第15話 自分との静かな時間

すぐには返事をしなかった

まず、自分自身との確認が必要だと思った

今の時点で、どの方向へ行こうとしているのかを、ハッキリと掴まなければ

流れに飲み込まれてしまう


森さんから連絡先を教えてもらった

その時、熱く見つめられながら、今度は力になりたいと手を握られた

会社の方針が決まり次第、自分に連絡をすると言ってくれた


大きな流れを感じながら、自分の気持ちを、もう一度整理して、どうしたいのかを確認しよう

そう思いながら帰路についた


翌日、早くから目が覚めた

机に置いたノートを前にして、好きな食べ物を書いてみる

羊羹、コーヒー、パイ、五目飯、豆腐の味噌汁、みかん…

自分をしることは、わりと楽しい!

好きな人は…崇、両親、森さん、バンプ、スピッツ、まっちゃん…

好きなこと…山登り、旅、洗濯、掃除、料理…

人前に出るのは、苦手だな

じっくり考えたり、調べたりするのは得意かも

本を読むのも好きだなあ

実験とか研究…子供のころ考えて、実際にやってたな…毎日…結構叱られた

研究者…向いてるかも

洗剤を作ってる会社っと、何社かピックアップしてみるか


ネットで調べようとした時だった

森さんから連絡がきた

「会社の方針が決まったよ!環境に安全な洗剤を目指すことになった!

君はどうする?」

抗いがたい大きな流れがここにあると感じた

「わかりました!面接を受けます!」

「承知した…面接日などの詳細については、あとでメールを送るから確認してくれ」

急いでいるらしく、早々に電話は切れた


さっそく、父の会社のホームページを開いた


代表取締役、研究開発、企業理念など隅から隅まで読み、ノートにまとめた

履歴書、写真などを用意して、最後に、森さんにメールで、面接における注意点を聞いた


何日かかけて、面接の準備が概ね揃ったころ、父が仕事に満足していたのかどうかが気になった

父に関する遺品の中に、一冊のノートを発見した

無口な人だったけれど、いろいろ思うところはあったんだとわかった


○月〇日(水)研究者というのは、一見無害に見えるが、わりと怖い存在なのではな  いかと思う。研究のためなら生き死にも関係なくなってしまうようだ。実験結果を得るためならば、動物を何匹殺してもなんとも思わない者もいる。一歩間違えば、その矛先は間違いなく人にも向けられていくだろう。

自分はけっしてそうならないよう注意していよう。人としての優しさが一番大事だ。


この会社の研究部に入れたのは幸運だったと思う。人々がいや動物にも安心の製品を作りたい。環境に優しい製品を作ることが、これからの会社のためにもなると信じている。


文字や文章にはその人の生き方が、そのまま反映するのかもしれない

父からの助言のような気がして、忘れないようコピーをとった


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