第11話 父

昨日は楽しかったな

俺も崇に負けないように頑張ろう!

「ニャー」

にゃんがご飯を催促してすり寄ってきた

抱きあげてスリスリしているだけで幸福を感じる

猫は不思議だ


酒を飲んだわりには朝早く目が覚めた

久しぶりに懐かしいアルバムを見ているうちに

父はどんな仕事をしていたんだろうと気になった

そして、どんな気持ちで働いていたんだろう

父が書き残したものや遺品を調べているうちに、いくつかわかったことがある

どうやら洗濯用洗剤を製造する会社で働いていたらしい

洗剤の本がたくさんある


小学生のとき、父親の仕事を見学するという実習があった

父の会社に一人で入る緊張感、応対してくれた受付の女性の優しさ

初めて仕事をしている父を見つけたときの驚きと嬉しさ


父は、家では無口で、必要のない軽口を言うことは、ほとんど無かった

母は時々、父に何か話しかけていたが、父は優しく頷くことが多かった気がする

そんな父が、会社ではとても力強い

良く通るはっきりした声、キビキビした動作が印象的だった


父が笑いながら側に来て

「緊張しているなあ」

って言ったのを今でも覚えている

わりとはっきり思い出していることに驚く


仕事の内容も説明された気がするが覚えてない

あまり興味を感じなかったのかなあ


帰りに一緒に会社近くのカフェに寄ってパフェを食べた


今日はそこに行ってみるか

あれからもう20年くらいになる

カフェは存在しているだろうか

ちょっと気になる


東口から出て、左へまっすぐ進むと、公園があり、その向こうに父が働いていた会社がある

公園から見える父の会社を、しばらく眺めてから、父と一緒に入ったカフェへ向かった

あった!ただ、あの時の真新しさに比べると、古くなった感じが否めない

いつもはコーヒーとランチなどだが、チョコレートパフェをオーダーした

来てくれたウェイトレスさんが少し笑った気がした

やっぱ、恥ずかしい


チョコレートパフェは自分の中では定番で、違和感がない

子供のころから大好きだった


チョコレートがかかったクリームを見ると懐かしさと

嬉しさと、ちょっぴりの切なさが複雑に入り混じって目頭が熱くなった


「……くんじゃないか」

ふと名前を呼ばれた気がして振り向くと、こちらに向かう中年のサラリーマンと目が合った

「ケイスケ君じゃないかい?」





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