第16話 洞窟
洞窟の中は思った以上に深く、入り組んでいた。
「ライト……」
俺は魔法学校の教養課程で習った初級光魔法『ライト』を唱え、頭の上に生じた魔法の灯りで洞窟内を照らしながら進んでいった。
ジャリ、ジャリ……
静かだ。
足音だけが反響しながら、魔法のライトが俺の影を岩肌へ映して悪魔のように伸び縮みしている。
ギャアア!
もちろん時おり魔物があらわれるが、すべて逃げた。
HPはすでに半分くらいなので、これ以上減ってしまうと引き返さなくてはならなくなる。
敵の強さ的には外とあまり変わらないので倒せなくはないが、攻撃を喰らわないことの方を優先した。
こうして、しばらくは一本道に光る岩を掘削しながら進んでいたのだが、やがて分岐して、迷路のごとく入り組んでくる。
下り坂が多く、位置は下へ下へと向かっているような気がした。
それほど奥があるとも思わずに入った洞窟だけど、意外と深いんだな。
もはや
「……ええと、あっちはさっき来た道か」
それでも迷わずに進めたのは『マッピング』という魔法を使っていたからである。
――マッピング。
これは土魔法課時代に覚えた魔法であった。
帝都の街の地中には代々の帝国民たちが苦辛の末に築いて来た膨大なる地下水路と地下排水空間があるのだけれど、現在の帝国民では誰もその全容を把握する者はなくなってしまっている。
そのすべてを一人でメンテナンスしなければならなかった俺にとって、『マッピング』の魔法は必須だった。
無策で帝都の地下水路に足を踏み入れれば、迷って二度と地上へ上がってこれなくなるかもしれんしね。
まあ、マッピングをダンジョン探索に使うだなんて、あの頃は思ってもみなかったけどな。
「とはいえ、かなり下りて来た気がするぞ」
そう思って、マッピングの『海抜』の数値を確認する。
Z軸:-245
洞窟入口の地点はZ軸:+23だったので、相当下ってきたことになる。
そこからさらに下っていく。
Z軸:-245 → -256→ -270 → -286
そして、それは-300にまで達した頃だ。
「えっ……」
ふいに洞窟の狭い道が開け、巨大な空間に行き当たる。
キラキラ☆ キラキラ☆☆
そこは鉱物の山だった。
黄金のつるはしのガイド機能による光があちらこちらの岩壁にほとばしり、ライトの魔法が不要なほどである。
「な、なんだこれ」
そう漏らしつつ俺は黄金のつるはしを振るう。
大量の石炭や鉄鉱石はもちろん、金や銀、ルビーやサファイアなどの宝石類の原石も採れた。
「うっひょー!」
それだけではない。
○パワーストーン 3
たまにこのような超稀少な石も発見される。
このパワーストーンは1つ消費すると、(レベルに関係なく)攻撃力を10あげてくれる優れもの。
パワーストーンは1つでも大変高価なものだ。
それが固まって埋まっており、3つ、4つ、5つと次々に回収できる。
まだまだ採れそうだ。
「おっしゃ! これで一気に強くなれるんじゃね?」
そう思った時、ふと、大きな影が背後から覆いかぶさるような気配がする。
なんだ?……と怪訝に思った瞬間、雷のような衝撃が俺の背中を襲った。
「ぐはッ!」
不意打ち?
膝を折った俺だがとっさに振り返ると、そこには大きな岩のモンスターが立っていた。
ゴゴゴゴゴ……
岩ゴーレム(C+級)である。
攻撃力が強く、今の不意打ち一発でHPも残り10になってしまった。
「うっ……」
地下空間に満ちあふれた鉱物の輝きに一瞬足を止めてしまうが、再び岩ゴーレムが腕を振りかざして来るのを見るとさすがに駆け出した。
断腸の思いだ。
でも岩ゴーレムは動きが遅いし、身体がデカい。
このままさっきの細い道まで逃げれば追って来れないはず。
ギャオオオオ!……
しかしその前方から、今度はグリーン・ドラゴンが立ちはだかった。
固そうな緑の皮膚に、猛り狂った赤い瞳、
グリーン・ドラゴンはB-級のモンスターだ。
どやら、この鉱物にあふれた巨大空間には、数段もレベルの違うモンスターが住んでいるらしかった。
グオオオオオ……
グリーン・ドラゴンは俺の姿を認めるや、牙を剥いて躍りかかってくる。
コイツはスピードも速い。
「んなろー!」
俺は叫びながら、とっさに洞窟の細い道へ向かってヘッドスライディングするように跳んだ。
背後でドラゴンの攻撃の風圧を感じるが、なんとか狭い道の方へ逃げることができた。
ドラゴンは追ってこようと岩穴に顔を潜り込ませるが、腹がつかえてこの狭い岩道まで届かなかった。
「ヤベえ。はあはあはあ……」
それから、俺は息を切らせながらも洞窟をさかのぼっていく。
岩道でも(さっきの巨大空間の敵よりは弱いものの)魔物には襲われるし、あと一撃でも喰らうとアウトなので必死に逃げた。
やがて太陽の光が岩に反射する青白い光がほの見えてくる。
「そ、外だ……」
なんとか助かった。
が、HPも残りわずか。
残念ながら、今日のところはもう採掘は無理そうだった。
宝の山を前にして、満足に手にできなかった格好である。
「くそ……」
俺は唇を噛むと、銅の
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