第10話 風呂


「セーラ。あいつらにメシ作ってやってよ」


「ええ」


 失職家族をとりでに招き入れると、セーラにメシの支度したくを頼む。


 一方、俺は風呂の準備にとりかかった。


「ふーふー……」


 風呂は石の浴槽をかまどで沸かすタイプ。


 これまでは水に余裕がなく使用不可だったんだけどさ。


 ちょうど湖を建設した過程で素材:『水』を持ち帰っていたので可能となったワケである。


「おう。お前ら先に風呂入っちゃえよ!」


 と言って順々に風呂へ入ってもらう。



 失職一家の構成は、まず一番年長の『主』とその夫人。


 その長男夫婦が一組。


 長女夫婦が一組。


 次男、次女はまだ結婚していないらしい。


 幼い子供たちは、長男夫婦の子が三人。


 長女夫婦の子が一人。


 合計、12人の大家族である。



「ボク、お風呂イヤー!」


「コラ! トッド。わがままいわないの!」


 長女夫婦の幼い子が風呂に入るのを渋っている。


 なんか知らねーけど、子供って風呂イヤがるよな。


 ばっちーから入ってもらうけど。


 俺は腕めくりして、その子の首根っこをつかまえて風呂へ放り込んでやろうと思ったのだけれど……


「うふふ、おいしいもの作ってるのよ。いい子で入ったらね」


 と、台所からエプロン姿のセーラがほほえむと、少年は顔を真っ赤にして母親の後へ続いていった。


 チッ、エロガキめ。


 こうして、彼らすべてが風呂に入った頃、セーラの料理ができあがった。


「めしあがれ」


「おー、スゲー!」


「ご馳走だー」


 まあ、素材は肉ばかりだから『肉をおかずに肉を食う』みたいな献立だけど、頬もコケてるしこいつらは肉食った方がよさそうだからよしとしよう。


「うめー!」


「おいしー♪」


 こうして12人の痩せた家族はセーラの肉料理をたらふく食べたのだった。


 その夜。


 彼らに部屋を割り振ってやると、一家の主がやってきて言った。


「領主様、この度はありがとうございました。申し遅れましたが、私は一家の長モンドと申します」


「あ? ああ……」


 彼は40代後半くらいの年頃で、やはり聡明な顔つきをしている。


「風呂など一月ぶりでございます。それにこのようなご馳走をいただき、領主様にはなんとお礼を申し上げたらよいか」


「いや、そんなことは気にすることないよ。それより仕事のことだけど」


 俺はそこで言いずらいことを切り出した。


「さっきは勢いで仕事は山ほどあるって言っちゃったけどさ。それはこの領地にはまだまだ生産できないものがいっぱいあるって意味で……」


 頭をポリポリかいて続ける。


「正直言うと俺にはカネはないんだ。だから、働いてもらっても帝都の発行している『ボンド紙幣』で給料を渡すことはできない」


「つまり現物支給ということでしょうか」


「平たく言えばそういうことになる。でも、悪いようにはしないよ。俺は領主として、あんたが一家を食わしていけるよう全力を尽くす。それがこの領地を強くしていくために必要なことだからな。まあ……」


 俺はタバコへ火をつけて言った。


「そこはあんたが俺を信用できるかどうかって話になってくるけど」


「と、とんでもございません。私はもとより領主様にお仕えいたしたいと思っております」


 そう言って、モンドは部屋へ下がっていった。




 そう。


 俺はこれから人を集め、町を作ろうとしているのに、カネがなかった。


 致命的なほどにスッカラカン。


 でも……


 俺には『土地』がある。


 この領地の資源であらゆるものを自給できれば、帝都で発行している紙幣『ボンド』がなくても、俺たちは独自の経済力をつけられるんじゃねーか?


 俺はそんなふうに考えていたのだった。


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