嵐のあと
嵐は2日続いた.
浜辺に近い 小さいが しっかりした家.
フギャ、、フギャー、
弱い赤子の 鳴き声
目新しそうに そっと覗くカイト
カイトの 人差し指を 握る赤子
その指を口に持っていく 心配そうなカイト
赤子のやりたい放題を 嬉しそうに見守っている
男は
1歳8ヶ月前のカイトを思い出し
赤子は 多分 生後20日ぐらいだろ、と想像つく
嵐の日 二人を この家に連れて帰り
赤子の方は すぐに息を吹き返した
くるまれた 産着の布が 高級な絹から みて身分の高さが うかがわれる
しかし
今も ピクリとも動かない
女の息は まだ弱く危険な状態が続く
ふくらはぎの パックリと開いた傷跡
海水の中で 血が流れ どれだけの、痛みだったか
体中にも2 30の かすり傷
肩にも手にも 船の破片が 女の体を傷つけたのだろう
それなのに、赤子の顔は どこにも傷跡がなく
海の中で 息を吹き込んでいたのか
どうやって赤子を守り通したのか
この女が命を かけて 大切に 赤子を守った形跡が
見て取れる
一番ひどい ふくらはぎに、薬を塗るが
人間の、足でなく 棒に 手当をしているように
感じるほど 女は ぐったりとしたままである。
玄関に人の気配を感じ
家から一番近い住人 タグが入ってきた
「リュウさん、女の人は まだ気づかないのかい?」
「大変だなぁ、、、」と
自分にも 生後6ヶ月の娘がいる その嫁の 乳を
そっと差し出した。
「でさ、うちのが一番大きな魚を焼いてさ リュウさんに持っていけって、」
焼きたての白身魚と、握り飯を出した。
「二人の人間の世話をしていたら 料理をする時間もないだろって」
「ありがとう 世話になるよ、、
タグさんの助けがなければ カイトも一人で育てられなかった]
「お互い様だけれど うちの嫁は リュウさん贔屓だからなぁ
一番 大きな魚を 売らないで、、」
「今の 状態で まだ こんな二人を助けようとする リュウさんだものなぁ,、」
全くと 呆れ顔で 言った。
「明日も 様子見に来るよ、」
ドアを閉めた小さな音に
ピクリと
身動き ひとつしなかった 女の体が反応した
薄く目を開け 必死に顔を動かし
赤子の姿を 確認した
カイトが赤子の手を握りしめる 姿を見て
そして 安心したように
また深い眠りに落ちた。
助かるかもしれない、、
回復に向かっている?
男で 一人では 子供二人を育てる気持ちも 自信もなかった
カイトの意思表示に 従ったが、自分でも 後悔と不安があった
とにかく、女が目覚めたことに ホッとした。
3月の夜は
まだ寒く
女の体も冷たく 体温が下がっている
女を助けた 二日間と同じように
足や手をマッサージして 血行を促したあと
上半身裸になり 自分の体で 女の体を温めた
ふくらはぎの足の傷は どんな薬を使っても
一生残るだろう
女の冷たい体が 自分の体温で 2日前より
人肌が 少し ほんの僅か、暖かくなっていくように 感じた。
何日か
ただ 女に手を回して 温め抱いて眠るだけだが
その女の人肌の 体中傷だらけにも関わらず しっとりとした
柔らかい暖かさに 慣れてきて 安心感さえ湧いてくる
そんな自分の 変化にも驚く
一週間は たった頃
ふっと気がつくと
自分の体に、無意識なままの 女の手が回っていた
意識のないままに 二人の体が 抱き合って
離れないように しがみついていた
自分の肩にまわった その手を離せないでいた
1週間の看病疲れ、女の肌のぬくもりの 心地よさに
男は、もう一度、そのまま、深い眠りにおちてしまった。
男が目覚めたとき 女も目覚めて いた
その時 初めて目覚めた 女の瞳を しっかりと見た
女の瞳の 深さや 凛々しさに
美しいと 気がついた。
あの筋肉質のふくらはぎや 体からは 予想もしないほど
動かない女の 瞳を覗いたら
そこに自分の顔だけが その瞳に写っていた
女の瞳の中に
思ってる以上に 自身のある 自分の目と 顔があった
女も リュウに 手を回した状態の まま
横に眠っていた 男の目だけを見ていた
二人が 動けなかったのは数秒かもしれないが
とても長く感じた
先に女が手を離し
目で赤子を探した。
二人のすぐ横で眠る
2歳に近いカイトのそばで
カイトの手に抱かれて ゆっくり眠る 安心した顔の 赤子を見つけた。
安全な赤子の姿に、ガクリと緊張していた 女の体が 緩んだ。
カイトが目覚め
目覚めた女の顔を 珍しそうに覗き込んだ。
何一つ心配のない カイトの瞳を 見つめる女
そして ゆっくりと振り向き 美しい顔で
もう一度 自分を抱いて 眠っていたリュウの顔を 見返した。
女が また 気を失ってしまわないかと、心配している自分に気がついた。
朝の光が
4月の優しく あたたかく、長く
小さな家の中で 眠る4人に 差し込み きらめいていた。
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