第7話 広がる世界
海女さんたちは元気で声が大きい
何気ない笑い声が小屋中に響き渡る
連れてきてくれたおばさんの隣に座ると
誰かが水を持ってきてくれた
よく冷えたコップを手渡されて
あー喉が渇いていたんだと初めて気づいた
人の温かさに目の奥が熱くなった
ドアは開けっ放しで、ドアの近くでは
海から採ってきたものを鉄板で焼いているようだ
いい匂いがする
お腹が空いていることにさえ泣けてくる
「好きなだけ食ってけ」
隣にいるおばさんの顔をよく見ると
顔のしわが年輪のようだ。おばさんではなくおばあさんらしい…
それにしても採れたての魚介類はうまかった
生きていて良かったと心から思った
海女さんたちは気さくで話がおもしろい
冗談なのか本気なのかわからないが、重たい話も笑い話になってしまう
いつしか自分も話を聞いてほしくなっていた
勇気を出して聞いてみた
「あの…話を聞いてもらえますか?」
あちらこちらから、どうぞどうぞと声が上がって
ホッとした
一通りあったことや、両親のことや友達のこと、悩んでいる
仕事のことを話し終わると同時におばあさんに肩をたたかれ
「よく頑張ったねえ。だけど、これからだ」
と言われた
深いしわには、いったい何年の年輪が刻まれてきたのだろう
おばさんは…いや、おばあさんは70歳を過ぎているように見える
そんな歳まで働かなければ、生活していけないのだろうか
怪訝な顔をしている自分を見て、何かをさっしたかのように
おばあさんは話してくれた
「生活に困って海に入るんじゃないよ」
「好きで好きでしょうがないのよねえ!カツ子さん」
誰かの合いの手で、みんなが笑った。
「多かれ少なかれ、みんな同じよね」
一同が頷きあった。
「ああ、海はいいねえー」
満面の笑みで、しわがさらに深くなる。
俺も見つけたい!
強烈にそう思った。
「俺も見つけようと思います」
そう言ったとたん目の奥がまた熱くなり、涙が溢れてくる。
海女さんたちの拍手がずっと耳の奥に残った。
俺はきっとこの時のことを、いつまでもきっと忘れない。
帰り際、おばあさんに大事な言葉をもらった。
「どんな時も自分を信じることを忘れちゃいけないよ」
そう言って背中をたたいてくれた。
厳しい仕事だと思う。海は凪いでいる時ばかりではない。
怖いときはないのかと聞いてみた。
「そりゃ怖いときもあるさ。けれど、その怖い思いを胸のところで
じっと感じていると、なぜか怖くなくなるのよ。兄ちゃんも怖いときに
やってみるといい」
しわしわの笑い顔に送られて、頑張れの声に励まされ、すっかり暗くなって
しまった道に出て、何度も後ろを振り返りお辞儀をした。
勇気と元気をもらった足はしっかりと砂を踏みしめていた。
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