第9話  決意

本屋に行ってみようか

いろいろな本がある中で自分はどのコーナーに行くのだろう


少しワクワクしながら、目的の本屋へ向かう

駅の階段を下がって、左へ曲がりいくつかの信号を渡って

右手に見えてくる大きな本屋

エスカレーターに乗る

左手にはロイヤルホストがあって、いい匂いにそそられるが

後にしよう


子供のころ、誕生日とかに来てたな

懐かしく思い出す

そういえば、家の中に蟻が入ってきて、列を作っていたことがあった

ペットボトルに残っていた甘いジュース目当てだったのかもしれない

面倒だったので、蟻を溺死させようとして、水を入れてみたが、死なない…

振ってみたが死なない

1時間ほど待ってみたが死なない

近くにあった台所用洗剤を一滴たらしてみたら…一瞬で沈んでいった

毒なんだな、怖いと思った

洗剤…安全じゃないんだ

どうして毒を使っているんだろう

考えていたら知りたくなった


本を一冊買って、ロイヤルホストへ入った

海老と帆立のシーフードドリアスペシャルランチを頼んで、買ったばかりの

本を読むうちに、もっと知りたくなり図書館へ行くことにした

相変わらずの美味しさに、顔がにやけて笑える


ここ数日間自分のパソコンを使って研究職について、いろいろ調べてみて

わかったことがいくつかあった

何についての研究をしたいのか

基礎研究と応用研究どちらがやりたいのか


おぼろげながら見えてきた洗剤への興味

まあ、時間だけはたっぷりあるわけだから

広い図書館をゆっくり回りながら本を選んでいく

こんなにゆっくりと図書館で本を選んだのは

初めてかもしれない


研究職についての本

洗剤についての本

前から読みたかった小説


一畳ほどの大きなテーブルに、本を置くと喜びでいっぱいになった

自分のことが少しずつ分かっていくのがこんなに嬉しいなんて!


会社が倒産して、自分の人生は大きく変わろうとしている

ただうつうつと、自宅と会社を往復する人生を過ごした後、定年を迎えたとき

いや、一生を終えるとき、果たして自分は歩いてきた人生を、いい人生だったと笑えるだろうか?

自分について何一つ知らず、人生を過ごして、何の満足、達成感があるというのだろう

海で助けてくれた、あのおばあさんは、きっと海で死んだとしても何の悔いも

ないだろう

きっと死ぬ瞬間も「ええ人生じゃった」と笑って受け入れるに違いない

自分も自分自身に胸を張れる生き方をしたい

今こそ絶好のチャンス

とことん自分について考え、どんな生き方をしたいのかを突き詰めて実行していく

そう決心すると、腹の奥から力が湧いてくるのがわかった

必ず自分のやりたい研究を見つけて研究者になるんだ!




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