第40話 バイロームの三路線
盗賊の事件の一方で、第一の拠点と第三の拠点を鉄道でつなげることができていた。
ポー!!……ゴトン、ゴトン……
青空の下、荒野を走る魔法鉄道。
燃料の魔石が採光を
駆動部に
うん。
これでスムーズに人や物資を第三の拠点(すなわち採掘所、製鉄所)へ送ることができるだろう。
「こうなったら全部繋いでおくか」
俺はそう考え、さらに鉄道の『路線』を拡張していった。
そう。
最初に敷設したのは、第一の拠点から製鉄所のある第三の拠点までの路線。
一方で、これだと第二の拠点(農業地)が孤立した格好になってしまっている。
と言うわけで、俺はあと二本路線を築くことにした。
つまり、『第一の拠点←→第二の拠点間』と『第二の拠点←→第三の拠点間』にもレールを敷いていったのである。
【路線図】
③
↑ ↖
A C
路 路
↓ ↘
① ←B路→ ②
で、三路線の完成後。
「おお! なんとも素晴らしい鉄道網ですな」
そう褒め称えてくれたのは、先日より取引をしてもらっている商人のトネルだ。
注文の品を仕入れて、再びこの領地を訪ねてくれたのだった。
「しかし……帝都では『C路はムダだ』と言われそうなところですなあ」
「まあ、確かになー」
俺はタバコを咥えながら答える。
議会や宮廷魔術士たちは、『道は帝都から放射線状に延びていれば良い』って発想だからな。
でも、国家・国境を強くしたいのなら、交通は放射線状ではなく『
国内すべての街がすべての街と『直通』しているということは、国の内と外で『行き来のしやすさ』に落差をつけることに他ならないからだ。
「近ごろは、帝都ではその放射線状の道すら危うくなっているそうですぞ。道は使えず、橋は落ち、トンネルは崩れ始めておるのです」
「……そうか」
まあ、土魔法課を廃止したというのはそういうことだよな。
「いやあ。それにしても、いよいよ帝都ももうダメですな。これからはここ、バイローム地方の時代ですよ!」
そこで商人のトネルはそう手もみをして言った。
ヨイショのつもりだろうが、これに俺は少し眉をしかめる。
俺はそこまで割り切ることはできないのだ。
「……でもさ、都がダメになるのはまあいいとして、このリーネ帝国全体がダメになっちゃ元も子もないじゃん」
「はあ。しかしそれは……もう仕方がないのでは?」
仕方がない、か。
「あんたみたいな商人はそれでもいいかもしれないけれど、一応俺には忠義心ってヤツがあるんでな」
「ほう。それはそれは……」
ちょっぴり嫌みを言ったつもりだったのだが、ちっとも気にしない様子なのにはさすが商人だと感心させられた。
商人というのはそういうものだし、それでいいものでもあるからな。
「でも、一体どうするんで? いかにシェイド様一人がそのようにお感じでも、文明の滅びの前ではどうにもならんでしょう」
「確かに……あんたの言う通り、
そこは認める。
「みんな戦争に負けてからの長い間、タテマエの上にタテマエを塗りかためすぎて、もう自分達の本当の気持ちすらワケがわからなくなっているんだ。このまま時代が進めば、いずれ冗談みたいな
俺はタバコの煙をフーッと吐いて続けた。
「そうなった時も、この国には俺の領地がある。帝都が混乱したなら、機をうかがって帝をこの地に招けばいい。つまり……」
と、一呼吸置いて結論を言う。
「バイローム地方を『首都』にするんだ」
「この地を首都に……??」
トネルは口を開けてぽかーんっとしてしまった。
「ああ。俺の野望にはあんたみたいな商人が欠かせないからな。これからもよろしく頼むぜ」
俺はそう言って、彼の肩を叩いた。
◇
「おーい。領主様ー!」
「もう出発ですよー」
「ゴー!」
さて。
俺がトネルと話していると、娘たちやチビが家の外から呼ぶのが聞こえてきた。
窓からのぞくと、みんなカジュアルだがお出かけ用の格好をしている。
「ほう、慰安旅行ですかな?」
「旅行というほどでもないけどな。ピクニックってとこだ」
俺が答えたちょうどその時。
ガチャリ……
寝室の方から私服のスカート姿の女が銀髪をポニーテールに結びながら部屋に入ってきた。
「あら、シェイド。まだ準備していなかったの?」
「セーラ……いや、お客さんが来ててさ(汗)」
トネルは「すみません奥さま。私はこれで」と言って席を立とうとするので、俺は「お前も一緒に行かないか」と誘ってみるが商人はこれを固辞した。
「新たにご注文いただいた品々を一日でも早く仕入れて参りたく存じますので」
「そうか」
トネルが去ると、俺は寝室の方で着替えを始めた。
まあ、男の準備なんてのにはそう時間はかからない。
髪をとかして、セーラに上着を羽織らせてもらうと、一緒に家を出た。
「領主さまー」
「遅いですよー」
道へ出るとみんなにブーブー言われる。
こんなことに小さな幸せを感じるのは不思議なもんだな。
「悪ぃ悪ぃ。じゃあ行こうぜ」
俺は笑いながらそう言って拠点の駅へ向かおうとした。
……が、その時である。
門のほうで馬の
何事だ?
そう振り返った時。
「やあ。シェイド君!」
馬に乗ったマイル局長が、ニヤニヤとした冷笑を浮かべて近寄ってくるのが目に入るのであった。
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