第11話『凍てつく悪魔』

召喚サモン凍てつく悪魔フロストデーモン


 アーデの声に呼応するかのように周囲の空気が変わる。岩と土の大地に霜が降り、大気が蒼ざめた。いつのまにか空から氷雪が舞い落ちてきている。


 急激な気温の変化にあてられた俺たち三人はまともな思考を取り戻した。……危ない所だった。革命戦士って何だよ。


 俺たちが呆けている間に地面には巨大な銀色の魔法陣が出来ており、そこから身長三メートルほどの化け物が現れた。

 獣じみた醜悪な顔面から伸びる、氷の張った山羊のツノ。黒ずんだ屈強な体のあちこちには鎖が這っている。


 みた鎖がジャラジャラと巻き付けられたその両手には、これまた巨大な氷塊で出来た戦鎚ハンマーが握られていた。凍てつく鎚を握ったのは氷柱の指先。その姿は、剣と魔法が支配するこの世界であっても異様だった。


「なんだコイツ……!?」


 パウルが絶句する。隣のイツカが浮かべる表情も険しいものだった。分かる、怖いよね。氷漬けってとこ以外はイメージ通りの悪魔って感じだ。

 普通に契約すれば寿命の八割は持っていってくれそうな元気モリモリのデーモンくんは、魔法陣から一歩も動かない。


 アーデは平然とその化け物に命令を下す。


「好きに暴れなさい」


 ダメだよ?ちゃんとしつけなよ。ペットにまつわるご近所問題って結構深刻なんだぜ。


 フロストデーモンは返事もせずにゆっくりと歩みを進めた。乱入者に怒り狂ったゴーレムはデーモンの顔面に拳を叩きつける。衝撃と共に氷と土煙が舞った。


 ようやく土煙が晴れた頃。目をこらすと、化け物同士の戦いには既に決着がついていた。

 右腕と両脚のもげたゴーレムの胸部から、核を引きちぎるようにして奪いとったデーモン。氷の悪魔は醜悪な笑みを浮かべると、躊躇なく核を握り潰した。

 動力を失ったエルダーゴーレムは一体目と同様、バラバラになって地面に散らばった。


「……強すぎる」


 思わず声が漏れた。この化け物は、あろうことかゴーレムで遊んでいた。もしコイツが全力を出したなら、どうなってしまうのか想像もつかなかった。


 役目を終えたフロストデーモンはアーデの前で片膝をつくと、氷の粒子となって消え去った。周囲の天候異常もそれに伴って元に戻る。


 何もしていない気がするが、ともかく危機は去ったのだった。



 ◇



「はぁ……。しんどかったぁ……!」


 アーデはフロストデーモンを呼び出して力を使い果たしたのか、その場にぺたんとへたり込んでしまった。


「ありがとう、恥ずかしいところを見せたな。助かった」


「間違いねえ。アーデがいなきゃ今頃どうなってたか。姉御、一生ついていくぜ!」


 イツカとパウルは口々にアーデを称える。俺も続いて、彼女に感謝の気持ちを示した。


「ホント助かったよ。魔力も無かっただろうにすごいな!体は大丈夫なのか?」


「大丈夫大丈夫、代償なんか付かないわよ?これ召喚スキルだし」


 けろっと返すアーデ。そっか、スキルなら寿命とか捧げなくていいもんな。デーモンくんをこき使えるって羨ましい。めっちゃ怖いけどねアイツ。


 ………召喚スキル!?

 剣の修行とクエストに追われてすっかり忘れていた。俺は召喚者を探してたんじゃないか!

 アーデのスキルで人間を召喚出来るかどうかは知らないが、それでも重大な手掛かりが今までずっと目の前にいたってことだ。


「……み、みッ」


「み?」


 銀髪を揺らしてコテンと首を傾げるアーデ。かわいい。けど今はそれどころじゃないんだ!


「みみ、みッ……。見つけたーーッ!!」

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