第6話 レベル上げ



 夕飯の後、俺は工作BOXで石の階段を作った。


 これで内側からは壁の上へ登れるようになる。


「ちょっと外の様子を見てみよう」


「ええ」


 こうして俺とセーラは城壁の上に登った。


 空には三日月が浮かび、荒野の砦を薄く照らしている。



 オーン……オーン…… ぐるるるる……



 で、上から見下ろすと、城壁の外には死体やガイコツの魔物が十体以上ひしめいていたのだった。


「死体のような姿の個体が『グール』と言って、人間の死体を喰らって快楽を得る魔物よ。ガイコツ型の魔物がアンデッドね。こちらは人間の身体を乗っ取ろうとしてくるの。グールはE級、アンデッドはF級の魔物だわ」


「お、おう……」


 セーラが解説をしてくれるが、うまく返事ができなかった。


 帝都で生まれ育った俺はこれまで魔物を見ることすらほとんどなかったので、ちょっとビビってしまったのである。


「……見てて」


 一方、セーラはそう言って銀髪を耳にかけると、胸の横で聖弓を構えた。


 すると長い指先に光の矢が生じ、美しい肩を怒らせて弓をキリキリと引いたかと思えば、「ふッ」という短い息と共にこれを放つ。


 光の矢は一匹のアンデッドに命中。


 魔物は光の玉となって地中へ還ってしまった。


「おー! すげー!」


「うふふ」


 俺が両手をあげて驚くと、セーラはメガネを正しながらほほえんだ。


「こうして魔物を倒すと精霊から経験値が付与されるの。私のステータスを見て?」


「え? ああ」


 俺は魔法学校で習った基本の『ステータス見』の魔法を使った。


―――――――――――――――

セーラ・ナイトブルク(24)♀


レベル:78

HP:645

MP:976

攻撃力:424

守備力:382


経験値:528940→528945

―――――――――――――――



「本当だ。経験値が増えてる」


「F級のアンデッドを倒して得られる経験値は5よ。『魔物を倒すには、魔物を倒さなければならない』という格言があるのを知っている? 一見矛盾しているようだけれど、経験値の低い魔物からコツコツと倒していくのが重要って意味なの」


 あいかわらずクラス委員長のような口ぶりだ。


 コイツはクラス委員長だったからクラス委員長らしくしていたわけじゃなくって、それがだったんだろうな。


 ちなみに、俺のステータスは以下のようである。



―――――――――――――――

シェイド・コルクハット(24)♂


レベル:1

HP:5

MP:12430

攻撃力:6

守備力:8


経験値:2

―――――――――――――――



「あ……あいかわらず、とてつもない魔力ね」


 まあ、これでも一応『宮廷魔術士Ⅰ類』の試験に受かってるからな。


 ただ、それ以外のステータスはマジで一般ピープルである。


 魔法学校時代もケンカではそこそこ強かったはずなんだけど、それは根性値ってヤツだろうか。


「あら? でも経験値が『2』あるわ?」


「それな……」


 多分だけど、小さいときにスライムをふんずけちゃったことがあって、その時のヤツだと思う。


「ふーん。じゃあとにかく、ここから下のアンデッドへ攻撃してみたらどうかしら?」


「攻撃、か」


 俺はさっきのセーラの攻撃を思い出しながら工作BOXを発動する。


 そして、≪部材の工作≫を選び、木材で『弓』を、木の繊維で『糸』を、木の『矢』と、銅でブロンズの『矢じり』を工作してみた。


「こんなもんかな。とおッ!」


 ひゅーん……


 しかし俺の矢はどの魔物にも当たらなかった。


「……あなた、弓矢はあまり向いていないみたいね」


 と言われ肩を落とす俺。


 コイツ思ったことはそのまま口にするヤツだから、ダメだと思った時も歯に衣着せねーんだよな。


 しょんぼり……


「まあ、現実的にはこれが一番かな」


 そうつぶやくと、俺はまた工作BOXを発動させ、今度は≪素材:石≫で単純な直方体の部材ブロックを指定した。


「Evenire(出でよ)」


 大きな直方体のブロックは、ガイコツ型の魔物の真上に出現した。


 どすーん……!! ベキベキベキ……


 ガイコツ型のモンスターは、石に押しつぶされる。


 敵は光の玉となり、土へと還っていった。


「やった! さすがね!」


 俺の手を握り軽く飛び跳ねるセーラ。


「あんまりカッコよくはねーけどな」


「そんなことないわ。すごい攻撃よ」


「そ、そうかな?……」


 そう言うものだから、俺は調子に乗ってこの『どっすん攻撃』を繰り返した。


 どすーん! どすーん!


 10体くらい倒した頃だろうか。


 どこからともなくファンファーレが鳴り響いた気がした。


「なんだコレ?……」


「シェイド。あなた、レベルがあがっているわよ」


「え?」


 そう言われて、ステータスを見てみる。


―――――――――――――――

シェイド・コルクハット(24)♂


レベル:2

HP:9

MP:12450

攻撃力:10

守備力:15


経験値:52

―――――――――――――――


「あ! 本当だ!」


「おめでとう。シェイド」


「へへっ」


 この調子でモンスターを倒していけば、すぐにセーラに追いつけるんじゃねえか?


 と内心調子こいていたのだが。


 オーン……オーン……


「あれ? 魔物が離れていくぞ?」


「城壁に近づくとあなたから攻撃されるとわかったみたいね」


「そうか。じゃあ追いかけて……」


「待って!」


 俺が城壁の外へ出て行こうとすると、セーラは俺の服の袖をつかんで止めた。


「なんだよ」


「冷静になって。あなたのレベルはまだ『2』よ。地上へ降りて敵の攻撃をうけるのはとても危険だわ」


「じゃあどうすりゃいいんだよ」


「そうね。ここはしばらく引いて、魔物が油断して寄ってきたらまた城壁の上から攻撃しましょう」


「えー」


「お願い、わかって? HPと守備力の低いままで『最弱ではない魔物』と対峙するのは危険なの」


 と、セーラが言うので、彼女の言う通りにやってみたが……


 油断させて寄ってきたザコ敵を城壁の上から一匹一匹つぶしていても、なかなかレベルは上がらない。


 もっと効率的で、面倒くさくない(←ここ重要)レベル上げが俺には必要だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る