第36話 ピンチ


 セーラは盗賊団の前で胸を張り立ちふさがった。


 シェイドの作った街は荒らされ、彼らによって支配されようとしている。


「セーラ様。ごめんなさい」


 果敢にも盗賊に立ち向かった少年はそう涙ぐむ。


 セーラは素早くこの子を安全な場所に下がらせた。


「いいのよ。よくがんばったわね」


 セーラはやさしく言って少年をぎゅっと抱き締める。


「あっ、ガキがいねえ!」


「てめえ!」


「ナメたマネしやがって」


 その時、盗賊たちはようやく少年を奪い返されたことに気づいた。


「あなたたち……覚悟しなさい」


 セーラは美しい背中に白パンツのようなお尻をぷりっと向けたまま、肩越しに銀の眼鏡メガネを静かに光らせると、次の瞬間消えた。


 実際には本当に消えたのではなく、ものすごいスピードで間合いを詰めたのである。


 盗賊たちはこれにまったく反応できていない。


 セーラは細身の剣を抜き、これで彼らの身を打ち付けた。


「ぎゃあああ!」


「痛ええ!」


「安心して。峰打みねうちよ」


 とは言えど、骨の一、二本は折れ、男たちはのたうつ。


 盗賊は一人二人と倒れ、全滅も時間の問題かと思われた。


「キャッハー! 捕まえたぜええ!!」


 しかし、その時。


 ひときわ大きな身体を持った男に腕を掴まれてしまう。


「自慢のスピードも掴まれちゃあどうにもならねえだろ? ……よくも子分どもをやってくれたな。オレ様がこの団のヘッドのルービアだ! 観念しやがれ!!」


「そう……」


 セーラは冷たく返す。


 そして、親玉の太腕に掴まれた女性らしい腕をグググっと上げていった。


「なっ? 強い??」


「スピードだけとでも思ったのかしら? あまり女を甘く見ないことね」


 そう。


 彼女は元S級冒険者。


 スピードと弓での立ち回りが基本ではあったが、パワーにおいても盗賊程度に負けるはずはなかった。


「痛い目に遭いたくなかったらおとなしく逮捕されなさい」


「……てめえこそ男を甘く見てんじゃねえよ」


 その時。


 盗賊のリーダー、ルービアの筋肉はさらに隆起し、なんと片腕のみでセーラの両手を抑えつけ返した。


「え?」


 眼鏡メガネの向こうの青い瞳を丸々とさせるセーラ。


 それは素人の力自慢の域を超えたパワーだった。


「クックック、確かにてめえはパワーも並の女じゃねえらしい。だが、残念。オレ様もちょうどお宝を手に入れたばかりでな」


「宝?」


「そうお宝。パワーストーンさ」


「!!」


 パワーストーンはひとつで攻撃力を10も上げてくれる貴重な鉱石である。


「そいつをオレたちにくれた親切なヤツがいてなあ。ダイスとか言ったっけ。てめえ、知ってるか?」


 ダイスの名はセーラも知っていた。


 モンドが要注意人物だと言っていたっけ。


 だが、今はダイスのことなどどうでもいい。


「い、いくつ……?」


「あ?」


「いくつパワーストーンを使ったの!」


「クッフッフ、聞いて驚くな?」


 盗賊親分のルービアとやらは剃りこんだモヒカンの皮膚に血管を浮かべながら答えた。


「10個だ!」


「じゅ、10個も……?」


 セーラは顔を青ざめた。


 パワーストーンを10個も使ったということは、攻撃力が100も上昇したことになる。


 セーラと言えど女。


 これではいくら女にしてはパワーがあると言っても、男の太腕に敵うはずがなかった。


「ゲッヘッヘ……これからてめえはオレの女になるんだ」


「だ、誰があなたなんかと!!」


 太ももをモジモジとあせらせながらも、セーラはまだ気丈に反抗する。


「強がっていられるのも今のうちだぜ。オレ様とてめえでは圧倒的なパワーの差がある。力づくで言うことをきかせることもわけないんだ」


 そう笑って、ルービアは片手で女の両腕をギリギリと上へ釣り上げた。


 上体が反らされ、白いレオタード鎧に浮かぶふたつの乳房が丸々と強調される。


「例えば、こんなふうになァ!」


 ルービアはそんな乳房をもみっ♡とわしづかみにしてみせた。


 もみ♡もみ♡


 甲まで毛の生えそろった手に掌握されたセーラの乳房。


「うっ……」


 セーラは生まれて初めて男に胸を触れられてうめき声を上げるが、乳房自身はもっちりと媚びるような弾力を勝手に放ち、むやみに男を喜ばせてしまう。


 むにゅ……もち、もちぃ♡


(く、くやしい……!)


 もみもみと乳房を揉まれて唇を噛むセーラ。


「思った通りいい乳だ。これから毎日揉んでやるからなァ」


「ま、毎日!?」


「そうだ。てめえはオレ様の女にすると言っただろう? ……じゃあ、そろそろ誓いのチューといこうぜ」


 そしてルービアは、女の形のよい唇へむチューっと口を寄せていった。


「ヒューヒュー!」


「熱いねお二人さん!!(笑)」


 はやし立てる盗賊の子分たち。


「んー、んー、ムチュー!」


 盗賊親分の醜悪なタラコ唇が自分の唇へ迫ってくる。


 あと少しでくっついてしまう。


(嫌ッ……シェイド助けて!)


 セーラはぎゅっと目を閉じた。

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