第38話 捕縛
その後。
ならず者の子分らしき男たちは、自作ゴーレムのチビによって掃討された。
「ゴー!」
「わ、なんだこのチビなゴーレムは??」
「めちゃ強いぞ」
うん。
チビも採掘現場でずいぶん強くしたもんな。
そこらのチンピラくらい軽くひねることができるのも道理だ。
「チビ、殺すんじゃないぞ」
「……ゴ」
少し不満そうではあったが、チビはちゃんと命令に従ってくれる。
「ううう……」
「くそお」
縄にかけられた男たち。
素性を問うと、なんと本物の盗賊団だったらしい。
しかも……
「ルービア盗賊団? 聞いたことあるぞ」
「げっへっへ。光栄でございやんす」
と、先ほど俺にすっ飛ばされた大男が言う。
こいつ(特別ギチギチに鉄鎖で縛っておいてある)が、親玉のルービアらしい。
ルービアと言えば、たしか国際指名手配されている盗賊だが、照れるようなことじゃない。
「シェイド様」
そこにモンドがやって来て言う。
「おお、おつかれさん。どうした?」
「はい。ロッド地方の領主から聞いたのですが……」
モンドの話によると、あのダイスという文官がロッド地方の宝物を持ち逃げしつつ行方不明なのだそうな。
「先ほどパワーストーンを手に入れたと言っておりましたので、ダイスからの経路なのでは……と」
「パワーストーンを?」
俺は瞬間ギョッとする。
ドーピング系のアイテムのヤバさは、身をもって体験しているからだ。
「い、いくつだ?」
「なんと……10個もです」
しかし、全然たいしたことなかった。
いや……普通の感覚で言えばパワーストーンを10個ってのは大変なことだよな。
どこでも掘れば出るってもんじゃないんだから。
まあ。
いずれにせよ、領主の私財を盗んで盗賊を雇うだなんて許されざる無法だし、ここまで明確な敵意のある個人を放っておくわけにはいかない。
「というわけで、ダイスの居場所を吐いてもらおうか」
「ひっひっひ……となると罪は軽くしていただかなきゃならんですぜ」
「なんだと?」
「そりゃそうでしょ。ダイスの居場所を吐くってことは雇い主を売るってことになるんだ。盗賊の信用問題に関わる。こちらも相応の司法取引がなきゃごめんですぜ」
「っ……」
こいつはセーラの乳揉みやがったし、極刑に処してやりたいところだが……
領地のみんなのことを考えるとダイスは捕らえておかないとまずい。
「……お前たちを野に放つことはできねーな。世の中の人が迷惑する」
「だったらダイスの居場所を吐くわけにはいかねえんだぜ? それでいいのか? ゲヘヘ」
薄笑いを浮かべるルービア。
こういう輩は甘い顔をしているとつけあがる。
俺は
「牢屋から出すつもりはねーけど、殺すのだけは勘弁してやるよ。命が惜しければさっさとダイスの居場所を吐け!」
「ひ、ひいッ……じょ、冗談ですぜ、旦那。へへへっ……」
すると、先ほど投げ捨てられたのを思い出してか、あの岩のような大男のオークのような顔が恐怖にゆがんだ。
しかし、その時。
パチパチパチパチ……
ふいに背後から、渇いた拍手の音が聞こえてくる。
なんだ?
「いやあ。君にしてはよくやったね、シェイド君」
「マ……マイル局長?」
そう。
そこには俺に左遷を言い渡した元上司、マイル局長が立っていたのだった。
兵を率いてきたらしく、門からぞろぞろと町に入ってきている。
「局長、どうしてここに?」
「ああ、国際指名手配のルービアがこちらに来ているとの情報があってな」
ふと、そのタレ込みはダイスの手によるものではないかと思った。
「はあ、しかし盗賊はもう捕らえてしまいましたが?」
「そんなことは見ればわかる。とっとと賊を引き渡したまえ」
「……帝都がこいつらを
旧リーネ帝国の中央がルービアたちを扱うというのであれば引き渡すのもやぶさかではない。
まあ、『いるんだったら盗賊に襲われている時に助けてくれればよかったのに……』とは思ったが、バイローム地方は旧・帝国のイチ領地だ。
ダイスの件をしっかりやってくれればこれに従う用意はある。
しかし……
「いや。ルービア盗賊団は国際的な盗賊だ。身柄を確保した後は、カタルゴ連邦に引き渡すことになる」
「は? 我々で捕らえた賊を、我々で裁かないんですか!?」
よその国へやってしまえば取り調べでダイスのことなど聞き出してくれるはずもない。
「仕方ないだろう。同盟国との信頼のためだ」
「……」
「なんだ? 不満なのか?」
「……不満と言ったらどうするんです」
「ならば力づくでいくまでだな」
マイル局長がそう言うと、後ろの兵たちが剣を構える。
カチャ、カチャ……
「うっ……」
今の俺の力ならば、この兵たちを倒すことなどわけないだろう。
しかし、この場で彼らを倒しても、次はまたもっと多くの兵が来るだけだ。
もし、それも倒して、旧・帝国の兵を倒し続けたとしたら、いつか親玉国のカタルゴ連邦がやってくる。
ここで旧帝国のささやかな兵を倒したところでほとんどなんの意味もなかった。
「……わかりました」
「ふんッ、相変わらずいちいち口答えしおって。……よし、連行しろ」
こうして、せっかく捕らえた盗賊団はあえなく連れて行かれてしまったのだった。
「シェイド……」
その後。
さすがに落ち込んでいた俺の背に、セーラがやさしく手を置いた。
「あなたは悪くないわ」
「良いか悪いかはわからないけど……」
俺はセーラの裸の瞳を見つめて答える。
「……俺はまだ弱い」
そう。
俺個人の力をいくら強くしても、人間集団、国家の力には敵わない。
ましてやカタルゴ連邦を超える力など、個人の戦闘能力では不可能だ。
これに対抗するには……
「この領地そのものを強くしないとな」
俺はこの街と領民たちを見ながら、そうつぶやいた。
◇ ◆ ◇
帝都周辺の公共施設は、シェイドが土魔法課を去ってからというもの放置されていた。
これによって橋や道路の点検や保守、メンテナンスがされずに風化のデッドラインを向かえてしまう事例が多くあらわれたのだが、その日、とうとう最悪の事態が発生する。
ズドーン……
帝都へ続く道のひとつであるトンネルが、崩落したのである。
幸い死者は出なかったものの多くの怪我人が出てしまう。
そして……
その中のひとつの鉄檻つきの馬車から。
「げっへっへっへ! ラッキー」
大男が下品に笑いながら出てきてしまった。
「親分! もうダメかと思いやしたぜ」
「早く遠くへ逃げましょう!」
破損した檻の中から次々とならず者たちが出てくる。
そう。
彼らは搬送中の国際指名手配犯、ルービア盗賊団。
トンネル崩壊の混乱の中で野に放たれてしまったのである。
「まあ、あわてるな」
「親分?」
「逃げねえんですか?」
「バカ。これで逃げねえ盗賊があるか? ただ、そう遠くへ逃げるこたあねえってことさ」
親玉はそう言ってブタ鼻を鳴らす。
「旧・リーネ帝国とか言ったか。この国は敗戦後に経済だけはよかったものの、その経済すらゆっくり落ちぶれていっているところって話だ。ゲヘヘ……そういう国こそ盗賊にはありがてえ。まだまだ食い物にできるし、この通り脇が甘めえからな」
「なるほど!」
「さすが親分!」
子分たちは口々に親分の見立てに感心する。
下品な立ち振舞いながら、何気なく真理をつくようなところがこの親分にはあった。
「もっとも……」
ただし、ルービアはふいに何かを思い出したように身震いしてポツリとつぶやく。
「あの領地へだけはもう近寄りたくねえがな……」
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