第11話 第二の拠点:農業地


 その日。


 再び湖の地点へひとりでやってきた俺は『農業地』を作り始めていた。


 ポコッ、ポコッ、ポコッ……


 まず、沼の水をぜんぶ抜いたように、今度は周辺の『土』を掘り返していく。


 範囲は1000歩×1000歩。


 深さは俺の身長の5倍ほどだ。



【断面図イメージ1】


※□=土(痩せ)


□□□       □□□□□

□□□       □□□□□

□□□□□□□□□□□□□□□




 なんでこんなことをするのかって言うと、ここの土は痩せており、このままでは作物が育たたないからだ。


 俺は掘り返した『土』の成分を工作BOXで調整し、


○土(肥度80%)


 の肥えた土を大量に生成する。


 そして、この肥えた土のブロックを1000歩×1000歩のくぼ地へ片っ端から埋めていく。



【断面図イメージ2】


※□=土(痩せ)

 ■=土(肥度80%)


□□□■■■■■■■□□□□□

□□□■■■■■■■□□□□□

□□□□□□□□□□□□□□□



「よし、次は農水道だな」


 俺はそう言って次に水路を掘り始める。


 先日、沼から『湖』と化した水場から高低差を利用して水路を引き、灌漑かんがい施設を築くのだ。


 水路は1000歩×1000歩の農地へ網の目状に引く。


 縦8本、横8本の水路が広大な農地の縦横を走り、水が土地全体にいきわたるようにした。


 ジャー……!!


 水路には水門を設け、ちゃんと水量を調節することもできる。


 最後に。


 この荒野はモンスターにあふれているので防壁を作らなければならない。


 せっかく作った畑を魔獣に荒らされてしまうからな。


 1000歩×1000歩の広大な土地を、ぐるりと城壁へ囲う必要がある。


「ふー、やれやれ。やっと完成だ」


 こうして第二の拠点『農業地』ができあがった。



 ◇



 続いて、第一の拠点から第二の拠点につながる『道』を作る。


 この農業地では先日のモンド一家に農作業を行ってもらおうと考えているのだが、荒野にはモンスターが出る。


 彼らを安全に農業地に連れてくるためには、魔物から防御された強固な道が必要であった。


 そこでまず、石材で中が空洞の口の字型のブロックを作る。



【ブロック断面図】


□□□□□□□

□□□□□□□

□□   □□

□□   □□

□□□□□□□

□□□□□□□



 こんなふうな。


 で、このブロックを縦に間断なく並べていくと、中央の空洞がトンネル状の道になるわけだ。


 どすーん、どすーん、どすーん!……


 こうして俺は第二の拠点から第一の拠点へ向けて、このブロックをずらっと並べていった。


 そして、第一の拠点のとりでまで来ると、このトンネル専用の入口を城壁に掘って接続するのである。


「おお! 領主様」


「おかえりでしたか!」


 城壁で接続作業をしているとモンド一家が俺に気づいた。


「おう。元気してたか?」


「それはもう。しかし……」


 とモンドがヒゲの中で口ごもる。


「ん? どうした? 何かあったのか?」


「その……ご覧いただいた方が早いかと存じます」


 と言うので、彼に続いて屋敷に戻ったのであるが……


 ガヤガヤガヤ……


 なんか人が増えてる!?


 モンド家は大家族とは言え12人だったはずだが、屋敷の大広間には明らかに50人ほどの老若男女がひしめいているのである。


「ごはんできたわよー!」


 わー!!……


 セーラがご飯を運び、子供たちがばんざいしている。


「これは一体!?」


「実は領主様の留守の折、私どものようにあのタワーを見て『仕事がないか』とやってきた家族が四つほどありまして……」


 と、モンドはバツが悪そうな顔で言う。


「その、勝手にとりでに入れてしまい申し訳ございませんでした」


「私が受け入れましょうって言ったのよ」


 そこでメガネの女が乳を揺らして口をはさんだ。


「モンドは『あなたに断りなくとりでへ入れてはならない』って反対したの。でもあの人たち、お腹減ってそうだったから……」


「奥様……」


「叱るなら私を叱って」


 と言うので、俺はサッと手を上げた。


「っ……!」


 場に緊張が走り、女はギュッと目を閉じる。


 ふわっ……


 が、俺はその手でやさしい女性ひとの頭をそっとなでてやった。


「叱らないよ。それでいい」


「シェイド……」


 それから今度は、少し芝居がかって回りに聞かせるように大きな声で言う。


「そもそもここにいる者たちはみんな帝国民。本来は仲間なんだからな。とにかく今日は食ってくれ!」


 すると食事を前に静まり返っていた人々がワッと歓声を上げた。

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