑った!満足だ。何か悩みがあるなら言えよな」


 訂正しよう、笑ってたわ。この不良僧侶はまあ、こんな反応だろうとは思っていた。思ってはいたさ。ちょっとは笑いを隠してほしいとは思うが。


「な……なるほど、騙しの腕がっていうのはマジだったんだな。前世は詐欺師、か。ははっ……」


 パウルとは対照的に、ドン引きするイツカ。こっちの方が精神的に辛いものがある。リーダーの中で俺は、頭のおかしい剣士さんになってしまった。


 アーデはどうだ……?たぶん俺のことは、口説いて来た挙句に残念な脳味噌をひけらかす救いようの無い男、って判定を下すんじゃないかな。


 イツカの露骨な反応を見た後だと、余計に彼女の方を見るのが怖かった。氷の悪魔をこき使うくらいだ、冷ややかな視線だってお手の物なんじゃないか?俺はもうヤケになっていた。

 俺は斬首の執行を控えた死刑囚のように、アーデの裁定を待った。


「んー……。残念だけどあたしのスキルは悪魔専門。人間なんて召喚出来る訳ない……って思ってたけど」


 …………あれ?

 何を言われてもいいように覚悟していた。個人的に初対面のトラウマもあるしな。ないなら無いでいいんだ。論理的に考えを述べるアーデが、俺には女神様にすら見えた。


「信じてくれるのか!?」


「まあね、ひとまずは信じたげる。心当たりはあるのよ。実は一回失敗したの、召喚。もしかしたらその時にアンタが呼ばれちゃったのかも」


 なるほど。俺の召喚は偶発的なものだったらしい。それならそれで全然いいんだ。逆にその失敗がなければ俺は電車に轢かれて死ぬだけだったし。

 偶然だろうがそうでなかろうが、アーデは変わらず命の恩人だ。


 なんなら現在進行形で失われつつあった、俺の人としての尊厳まで救ってくれるんだ。頼む、パウルはともかく、イツカの乾いた笑いだけは耐えられないんだ……!


 視線でアーデに訴えると、彼女はいつものようにため息をついた。


「はぁ……。テオ、ひとつ貸しだからね。よく聞いて、パウル、イツカ。本当にテオとあたしに召喚契約があるなら、契約の刻印が現れるはず。それ見たら信じられる?」


「俺はもう十分笑わせてもらったし、別にいいんだけどよ?ま、テオに後でキレられても面倒だ。好きにやれよ」


 確かに笑っちまうような変な話だよ。多分このネタで、向こう一年はからかわれるだろうな。

 パウルは面白ければそれでいい、みたいな思考回路をしている。ホントに良い性格してるよ。


「……すまんテオ。正直、まだ信じられなくてな。目で見て分かるものがあれば、そういう出来事もあるんだと自分で折り合いがつくと思う。お前を疑いたい訳じゃないんだ」


 イツカは誠実に、言葉を選んで話してくれた。パウルに爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。裏がとれるまで認めないその慎重さは、イツカの美徳だ。


 そんなイツカに信じてもらう為にも、証拠が必要なんだ!お師匠、よろしくお願いします……!

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