第41話 もう遅い
「きょ、局長……」
馬に乗ったマイル局長が門の方からこちらにやってくる。
何しに来たんだ?
「シェイド君。盗賊団引き渡し以来だな。あの時はこんなツマラナイ辺境に二度も来ることになるとは思わなかったよ。あははは」
「……局長。拠点内は乗馬禁止です。馬屋へ預けてきてください」
「ぷっw ザコが一丁前に細かいことを言うな。それより、キミに朗報があるぞ?」
と、あくまで馬上の高いところから言うマイル局長。
「議会がキミに戻ってきてよいと言っているそうだ」
「議会が?」
「そうだぞ。日雇い契約としてなら土魔法課に1名ぶんの予算を許してもらえることになったのだ。ありがたく戻ってきなさい」
「……」
「どうした? 早く準備をしろ。私と一緒に来るのだ。ハッ!ハッ!」
馬へ
だが、俺は一歩たりとも動かず、深いため息をついてこう言った。
「……帰ってください」
「あ?」
「バイローム地方の開発はすでに始まっています。もう俺だけの事業じゃない。人は集まって来ているし、仲間もできた。今さら戻って来いと言われても、もう遅いんですよ」
「ふん、意地を張るな。キミのような無能が再び宮廷に雇ってもらえるのだぞ? こんなチャンスは二度とない。
「何と言っても俺は戻りません。帰ってください」
重ねてそう言うと、局長は信じられないモノを見るように目を見開き首をかしげた。
「くくくっ、そもそもキミに選択権などあると思っているのか? なあ、シェイド君」
「……どういう意味ですか?」
マイル局長は馬上からジロリと俺を見下し答える。
「キミの捕まえたルービア盗賊団、あれが逃げたのだよ。トンネル崩落事故でね」
「トンネルが!?」
「そう。キミが長年見てきたトンネルだ。どうせ手抜きメンテナンスだったのだろう? そのせいで私はこのままではクビだ。キサマのせいでな!」
局長はまたクククッと不気味に笑って続けた。
「……そもそもキミがあんな大盗賊をマグレで捕えたりしなければこんなことにはならなかったんだ。しかし皮肉なものよ。そのキミを連れて帰ればクビだけは免れるそうだ。よってキミは私についてくる義務がある。責任を取れ! 責任を!」
……理解に苦しむ。
その思考回路に。
だが、あまりに跳躍した超理論であるからこそ、俺はなんと答えてよいか少し途方にくれてしまった。
「本当にツラの皮が厚いのね」
そこで銀髪のポニーテールをぱっと払って口を開いたのはセーラである。
「そもそも自分たちでシェイドのこと『予算のムダだ』と追い出しておいて……実際に道やトンネルが壊れだしてから今さら戻ってきてもらおうなんて虫がよすぎるわ」
「なっ、セーラ様……」
マイル局長はカッと顔を赤くする。
そう言えば宮廷の人間は有名冒険者に弱いんだったな。
「シェイドは戻らないって言っているの。一度で聞き分けなさい!」
「ひっ……」
そうこう言っている間に、拠点の狩猟部隊がマイル局長の周りを取り囲んでいた。
どうやら門の検問すらちゃんと受けていなかったらしい。
狩猟部隊は彼を馬から引きずり下ろし、連行しにかかる。
「ひっ、ひぐ(泣)……た、頼むよシェイドくうん」
さっき怒っていたかと思えば今度は泣き落としだ。
「妻子がいるんだよう。クビは嫌だよう。頼むよ、助けてくれよう。うううう……」
「局長……」
こうして局長の身柄はひとまず俺の拠点の狩猟部隊が預かるところとなった。
「……ねえ、シェイド」
そこでセーラが後ろに手を組んでぐいっと俺の顔をのぞきこんできた。
「まさか、やっぱり帝都へ戻るだなんて言い出さないわよね?」
「え……?」
「いえ、あなたって他人に甘いところがあるから」
俺はジッと見つめてくる青い瞳から目をそむけて答える。
「言ったろ? ここにはもう大事なものがあるんだ。今さら宮廷魔術士に戻るなんて、ありえねえよ」
「ほッ……そうよね」
まあ。
そうは言ったものの、実際はかなり迷ってたんだけどな。
甘いかもしれんけど、なにせ帝都の人々100万人の暮らしに関わってくる話だ。
橋やトンネルの崩落など聞くと、土魔法使いとして胸が痛むし。
でも……
結局『日雇い契約としてなら』というのを聞いて、俺は応じないことに決めたんだ。
カネの問題というよりは、この期に及んであくまでコストカットの体裁を保っていなきゃすまない議会の感じに、これはもう都民100万人みんなが少しずつ悪いってことなんだろうって思ったからである。
だから、別に俺はマイル局長個人に対してそれほど恨みを感じないんだよな。
……と、そんなことを考えていた時。
ふと、モンドや3人娘がポカーンと口を開けているのに気づく。
おっと、そう言えば慰安小旅行へ出かけるとこだったじゃん。
「騒がせて悪かったな。気を取り直してピクニックだ」
そう言うとみんないつもの調子で「おー!」と答えた。
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