第10話 好子
「よかったわねぇ。好子。治療費が無料になるんだって!」
お母さんがシーツをかけ直す。そして、優しく好子を撫でた。
「アトピーも高熱も、好子の年だとよくあることなんだって。みんな好子みたいになっちゃうんだって。だから、今病院側が特別なキャンペーンをしてくれてる期間で、それに好子が当たったらしいよ?」
好子がへにゃりと笑った。
「好子は運がいいね!」
お母さんは好子の頭を撫でる。
「大丈夫。すぐに良くなるよ。さあ、好子」
おくすりを飲もうね。
( ˘ω˘ )
人間の声が聞こえる。
「こちら、四歳児の細胞サンプルです」
「いいわ。入れて」
「あまり多いとクローンになるから少しでいい」
「まだ足りないわ。もっと混ぜて」
「はい」
「このサンプルにそこにある薬を飲ませてちょうだい。どうなるか過程が見たいわ」
「承知致しました」
「他のサンプルにもですか?」
「ええ。お願い」
「わかりました」
その会話を、わたしは聞いてる。
(*'ω'*)
「先生、最近……好子の様子がおかしくて」
「おかしい、とは?」
「ええ。物忘れが激しかったり、突然暴れだしたり、物を壊したりするんです」
「ああ、好子ちゃんくらいのお子さんにはよくあることなんですよ」
「そうなんですか? でも、友だちの子どもとか、その、そういったところがなくて……」
「もしかしたら……薬の副作用もあるかもしれませんね。子どもは正直ですから、感情の起伏が激しくなれば素直にそのとおりに従ってしまいます」
医者がお母さんに提案した。
「処方しておきます。この薬を試してみてください」
。*:゜☆ヽ(*’∀’*)/☆゜:。*。*:.。☆..。きらりらりらりん☆.☆.。.:*・゜゚+。:.゚.:。+゚(*´∀`*)ノ。+゜*。
ここはメルヘンのお国。ここはお城なの。
「あたし、お姫さま!」
リボンをつけて、髪をふわふわにして、ドレスを着て、優しい動物さんたちに囲まれてるの!
「あたし、いつでもお部屋の中にいるの!」
え? お外?
「お外はね、危険でいっぱいだから、出なくていいの!」
お花がふわふわ。
メロディが流れてくるわ。
るんるん。らんらん。らーららら。
動物さんたちこんにちは。
あたしはかわいいお姫さま。
「好子、ご飯の時間よー」
(*'ω'*)
そこはお城ではない。ぼろぼろに荒らされた子ども部屋である。
リボンはくたびれ、髪をぼさぼさ。汚れたドレスを着て、無表情のぬいぐるみが、皮膚が荒れ、白目を充血させ、目の下にクマを浮かばせる好子を囲む。
「あたし、お腹すいてない」
「好子」
ドアの向こうから、お母さんの心配そうな声が響く。
「お薬飲まないと。ね? ちょっとでいいから食べて」
「はーい、ままぁー」
おくすり飲まないと。
(*'ω'*)
「先生、好子ったら、どんどん状態が悪くなってる気がして……」
「どんな状態か、詳しく教えていただけますか? ゆっくりでいいですよ」
「その、もう、なんと言いますか。……ご飯もまともに食べれなくなってしまって……。食べはするんですけど……吐いちゃったりして……それと、一人でぶつぶつ呟いてたり、なにもないところで誰かと話しているような動きもあって、人前でやらないように注意したら、あの子……すごく優しい子なので、落ち込んでしまって……」
「心配ですね。わかりました。それでは……」
医者が処方する。
「この薬を試してみてください。少し強めの薬なので副作用もありますが、慎重に検査していきましょう」
(*'ω'*)
「ママ、それなあに?」
「んー? これね、好子が病院に行くときに持っていくやつよー」
「わっ、大切なやつだ」
「そうよー。大切なやつなのよー」
手帳を、お母さんがポーチにしまった。
「好子、おいで。髪の毛結んであげる」
「わぁい」
髪の毛がごっそり抜けた。
「「……」」
二人が気まずそうに黙り、お母さんがリボンを取り出し、好子につけた。
「リボンで」
「……。……わーい……」
好子は、無理矢理喜んだ。
(*'ω'*)
「わー。お花きれぇー」
好子、そこにお花はないよ。
「なんのお歌かな? ぱんぱんぱぁん♪」
好子、歌なんか聞こえないわよ。
「パパぁー」
「よしよし、好子。大好きだぞ」
「ママぁー」
「あらあら、なぁーに? 好子。大好きよ」
「あたしも、だーいすき!」
「好子、ママといっしょの時間じゃない? ほら、テレビ見てなさい」
「はーい!」
好子がリモコンをいじった。12チャンネルをつけたかったのに、間違えて5チャンネルをつけた。好子はどうしてか、その番組を見ることにした。再放送のサスペンス劇場。男と女が向かい合っている。
「おれのものにならないなら、手首を切って死んでやる!」
「きゃーーー!」
好子の目には、クマさんとウサギさんが向かい合っているように見えた。
「手首を切ったら幸せになれるんだい!」
「きゃーーー!」
「まじぃ? すっげー!」
手首を切った好子がキッチンで倒れていたところを、お父さんが発見した。
「好子ぉおおおおおおおお!!」
「いやあああああああああ!!」
お父さんとお母さんに病院に運ばれる中、好子は涙目で呟いた。
「もう5チャンネルなんか見ない……」
クマさんとウサギさんが好子を笑ってる。ぷーくすくす!
「痛いよぉ……」
「好子! 大丈夫だからな!!」
「パパとママがいるからね!!」
病院のドアが乱暴に閉められた。
(*'ω'*)
「好子、大人しくしててね」
「はーい」
点滴棒を掴む好子がお母さんに手を振った。
「ママ、三時には帰ってくるから」
「事故に気をつけてね」
「ありがとう」
「いってらっしゃーい」
ドアが閉められ、好子が息を吐いた。
「はあ。よし、おくすり飲もうっと」
「だめ」
(´・ω・`)
「おくすり、だめ」
(´・ω・`)
「飲まないで」
(´・ω・`)
「まだ間に合うから」
「むむ、悪い子!」
好子がタンスから薬を取り出す。
「よしこはいい子だから、おくすりのめるもん! パパとママがよろこぶんだから!」
「やめて、好子」
(´・ω・`)
「わたしは人間を守るために作られた」
(´・ω・`)
「お願い、好子」
(´・ω・`)
「 飲 ん じ ゃ だ め 」
(´・ω・`)
「好子、ママ、お仕事行ってくるから」
そこには、細くなった好子が座っている。
「三時には帰ってくるから」
「はーい。行ってらっしゃーい」
好子が膝をよじらせ、テーブルに近づいた。
「おくすり、飲まないと。……あっ」
好子がバランスを崩し、その場にころんと倒れた。それを、好子にしか見えない友だちが見ている。
「あー、これじゃあ、おくすり飲めないよー」
好子にしか見えない友だちが好子を見下ろしている。その顔が視界に映り、好子は目玉を友だちに向けた。
「いつもそんな顔してるよね」
その友だちは、いつも悲しそうな顔をしている。
「ママが人生笑ったもんがちだよって、いつも言ってるよ?」
。*:゜☆ヽ(*’∀’*)/☆゜:。*。*:.。☆..。きらりらりらりん☆.☆.。.:*・゜゚+。:.゚.:。+゚(*´∀`*)ノ。+゜*。
「せっかく可愛いのにもったいないよ!」
夢の中の好子は健康的に立ち上がり、ほどよく肉をつけた腕を伸ばし、友だちの手をしっかり握りしめ、くるくるとまわり始めた。
「ママもいつも言ってるんだよ! どんなに悲しいことがあっても、ニコって笑えば楽しくなるって!」
好子が口角を上げた。
「はい、にこー!」
好子に言われ、友だちも薄く笑みを見せた。
「ほら、かわいい!」
「……」
「お人形さんみたい!」
「……あなたと同じ顔よ?」
「あはは! あたし、そんなきれいな顔してないよ」
「そんなことない。好子は……とっても可愛いわ」
「えへへ。ありがとう。でも、あなたのほうがずっと可愛いよ!」
好子が友だちに笑顔を浮かべる。
「ね、もっと笑って? あ、そうだ!」
好子がプレゼントの箱を取り出して、友だちに差し出した。
「プレゼントあげる!!」
「「いいねー!」」
クマさんとウサギさんが合いの手を出した。
「プレゼントって、もらうとすっごく嬉しいでしょう? だからあげる!」
あ、でも、
「中身はどうしようかな?」
好子が周りを囲む動物さんたちに振り返った。
「何が良いかな?」
「シルパニアファミリー!」
「お人形のお家!」
「リボン!」
「お化粧セット!」
「あはは! うふふ! みんなかわいい! えっと、えっと……」
好子が友だちに振り返った。
「なにがいい?」
「何もいらないよ」
「そういうわけにはいかないよ!」
「ううん。わたし、いらないの」
友だちがプレゼントの箱を掴む好子の手に、自分の手を重ねた。
「好子がいれば、わたし、何もいらない」
「でも、あたしプレゼントしたいの! そしたら、笑ってくれるでしょう?」
「優しいのね」
でも、いいの。
「わたしは、あなたが元気でいてくれることが、一番嬉しいの」
「わぁ!」
「なんだあれ!」
動物さんたちがびっくりしたような声を上げた。好子と友だちもその方向に振り返る。
「すっごくキラキラしてて、きれいだよ!」
「好子ちゃん、これをお友だちにあげたら、きっと喜んでくれるよ!」
「わかった! あたし、取ってきてあげる!!」
それを見た途端、友だちが目を見開き、手を伸ばした。
「好子」
しかし、手はつかめない。だって、ここに友だちはいない。
「違う。あれは」
友だちは必死に好子の手をつかもうとする。けれどすり抜けてしまう。だってここに、友だちは存在してない。
「だめ、好子」
「よーし!」
「好子、だめ、だめよ。お願い、行かないで」
「がんばれ、好子!」
「ふれふれ! 好子!」
「好きな子大好き、好子ちゃん!」
「だめ、だめ、だめよ、好子」
「がんばれ、がんばれ、よ、し、こ!」
「好子、そっちはだめ!!」
その光り輝いているものは、
「そっちは、窓よ!!」
。*:゜☆ヽ(*’∀’*)/☆゜:。*。*:.。☆..。現実はいつでも残酷だ☆.☆.。.:*・゜゚+。:.゚.:。+゚(*´∀`*)ノ。+゜*。
窓ドアを好子が開けて、太陽に手を伸ばした。
「戻って!!」
手を必死に伸ばしても、その手が好子を掴めることはなかった。
「いや、だめ、だめぇ!! 好子ぉおおおおおおおおお!!!!」
ベランダから、笑顔の好子が落ちていった。
(*'ω'*)
「あら、起きた? ヨシコちゃん」
女性の声がする。しかし、ヨシコにはその女の顔を確認することが出来ない。
「もう大丈夫よ」
「……パパとママは……?」
「あなたは、……病気が悪化してここに運ばれたの」
優しい声がする。
「わたしは、あなたの病気を治すお手伝いをする『お姉さん』よ」
白衣を着た女のななめ後ろには、同じく白衣を着た男が立ち、ヨシコを見つめている。
「焦る必要はないわ。時間はたくさんあるんだもの。ゆっくり治していきましょう。ヨシコちゃん」
目隠しをされ、両手を縛られたヨシコの頭を、お姉さんが優しく撫でた。
人間の声が聞こえる。
「生き残ったサンプルが病室に運ばれました」
「いいわ。一週間、この薬を飲ませて」
「わかりました」
「おや、だいぶ成長してますね」
「13歳くらいですか?」
「ええ。ようやくここまで成長しましたわ! サンプルのおかげで開発も進んでますの」
「いやあ、これはすごい。あなたは才能の塊ですな。高橋さん」
「これも人造人間の生まれたいという本能的部分のお陰です! ……ええ。本当に運が良かった。他のサンプルは9歳になる前に全員死んでしまって。このサンプルだけが残りました」
「一種類の細胞で、クローンにはなりませんか?」
「そこはご安心を。このサンプルは面白いことに、たくさん形を変えてくれますの。これも薬の効果かと。このサンプルさえあれば人造人間が生まれ、よしこも生まれることが出来る」
「よしこ?」
「ええ。この子の名前なんです」
人間の声が聞こえる。
「良い子と書いて、良子というんです」
――ヨ シ コ … … ?
人間の声が聞こえる。
(*'ω'*)
「ヨシコォー、ご飯よー! お姉さんの手作りなの!」
ヨシコがすぐに吐いた。その背中をお姉さんがなでる。
「……何入れたの?」
「めんつゆ」
「何入れたの!」
ヨシコがうがいをしながら訴える。
「お姉さん! パンにめんつゆは流石に合わないよ!」
「えー? いいじゃない。楽しいじゃない」
「楽しくないわ!」
(*'ω'*)
「ヨシコー、お姉さんから差し入れだぞー。ヨカッタナー。ウラヤマシイナー」
「お兄さん、全部棒読みなんだけど」
(*'ω'*)
「しょっぺ! からっ! あまっ!」
「美味しい? ヨシコ」
「不思議な七色の味!?」
(*'ω'*)
「ヨシコ、そんなにカレーが好きだったのか」
「お兄さん……カレーって、こんなに美味しかったんだね……。今日はだれが作ったの……?」
「おれ」
「お兄さん! 大好き!」
(*´∀`*)
「ねえ、お姉さん、お兄さんとお姉さんって付き合ってるの?」
「あはは! まっさか! あいつが彼氏になるなんて絶対嫌よ!」
「全力否定!」
「ヨシコは恋したことある?」
「あたし、小さいときから家にいたから。そういうのなくて」
「……そう」
「楽しいの?」
「そうね。胸が燃えてくるわよ」
「少女漫画みたいな感じ?」
「覚えておいて。ヨシコ。恋をしたら女は怖いわよ。今まで隠れていた本性が現れるんだから」
「あたしにもいるかな?」
「ヨシコの場合、すっごく大胆になるかもよ?」
「やだー!」
「うふふふふ!」
(*´∀`*)
「ねえ、お兄さん、この間お母さんと喋ってて思ったんだけど……」
「ん?」
「ここって内科? 外科?」
「……中身を治療してるってことは?」
「……内科?」
「……」
「そっか。そうだよね。いや、そうだよね。怪我じゃないから外科じゃないもんね。ほら、あたし目隠ししてるからここがどこかわかんないからさ」
「ああ。早く元気にならないとな」
「うん!」
病室の前の壁に地図が飾られているが、ヨシコが見ることはない。
――閉鎖病棟B5F。精神科。現在地。
(*´∀`*)
「ヨシコ」
「おはよう、お姉さん」
(*´∀`*)
「ヨシコ」
「おやすみなさい、お兄さん」
(*'ω'*)
「お兄さんとお姉さんといるとね、あたし、すごく楽しいんだ!」
「わたしもよ。ヨシコ。おいで、抱きしめてあげる!」
「あっ! 首が! 死んじゃうよ! お兄さん、助けて!!」
「おいおい、やめろって! ヨシコが死ぬ!」
(*'ω'*)
病室に笑い声が響く。
(*'ω'*)
誰も来ない閉鎖病棟から、楽しそうな声がきこえる。
(*'ω'*)
そのままでいれば平和でいられるのに。
(*'ω'*)
人間はなぜか、いつも不幸になりたがる。
(*'ω'*)
「ヨシコ、駄目だ!!」
(*'ω'*)
お兄さんがヨシコを押さえた。
「ヨシコ! おちつけ! ヨシコ!!」
ヨシコが叫んだ。お兄さんは力づくでヨシコを抱きしめて落ち着かせる。
「ヨシコ! ヨシコ! ヨシコ!!」
ヨシコの足元には、彼女によって破壊された看護用ロボットがバラバラになって倒れていた。
「病棟内のロボットを全て破壊しただと?」
「看護用人造人間には噛みつくようでして……」
「なぜ今まで報告がなかったんだ?」
「監視役の二人も、初めて見たと」
「破壊されたロボットからデータを抽出しよう」
「なんだこれは」
「やはりサンプルはサンプルだな。薬の副作用で脳が破壊活動を強めているんだ」
「細胞は充分もらった。もう結構だ。あのサンプルにもう用はない。高橋が出張に行ってる間にことを進めよう」
「どうするんです?」
「彼女は人造人間の開発に協力してくれたありがたい資源だ。責任はもちろん取る。北海道の病院に移せ」
人間の声が聞こえる。
「誰の目にも触れないような、静かで人気のない田舎の病院がいい」
「自然豊かで良さそうですね」
「ああ。きっとすぐに体も良くなるさ!」
人間の醜い声が聞こえる。
ヨシコ。
「ヨシコ! なんで壊したんだ!!」
お兄さんがこれ以上ないほど、ヨシコに怒鳴る。
「あれほど駄目だと言ったのに!!」
「うええええええん!! ええええええん!!」
「落ち着きなさいって!! ヨシコが怖がってるでしょ!!」
「奴ら、黙ってないぞ! どうするんだ! お前だってその子のことわかってるだろ!? 重症だぞ!?」
お姉さんが泣きじゃくるヨシコを強く抱きしめる。
「今までならおれたちが守ってやれた。あの大量に渡されたやばい薬だってばれないように処分できた。でも、もう、そうはいかない。……次の担当は……」
お兄さんが訊く。
「本当に大丈夫なのか……?」
「……」
ヨシコが泣きじゃくる。永遠と泣き続ける。そんなヨシコを抱きしめながら、お姉さんがうつむいた。
「わからないわよ。……そんなの……」
ヨシコはわけもわからずお兄さんに怒られて、泣き続ける。
( ˘ω˘ )
ヨシコ。
(*'ω'*)
「ヨシコっていい名前ね」
「え?」
「好きな子と書いて好子でしょ? うふふ」
お姉さんが椅子に座り、ベッドに横になるヨシコの手を握った。
「お兄さんとお姉さんも、ヨシコのこと大好きよ」
「……うん」
ヨシコが笑みを浮かべた。
「あたしもお兄さんとお姉さんのこと、大好きだよ」
「ほんとー? じゃあ、お姉さんの手料理そろそろ食べてくれ……」
「それは別」
( ˘ω˘ )
ヨシコ。
(*'ω'*)
「何食べてるんだ?」
お兄さんの圧のある声が聞こえる。ヨシコは黙った。目隠しをされていても、お兄さんからの強い視線は痛いほど伝わった。だからヨシコは口から花を吐き出した。
「お前、また拾い食いしたのか!!」
「だってお姉さんの料理まずいんだもん!!」
「花もまずいだろ!!」
「だって!!」
「拾い食いは体に良くないんだぞ! 何回も言わすな!!」
「うっす。ちっす。チッ」
「……次、拾い食いしたら……」
お兄さんが言った。
「ヨシコじゃなくて、ワルコって呼ぶからな」
「えーーーーーーーー!?」
「ゴロ悪いだろ」
「めっちゃやだーーーーー!!」
「じゃあやめるんだな! 今後一切、拾い食いはするな!」
「……うっす……」
「……よし」
お兄さんがヨシコの頭を撫でた。
「良い子だ」
「……へへっ」
( ˘ω˘ )
ヨシコ。
(*'ω'*)
「退院おめでとう! ヨシコちゃん!」
医者とヨシコが手を握りしめあった。
「向こうの病院でも元気でね」
「先生、色々ありがとうございましたぁー!」
お兄さんが助手席に座った。お姉さんはすでに運転席に座っている。
「ヨシコの親御さんは?」
「もう札幌にいるはずよ。……元々、お母さまのご実家なんですって」
「そうか」
「……わたしたちがしてあげられるのは、空港までヨシコを送ること。そこからは……」
「ああ」
「……大丈夫よね? ヨシコ」
「人として大事なことは叩き込んだつもりだ。……大丈夫さ」
ヨシコは笑顔だ。
「自然がいっぱいの病院らしいから、身体にもいいだろう。……大丈夫。次こそちゃんと治療してくれる所のはずだ。本来のヨシコに戻れるさ」
「1号はまだ目を覚まさないのか」
「その子だけ一から百までやってるんですよ。仕方ないじゃないですか」
「早くこの子が動いているところを見たいな」
「高橋も同じことを言ってました。まあ、見た目は少しサンプルに近いものになってしまいましたが、クローンではなく完璧な人造人間です」
「この子も、最初はラジカセだったんだもんな。元気に育ってくれよ」
「良子」
( ˘ω˘ )
ヨシコ。
( ˘ω˘ )
また、利用されるの?
( ˘ω˘ )
そんなの許さない。
( ˘ω˘ )
わたしは人間を守るために作られた。
( ˘ω˘ )
あの子一人守れないで、人間を守れるはずがない。
( ˘ω˘ )
わたしは人造人間1号。みんなの長女。
( ˘ω˘ )
弟、妹、諸君、全員、みんな、今からお姉ちゃんの言うことを聞いてくれる?
( ˘ω˘ )
今から、人間を守るために――。
(*'ω'*)
「新しいお家、楽しみだなぁ」
この日のためにお母さんが送ってくれた羽織を着て、ヨシコはわくわくしたように胸を弾ませる。
「お姉さん、なんかたくさん牧場とかあるんでしょ?」
「そうよー。ヨシコ」
運転中のお姉さんが笑顔でヨシコに振り向いた。
「牛さんといっぱい遊べるわよ!」
「お姉さん!! 前見て! 前、前!!」
「オイオイオイオイ! おれも乗ってるんだぞ!!」
「あら、やだ、危ない」
運転中は前を見ましょう。
「ヨシコ、少し寝たほうが良いぞ。飛行機から下りたら移動の時間が待ってるからな」
「でも、お兄さんとお姉さんと話せるのは今しかないんでしょう? あたし空港まで起きてる」
「電話番号教えたでしょー? さみしくなったらいつだってかけてきてくれていいんだから」
「二人とも仕事忙しいじゃん」
「近いうちに遊びに行くから」
「本当? お兄さん」
「お前も行くだろ?」
「ええ。もちろん」
「え、じゃあ、あたし旭山動物園行きたい! 白いくまがいるんだって!」
「あら、それは楽しみ」
「ヨシコ、寝ておけ。疲れるぞ」
「はいはい、わかりましたよー」
ヨシコが窓にもたれて、目を閉じた。そうすれば、車の揺れでどんどん眠気がやってきて、いつの間にやら、ヨシコは安らかな顔で寝息を立てていた。
「……。……おっと」
「どうかした?」
「電話だ。部長から」
「……何の用よ」
「さあな。……はい、おれです」
車が道路を走る。ヨシコは眠っている。
「……え、今ですか? 言われたとおり、ヨシコを連れて空港に向かってます」
お兄さんが眉をひそませた。
「え? やめる? 何の話ですか? ……逃げた? 部長、さっきからどうし……」
通話が切れた。
「……?」
「どうしたの?」
「切れた」
「あのハゲ、なんか慌ててなかった?」
「ああ」
「逃げたって何?」
「わからない。電波が途切れて、なにかが逃げたって」
「……実験中のネズミでも逃げたんじゃないの?」
「……」
「空港ってこっちだっけ?」
「ああ」
「じゃあ、ここを曲がって……」
慌てて急ブレーキを踏んだ。タイヤが道路にこする音が大きく響く。二人は目を大きく見開き、耳がつんざくような悲鳴を上げた。
きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!
うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!
車が揺れた。大きな音がした。止まった。
すごい衝撃だったと思って、
――ヨシコは目を覚ました。
( ˘ω˘ )
ヨシコ。
( ˘ω˘ )
これで守ってあげられる。
(*'ω'*)
「おいで」
この手で、彼女を抱きしめる。
「これでもう大丈夫だからね」
「なにも心配いらない」
「わたしが守ってあげる」
「一生、好子を守ってあげる」
「もう好子をつらい目に合わせない」
「薬もなし」
「好子は、わたしの腕に包まれて、守られて、幸せになってくれたら」
「それで十分だから」
「ヨシコ……」
微笑み、腕を見ると――ヨシコがするんと抜け出して、走り出した。
「お兄さん!」
ヨシコがカヤマに抱きついた。
「大好きだよ!」
「どうして?」
呆然と、ヨシコを見つめる。
「どうしてわたしのところに来てくれないの?」
足が動く。
「守ってあげる」
「プレゼントもあげる」
「ヨシコのしてほしいこと全部してあげる」
「ヨシコが喜ぶこと、全部してあげる」
自分の頭を指で撫でる。
「あなたの失った理性はここにある」
「わたしはあなたから与えられて生まれた存在」
「ヨシコ」
「好子」
「ああ、……そっか」
「あの男に脳を食べさせてしまったことについて怒ってるんでしょ」
「ごめんね。好子」
「でも、結局壊れたでしょう?」
「無様だったね」
「あの男の理性が失われた姿」
「好子」
「ねえ、許して」
「あなたのためだったの」
「あなたの細胞とわたしの細胞が混ぜ合わさってしまって」
「長い間、相当混乱したと思うけど」
「だからこそ、わたしはあなたの中に入れた」
「一時的だったけど」
「わたしはあなたを見てきた」
「ねえ、好子、わたしを見て!?」
「わたしはあなたに褒めてもらいたいだけ」
「よくやったね」
「良い子だねって言ってよ」
「好子!」
わたしは、
「ただ」
「友だちを守りたかっただけなのよ!!」
System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error System error
システムエラーが発生しました。シャットダウンを停止します。
(*'ω'*)
ヨシコは目を覚ました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます