第14話 大きな流れに乗る
「そうか、わかった…長くなりそうだから、場所を変えよう」
そこで初めて名刺をもらった
名前は、森裕二、森さんでいいのかな…
喫茶店から、ほど近い所に、行きつけの居酒屋があるというので、そこに
案内してもらうことにした
引き戸を開けると、年配の着物をきた女将が出迎えた
「あら…」
俺の顔、見てるよな…じっと見られてる
「あいつの息子だ」
「そうなの…お父さんに似てるわね」
笑顔になった女将がそう言った
奥に案内されて、掘りごたつになったテーブルについた
注文は森さん任せだったけれど、店の人が焼肉の用意を、せっせとしている
ちょっと嬉しい
ビールとお通し、枝豆などが運ばれてきて、どちらからともなくグラスを合わせた
ひとしきり腹を満たすと、森さんが父の仕事について話し始めた
「君のお父さんは、研究部の信頼されている部長だったよ…ただ…あいつは先見の明があって、まあよく勉強してらかだと思うが、環境に無害な製品づくりを目指していたんだが、コスト的問題もあって、少し重役たちと揉めていたんだ」
森さんがビールを飲んだので、自分も枝豆をつまんだ
「もっと肉を頼むかい?」
「いいえ、腹いっぱいです」
店員にビールを二つ頼んで、また話し始めた
「それは…そうか、もう10年もたったんだな」
父が死んで10年…いつのまにか過ぎていった時間…ただ、忘れるための時間
「結局、忘れることなんて、できないんですけどね…」
「でも、必要だったと思う…わたしも受け入れるのに同じくらいかかったということかもしれない」
さっき頼んだビールを、女将が持ってきてくれた
「二人とも、なにしけた顔してんの!うちの料理がまずくなっちゃうじゃない」
女将の元気な声のおかげで自然と笑顔になる
「そうだな、いつまで泣いていても、あいつが戻ってくるわけじゃないものな」
「あら、やっと前向きな答えが返ってきたわね」
「女将さーん!」
店員に呼ばれて女将は行ってしまった
「それでね、仕事の話なんだが、10年前は君のお父さんが亡くなってしまったので、その話も、うやむやになってしまったんだが、今になってまた浮上して、重役たちが会議している状態なんだ…もうすぐ方針が決まることになっているんだが…」
父の会社もまた岐路に立っているということだな…それにしても、父の先読みは当たっていたんだな
「環境に配慮した製品を望む、市場の声が多くなってね…やはり君のお父さんは間違ってなかったよ」
父のことを誇らしいと思ったのは初めてかもしれない
「君が望むなら、人事に掛け合うが、どうかな?」
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