第29話 自作ゴーレム


 さて、区画化された地下の掘削現場で。


 俺はその1-Aブロックから順番に採掘していった。



【1-A】

〇魔石 3

〇銀 4


【1-B】

〇ルビー 7

〇金 4

〇パワーストーン 2

〇石炭 12


【2-A】

〇魔石 10

〇銀 6

〇思考石 13


【2-B】

〇サファイア 3



 こんな感じでバラつきはあるものの、各ブロックで鉱石が採掘できる。


「つーかパワーストーン、まだ出るんだな」


 そう。


 2だけだけど、まだ埋まっていることがわかっただけでも嬉しい発見だ。


 ちなみに、採掘し終えた区間は再び埋め立てなければならない。


 これはこの洞窟の崩落を防ぐためだ。


 俺は『1-A』~『2-B』までの区域を埋め立てると採掘済のマークを付けて、また次の『3-C』ブロックから順に掘り進めていく。



【3-A】

〇鉄鉱石 16

〇思考石 7


【3-B】

〇思考石 11


【4-A】

〇銅 4

〇石炭 6


【4-B】

〇思考石 3

〇金 2

〇鉄鉱石 8



「それにしても『思考石』がけっこう採れるな」


 俺はそうつぶやくが、でも、よくよく考えてみると当然のことだった。


 そもそもこの洞窟にはゴーレムが出現するのだ。


 ゴーレムのような岩、土、煉瓦などが動き出す魔物は、思考石をその核としているのだからな。


 こうしてゴーレムの出現する場所に思考石が埋まっているのも道理である。


「ゴーレムか。作ってみようかな」


 そこで俺はそんなことを思い立った。


 ただし、思考石を一つだけ核として動く岩を作ろうとすると、これは魔物となり、襲い掛かってくる。


 命令を聞くゴーレムを作るには、その身体をすべて思考石によって構成されたゴーレムにしなければならない。


〇思考石 232


 で、これまで採掘したものを合わせると思考石はこれだけある。


「とりあえずこれで作ってみるか」


 そう言って俺は工作BOXを開いた。



 ゴーレム作成。


 まず『素材の編集』によって思考石を圧縮する。


 これは、思考石に不純物が混じっていると、先述した理由によって敵対心の強い魔物が生みだされてしまうからである。


〇思考石(純度99.999%) 81


 このように純度を限りなく100%へ近づけていくと、数量的には減ってしまう。


 数量『81』と言うとだいたい成人男性の半分くらいの身長の石人形ができるくらいのものである。


「ちょっと小さいけれど、ものは試しだ。とりあえずこれで作ってみよう」


 そうつぶやいて、俺は頭の中で人間の形を思い浮かべた。


「むむむむ……難しいな」


 しかし、人体というのは我々が考えている以上に複雑な形をしている。


 カッコイイ戦士とか、可愛い少女とか、どうにかそういう形を思い浮かべようとするが、なかなかうまくいかない。


 そもそも魔法学校時代もアートはからっきしだったからなぁ。


 何度も言うが、俺の工作BOXは思い浮かべた形に素材を工作できるが、精密に思い浮かべられなければ工作できないのである。


「……うーん、こんなもんかな」


 で、苦心の末に出来上がったのは、たるのようなズングリとした胴体に手足がぴょろッと生えて、丸い頭に(・・)のようなごくシンプルな顔を持った石人形であった。


 サイズが人間の半分くらいというのもあり、あまり強そうではない。


「まあ、俺の芸術センスではこれが限界だろう」


 俺が仕上がりに微妙な思いをしていると、ふいにゴーレムはコロっと首をかしげてこちらを見た。


 ゴ……ゴゴ…………




 ◇ ◆ ◇




 いつも第一の拠点を任されているモンドは今、隣の領地ロッド地方を訪れていた。


 ニセモノの盗賊を送り返しがてら、使者としてシェイドの意向を伝えるためである。


「なんと、バイロームの領主はそのようなことを……」


 すると、ロッド地方の領主は目を見開いて驚愕した。


「てっきり、中央へ訴えを起こされるかと思っておったが?」


「はい。私はそのように進言したのですが、おおごとにして帝国領どうし仲をたがえるのは我が主の意向ではないと」


「むう……」


 ロッド地方の領主はヒゲをなでながらそう唸った。


「あっぱれ。高い道徳を持った立派な領主様と見えた。今の世に、まだそのような気骨の者がおるとはな」


「……」


 ジト目で見つめ返すモンド。


「コ、コホン……いずれにせよ、今回のことはこちらが全面的に悪い。申し訳なかったとご主人へ伝えよ」


 すると、ようやくロッドの領主はそう謝罪した。


「しかし、どうかご理解いただきたいのは……この度のことは部下にそそのかされてやったことなのだ。ダイスという文官にな」


「そそのかされた?」


「も……もちろん部下の言に惑わされたワシにも責任があることは認める。しかし、そのダイスが今、行方不明となってしまったのだ」


「なんと!?」


 モンドは、ダイスという文官に覚えがあった。


 一番最初に使者としてバイロームを訪れた男で、妙にインテリぶって人柄の小さな男という印象しかなかったのだが……


「我々はもうこのようなことをするつもりはない。しかし、野に隠れたダイスが何をするかわからぬ。ゆめゆめ気を抜かぬようとご主人に申し上げよ」


 モンドは、『それならばダイスの確保もそちらの責任では?』と思ったが、その言葉は飲み込んで辞去したのだった。

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