第3話 履歴書

はじめて、公共職業安定所へ行った

思っていたより人が多いな

みんな失業してる?

いつの間にか届いていた離職票と被保険者証を持って順番を待つ


話しによると、どうやら自分は特定受給資格者ということになるらしい

雇用保険が2週間くらいで貰えると言われた

とにかく就職活動をしなければならないらしく、簡単な履歴書のようなものを記入した

職安から帰るバスや電車の中で、久しぶりに会った友から言われた言葉を思い出していた


「自分のこと本当にわかってる?」


聞いた瞬間から、頭から離れない

あいつが言っていたように、仕事だって、買い物だって、自分のことがわかってなければ、何ひとつ満足なんかできるわけがないじゃないか

途中文房具店でノートと履歴書を買って家路についた

家についてすぐに、小中学校のアルバムをだしてみた

懐かしい

部屋のクローゼットの奥に、積んだまま置かれていた段ボール

大学2年のとき、両親が事故で他界

元気だったころの両親が写っている写真を見るのが辛かった

思い出すと涙が止まらなくなる

それが嫌でアルバムはすべて段ボールに入れて、思い出ごと

クローゼットの奥に封印してしまっていた

いつの間にかそのまま10年の歳月が流れてしまったんだな


元気だったころの母親、ちょっと口うるさかった父親

懐かしさと寂しさが、一度に胸に押し寄せて視界がにじむ

それでも、大切な思い出は忘れたくないと、今は強く思う

なぜなら、自分は、確かに愛されていたのだから


いつの間にか傍にすり寄ってきた”にやん”が慰めるように

しなやかな体をこすりつけてくる

にやんを抱き上げる

温かいな、生きているんだな

そう思った瞬間、顔中がぐしょぐしょになった

ひとしきり落ち着いたころ、にやんが「ニヤー」と鳴いた

お腹が空いたのかもしれない 

ご飯をあげよう

にやんのおかげで、いつも、今この時に戻ることができる

ありがとう

いつものエサ入れに顔を突っ込んで、おいしそうにカリカリを

無心で食べている姿を見ていると

こいつのためにも頑張らないとなと思った


履歴書書くのも久しぶりだな

名前、住所、年齢を書きながら大学3年の就活を思い出す

きれいな字を書こうとしても、気に入らず

何度も書き直してみたが、結局納得できる履歴書は書けなかった

就職をして、事務仕事を8年も積めば少しはみられる字を書けるようになったかな


小学校の運動会を思い出す

走るのはあまり得意ではなかったな

早くも遅くもなかった

いつもごちそうを作って待ってくれていた両親に

すこしはいい思いをしてほしくて6年生の運動会は本気で

練習した

放課後遅くまで残ってたな

結果は2着、1着には届かなかったが、両親はとても喜んでくれた

ちなみに1着は、林葉 崇だった!クッソ悔しかった!

















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