秘密の布

床に隠された布.




見たこともない目新しい布に 目が離せないマリーン




カイトも近づいて見る




「こっちにも あったのか,、」


と言った


「こっちって?」


「僕が、、見つけたのは、、」


と母親のリンが寝る 方向の床を 剥がした




そこには 白い透き通った女の人が身につける綺麗な布が


向こうは 金銀 刺繍 華やかな布地に比べ


端っこが破れて傷んでいる




淡い光の中で 白い中に 薄い黄色やピンク色がかっている


「きれい、、、お母さんの昔の服かしら」




その下にも、綿の入った 絹の手触りの 


子供を優しく くるむ布地、、




どうしてこんなところに,、、


顔を見合わせるカイトとマリーン




床に わざわざ隠してあるから黙ってたんだ




「隠してあるの?


お父さんと お母さんが」


「多分、、」




「じゃあ 戻しとこうか」


カイトも それが良いと 静かに うなずいた




なんだか見てはいけないような 秘密めいたものを感じた




こんな豪華そうな布地 誰かに 盗まれたら


お父さんと お母さん悲しむものね、、きっと








戻し終わったところに 弟のクロスが帰ってきた


「お腹すいたー」と入ってくる なり 


マリーンに抱きついてくるクロス




クロスの言葉に 自分たちも お腹が空いたことに気がついた


「あっ、干した魚入れなくっちゃ 」とカイト




「お芋さん 取って 洗わなくっちゃ


クロス手伝って」 とクロスを畑に引っ張るマリーン




今日は、父と母は 朝早くから 遠くに猟に出て


今年の夏祭りに、売る獲物を取りに 出かけていた


去年も 二人は 角の立派な 鹿を出していた




食事は 子どもたちで するように言われていた




てんやわんやでお腹を膨らませ




外が 暗くなりだした頃


馬の シュウに、仲良く父と母が カイにタグが乗って 猟から帰ってきた


出迎える子供3人




今日は、大きな 大鷲が 獲物だったようだ




タグさんが、興奮して大鷲を取った経緯を話した


「すごかったんだよ 


リュウさんが放った矢が外れて


逃げたところを リンさんが 射止めたんだ




この二人の 息のあった 大鷲の射止め方の、見事さ


普通じゃないよ」




「タグさんの誘い方が、良かったんだよ


何日も前から、この大鷲の飛ぶ場所を 狙ってたんだろ」


「いゃあ たまたま行ったところに大鷲がいたんだよ」




「たとえ大鷲がいたって 私が射止められるわけないよ」


「二人の大手柄だよ 特にリンさんのね」


嬉しくてリンに抱きつくマリーン




「リンさんが あんなに 弓矢がうまいとはね、参ったよ


今年の 夏祭りで 大鷲なんて 目新しくて 高値で売れるよ」




大好きなリンから離れないマリーンの頭を撫ぜて帰っていった




リンは小さな袋からうさぎを見せて


「これも捕まえたから マリーンに お土産」




わぁーっ かわいい! 


かごを 作らないと逃げちゃうわね




「今日はこの袋のままで 明日作りましょ」




「お母さんは疲れたから 私一人で今日作る!」




「僕も手伝うと」 クロスが 楽しそうに言った




細い木を 十字に縛って


うさぎの入る大きさの四方50センチ位の 


かごを作っていく マリーン




「木の細さが丁度いいわね


器用ね・マリーンは」




「僕は?」と リンを見上げるクロス


「いつもマリーンを助けて 良い子よ クロス」


「僕は ずーっと マリーンと一緒に、いるんだ」


と、姉一筋思いの クロス




「十字のところの結び方 上手いわよ クロス」




ねぁお母さん。私達器用だから


今年の夏祭りに 腕や首につける 貝細工作って売っていい?




「そうね、私は良いわよ。


大きな貝殻だと カイトの文字を入れると


値打ちが上がるかも」




「カイト兄さんの字、綺麗だもの 良い?」




と、字の練習をしているカイトに聞いた


「良いけど、」知らん顔で答える




「字だと、、貝殻の中に このうさぎの 絵を 書こうかな 私」




カイトの字に対して すぐに自分で絵を書くことを思いつく 感の良さ




「でね、、お母さん


貝殻だけじゃなく」 と




うさぎのかごに 使っていた


薄く切った木を  20センチくらいの長さにして


5,6本 重ねて


「一番下の ここに穴を開けて


紐で通すと


去年夏祭りで 見た扇子の 骨組みができるでしょ


この上のところに、、」


 母の顔をじっと見てから ゆっくりと言葉を続けた




「なにか綺麗な布地 つけると


扇子が、出来るんだけれど」




カイトの字を書く 手が止まった。




今さっき見つけた あの綺麗な布地を 使いたい 


あの 隠されていたかもしれない 布地の 話題 に出したい


というマリーンの 探りの 気持ちが分かった。




カイトは静かに 父の顔も 目で確認した。


父の息が止まったのが 見えた。




「ねぇ お母さん 扇子用に何か布地なーい?」


マリーンは  続けた




「探しておくわね」


母は、何事もなさそうに 答えた。




「うん、家に 良いのがあると良いなぁ」


と 弱く マリーンがつぶやいた






うさぎをかごに入れて、


長い 1日が 終わった






夜 眠りの中。




暗い 雨の海の中 真っ暗で、、


どこに流されるのか、、見えない


自分に くくりつけた赤子を抱き




高い波が、、息ができない


何度 海水を飲んだか 


もう一度 高い波が 来る、、、




ウッ ウッーっ


苦しい、、息が




目が覚めると


リュウにしがみつき 爪を立てていた


リュウの腕に 爪痕の、血が にじんでいた




爪を立てて 苦しむリンを 強く抱きしめてくれていたリュウ


はぁーはぁー


息を深く吸い込む




リンの真っ暗に沈む 絶望的な 目を見て




布団から 子どもたちに気付かれないように


外に出ようと促すリュウ。




外に出てリュウにしがみつかないと 歩けない自分に気がつくリン


思い出して涙が出る




マリーンの 布地一つの言葉で


10年以上前の あの地獄を思い出す




落ち着くまでリュウがきつく抱きしめてくれた


自分がいることを 示すように




しがみついて嗚咽が、止まるまで


何分 必要だったか




あのことを思い出すのがリュウに分かっていたのか




それでも この十年、どうして ここに 自分たちが たどり着いたのか 


の、一言もリュウは聞かないで、いてくれた




知りたくないはずはない




でもリュウも また それをリンから聞いても


自分が、男一つでカイトを 育てていることの 理由が言えない




自分が言えない以上 


リンからも聞けないと 思っていた




「もう十年も経ったのね」 ポツリ言葉が出たリン




リュウも、思い出していた




そう ちょうど このくらいの 時間だった


朝の白白と 明るくなりだすような


そして




「ここが、、君が打ち上げられた 場所だよ」


と岩陰を指した




「えっ、、ここ、、


この岩陰に、、


いつも通る場所


どうして今まで言わなかったの、、」




「君が 聞かなかったから」




「ここがマリーンが打ち上げられた場所、、」




リュウは、リンが 打ち上げられたと言った、、が


リンは マリーンの 名前を言った




リンはその岩に目印を 残そうと決めた


マリーンがたどり着いた場所のため




そしてマリーンに、あの自分が着ていた布地を


扇子 1枚分くらい 切って


渡そうと決めた。




どうしても捨てられなくて 取っておいた


マリーンの役に立つのなら、、






今まで 何も言わずに  黙っていた


あの 秘密の布地




それが、


これから どんな結果になるのか


リュウとの幸せに5人で 暮らしていた生活が




2度と戻らず


崩れていくことの 始まりだとは、、


この時のリンには 考えもしなかった、、、




ほんの扇子ほどの大きさの 布地が、


これからの5人の運命をも、 




今の自分達を 大きく変えて行く、


自分たちの 運命の秘密を 暴かれる


序章になるとは。


リュウも、思わなかった。

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