第37話 鉄道開通



 俺は鉄道のレールを伸ばして、第三の拠点と第一の拠点を繋ぐ作業を続けていた。


「領主様。こっちのレールはつなげてもいいですか?」


「すみません! そっちにボルトあまってませんか?」


 そんなふうに聞いてくるのは第三の拠点の民たちである。


 彼らは、俺が鉄道を作っている様子を見て「こちらを手伝いたい」と希望した者たちだ。


 というか希望者は多すぎて、手伝いはくじ引きで決めたくらいなんだけどな。


 やっぱり、鉄道にロマンを感じる人は多いらしい。



 ガヤガヤ……コンコンコン!……ガチャン、コンコン!!



 こうして第三の拠点のみんなが手伝ってくれるようになり、鉄道敷設は想定していたよりずっと早く進んだ。


 やっぱ、いくら土魔法があっても、一人でやるよりみんなでやった方がはかどるよな。


「お! 見えてきたぞ!」


「拠点だ!!」


「ゴ?」


 こうしてレールは第一の拠点までレールが繋がった。


「わーい! 帰ってきた」


「ひさしぶりー」


 手伝ってくれていた娘たちも口々に喜んでいる。


「ふふっ、第一の拠点の人々にはチビの紹介をしないとな」


「ゴゴっ♪」


 それに心配性のセーラを安心させてやることもできるぞ。


「よし、じゃあ今日はみんなこっちの拠点で一休みだ。接続作業は明日にしよう」


「「「はーい!」」」


 こうして、みんなで石の城門をくぐり拠点へ入った。


 のだが……


「おかしいな?」


 何やら街がシーンと静まり返っている。


 人はかなり増えていたはずなのに、どうしたんだろう?


 そう思って自分で作った街を進んで行くと、何やらあちらの道の方が騒がしいのに気づく。


 ワーワーワー!!……


 みんなでイベントでも開いているのだろうか?


 だったら俺が帰ったのに気づかなかったのもしょうがないか。


「ヒューヒュー!」


「熱いねお二人さん!!(笑)」


 大勢の男が何かをはやし立てる声。


 ずいぶん盛り上がっているようだけど、なんだか下品な煽りだな……


 そう思ってそっちの道を覗いてみた時だ。


「い、嫌ッ」


 もみ♡ もみ♡ もみ♡……


 なんと、あのS級女騎士セーラが大男に無理やり胸を揉まれて、キスさせられそうになっているではないか。


「げへへへッ……ムチュー」


 そのオークのような男の醜悪なタラコ唇が、彼女の可憐な唇と今にもくっつこうとしていた。


「ッ……けて。たすけてシェイド!」


「セーラ!!」


 俺は頭が沸騰したように熱くなり、とっさに駆けた。


 シュン……


 収集したスターダスト・ストーンによってUPしたすばやさ。


 その超スピードで間合いを詰めると、俺はそいつの首根っこをグイッと掴む。


「んー、ムチュー……あれ?」


 大男の唇はセーラの唇とくっつく髪一本手前で進まなくなった。


「シェ、シェイド!」


 セーラが眼鏡メガネごしの瞳を開き俺に気づくと、大男の方も異変に気付いてこちらを振り返った。


「ぁあ! なんだぁ? てめえは?」


 そう血管を浮かべながらも、まだモミモミとセーラの胸を揉んでいる大男。


「キサマぁ……」


 俺は腹にマグマの沸くのを感じながらフーッと短く息を吐くと、


「……そのちちは俺のだ!」


 と怒鳴り、男の首根っこを引いた。


 すると、モヒカンの大男はふわりと斜め後方へ浮かぶ。


「へっ?」


 かと思えば次の瞬間、男の巨体はまるで大砲の玉のようにすっ飛んでいった。


 時間にして0.01秒。


 掘削現場でのパワーストーン73個ぶんのパワーUPはやりすぎだったと悟った瞬間である。


「きゃっ!」


 しかし、その余波でセーラへも衝撃がいってしまう。


 白レオタード・アーマーの美しい肢体がリボンのようにひるがえり、眼鏡メガネが吹っ飛びレンズが音を立てて割れた。


「セーラ!」


 俺は女の身体が地面に打ち付けられる前に走ってキャッチする。


「ごめん! だいじょうぶか!」


「うーん……はっ、シェイド!」


「ホッ、どうやら怪我はなさそうだな」


 と安堵して見つめると、セーラは眼鏡メガネを失って裸になった青い瞳に涙をためた。


「シェイド……!」


「セ、セーラ? どうし……」


 あの気の強いセーラが涙ぐむなんて……


 そう戸惑っていると、ふいにセーラはそのしなやかな腕を俺の首にぴたりと回してギュッと抱きつき、叫んだ。


「好きよ! 結婚して!」


 太陽がきらめき、髪の素晴らしい香りが鼻腔をつく。


「……」


 俺は少し放心状態だったが、首元につぶれる乳房の温かみにハッとして、女の背中を抱き返し言った。


「この領地を最強にしたらな」


「……ッ、うふふ」


「へへっ」


 女の肩が笑っているのを見ると、俺はかすかに身を離し、『約束』のためにセーラの唇に俺の唇を重ねてみせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る