第12話 父の親友
中肉中背で身長は170くらい
ネクタイをきっちり締めた出で立ちには年季を感じる
髪には白いものが、ちらほら混じっている
もし、生きていたら…父と同じくらいの年齢だろうか
「覚えてないか」
少し残念そうだ
「すみません…」
「いや、すまん、君を見て、慌ててしまって、ちょっと待ってもらっていいかな」
何人かの人と来ているらしく、奥の席で何か話している
どうやらここに移動するようだ
古くなっても鈍い光沢のあるカバンが、椅子の上に置かれた瞬間
「あっ!」
思わず立ち上がり、深く頭を下げていた
「すみませんでした」
両親の葬式の時、そろそろ親族しか残っていない時間になっても
遺影を見つめている人がいた
そっと近づいてみると、声は出さずに泣いている
ただ涙が頬を伝っていた
収まっていた涙が溢れてきて、何も言わずにその場を離れた
その後、何度か連絡が来ていたが、返すことはなかった
忘れたかったんだ…
「いやいいんだ…座ってくれ」
椅子に座りなおして、顔をよく見た
やっぱり、あのときの人だ
「どうしているか…気になってね」
ウェイトレスが気を利かせて、オーダーを取りに来た
「君もコーヒーでいいかい」
「はい、お願いします」
「社会人なんだね…ありきたりだけど感慨深いんだ」
思い出すと目頭が熱くなる
「誰かと待ち合わせしてる?」
「いえ、してません」
「それなら、お父さんとの思い出を少し話してもいいかな」
涙がこぼれそうで、小さく頷いた
「君のお父さんと出会ったのは大学の寮だったよ
二人一組だったから一緒の部屋だったのさ」
オーダーしたコーヒーが運ばれてきた
「彼は出会ったころからずっと、無口だったけど、しっかりした優しい人だったよ
誰もやりたがらないことも、自然に引き受けていた
わたしは、彼が文句を言っているのを一度も聞いたことがない」
目の前にあるコーヒーをブラックのまま一口飲んだ
「無口なのに気さくで、すぐに仲良くなったよ
考え方とか好きな食べ物、洋服とか好みが同じでね
好きになる女性もやっぱり同じで…ちょっと揉めたこともある」
懐かしさを、にじませながら、コーヒーを飲んでいる人を
眺めていると、この人の中では父はまだ生きている人のようだなと思った
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