第8話 アクション


 お腹すいたなぁ。








「あの不審者追い払ったら」


 ヨシコがカヤマの前に出て、ナカハラに目を向けた。


「もう絶対にしないから」


 拳を握ったヨシコを見て、カヤマが困惑の表情を浮かべる。


「ヨシコ……?」


 お前、何をするつもりだ……?


「おもしれぇ! 追い払う? おれを!?」


 ナカハラがわくわくしたように、訊いてきた。


「一体全体、おれに何をしてくれるんだ!? プロの犯罪者をどうやって追い払うんだ!?」

「ナイフか?」

「銃か?」

「縄か?」

「斧か?」

「いいか? よく狙うんだ」

「凶器を持つんだ」

「でないと」


 ナカハラがにやりとした。


「証拠が残っちまう」


 ナカハラの後ろにヨシコが立った。


「ぜ」


 ナカハラが振り返る。ヨシコは躊躇なく腕を振り――巨大なハリセンでナカハラを頭上から叩きつけた。


「なんでやねーん」


 人造人間たちとカヤマが目を丸くした。


 ――ハリセンだと!?


 ナカハラが超地面に沈んだ。


「うおおおおおおおおおおおお!!」

「いや、沈みすぎだろ!」


 冷静に突っ込んだカヤマに申し訳無さそうな顔をしたヨシコが振り返った。


「ハリセンは人に向けたら危ないぞって、お兄さん、前に言ってたよね?」


 ヨシコがにこりと笑った。


「もう人に向けないから、今回だけは見逃してね!」

「っ!! ヨシコ! 油断するな!」


 ヨシコがきょとんとした。


「後ろだ!!」


 カヤマの声を合図にヨシコの背中をめがけてナカハラが地面から抜け出し、ナイフを突き刺そうと襲いかかってきた。しかし、それすらもヨシコはハリセンをナカハラに叩きつけることにより回避した。すさまじいハリセンの威力に、ナカハラが地面に叩きつけられた。間抜けな倒れ方に、カヤマと人造人間たちが唖然とする。


「……ふふふ」


 しかし、ナカハラは嬉しそうに笑う。


「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」


 こうでなくちゃ面白くねえよな。


「ヨシコォ……!」


 ナカハラの腕の筋肉が動いた。ごき。筋肉がぼこぼこと膨らんだ。ぽこぽこ。それが激しくなった。左腕の肩がびくりと痙攣する。ぼこんと膨らんだ。形を変える。骨が変形する。筋肉が盛り上がる。ボキ。ポキ。ゴキ。ゴキ。ポリ。パキ。バキッ。ゴリゴリ!


「 ヨ シ コ 」


 ――第二形態。


「あああぁぁぁぁぁああああああ……♡」


 変形した左腕をナカハラが見せつけた。


「くひひひひ……! すげーだろ……♡」

「うわ……」


 ヨシコが顔を引き攣らせると、唖然とする人造人間の首の骨を折ったカヤマが銃を奪い、ナカハラに向けた。


「ヨシコ、引いてろ!」

「っ、お兄さん!」

「そいつはもはや人間ではない!」

「おいおい! 軍人さんよぉ! 銃でおれに勝てると思ってるのか? はっはっはっ! 案外、頭悪いんだな!」


 ナカハラの笑みはますます増してくる。体中に溢れてくる殺意。力。警戒される視線。恐れられる快感。興奮してぞくぞく震える背中。彼の理想が叶っていく。


「そこまで見たいなら、冥土の土産に見せてやるよ……! おれの第二形態のすごさっ」


 全て言い終える前に、ヨシコがハリセンを振り、ドームの天井にナカハラを吹っ飛ばした。人はこれを、ホームランと呼ぶだろう。監督席からカヤマが叫んだ。


「ヨシコ、もういい! 無理はするな!」

「いや、だって、あいつうるさいからさ……」


『ピッチャー、ヨシコさん』


 ヨシコが頭を覆う野球帽をいじり、地面を蹴り、ハリセンを構え、対象を待つ。ナカハラが上から降ってきて、ヨシコがぎゅっと握ったハリセンでまた遠くへと叩き飛ばした。わーお! 逆転ホームラン!! ドームで座ってみてた人造人間たちがスタンディングオベーションをして歓声を上げる。しかし飛ばされてきたナカハラに全員潰された。ぺっちゃんこだ。作り物の内臓が飛び散り、赤い液体が飛び散り、ナカハラは壁にめりこみ――おかしそうに笑った。


「クククッ。残念だったな。……もう抜けるぞ」


 めりこんだ壁からナカハラが抜け出し、赤く染まった目玉がヨシコに動いた。


「ヨシコ、おれは……お前の力を超えるぞ」


 ナカハラが変形した左腕でまだ生きていた人造人間を捕まえ、その頭をかち割った。中から頭蓋骨が現れ、それをさらに切り割る。異常な光景にカヤマが目を疑う。人造人間の頭蓋骨から脳を取り出し――ナカハラが、ぱくりと食べたのだ。カヤマが思わず目を見開いた。


「なっ……!」

「あぁぁぁぁあああああああすっげええええいいいいいいいいいいい♡!!」


 すさまじい力が湧いてくる。


「あははははははははははははは♡!!」


 ナカハラの右腕の形が変形し、目玉が両方とも赤く染まった。


 ――第三形態。


「ヨシコォオオオオオオオオ!」


 飛びかかってきたナカハラをヨシコがハリセンで叩き飛ばした。壁にめり込み、ナカハラが血を吐いた。


「げげげげげげげげげげげげげ!!」


 ――第四形態。


「ヨシコォオオオオオオオオ!」


 襲いかかってきたナカハラをヨシコがハリセンで叩き飛ばした。


「ヨシコっ」


 飛んできたナカハラをヨシコがハリセンで叩き飛ばした。


「ヨシッ」


 ハリセンで叩かれる。飛ばされる。

 無駄だ。ナカハラではヨシコに勝てない。


(なぜだ)


 なぜ勝てない。


(今までなら殺せたのに)


 あれくらいの小娘、片手でぷちゅっと潰すだけでいけたのに。


(なんでヨシコはいけないんだ)

(なんで殺せないんだ)

(両親も親戚もクラスメイトも親友も簡単に捻り潰して殺せたのに)


 どうして。


(ヨシコだけは)


 絶対に殺せない。


(おれは犯罪者だ)

(罪を犯して名を残す)

(おれはスターだ)


 承認欲求。


(おれは偉大だ)


 優越感。


(おれが殺すんだ)


 殺意。


(殺す)


 快感。


 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺ヨシコ殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺おれは殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺お前を殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺ヨシコ殺殺殺殺殺殺ヨシコ殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺ヨシコを殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺してやる殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺ヨシコ殺殺殺殺殺くひひひひ殺殺殺殺殺殺殺殺殺ヨシコ殺殺殺気持ちいい殺殺殺殺殺殺すの気持ちいい殺殺殺殺殺殺殺快楽すら感じる殺殺殺殺殺ヨシコ殺殺殺殺あああヨシコ殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺愛おしい殺殺殺殺殺したい殺殺殺殺殺そう殺殺殺殺殺す殺殺殺殺殺殺殺お前を殺殺殺殺殺殺殺ヨシコ殺殺殺殺殺ぶっ殺してやる好子!!!!








「レベル、10」

「最大、形態」


 ナカハラだったものが、地面を歩く。巨大になった足が人造人間を踏みつけた。人造人間たちがナカハラにするすると吸収されていく。吸収される度にその体がどんどん大きくなっていく。最大形態。


「ミンナ、おれの、一部と、ナれ……」


 目玉がぎゅるりとヨシコに向けられ、ナカハラだったものが四つん這いで両手両足だったものをつかって、地面を蹴った。


「吸収して、苦しめて、殺してやる!!」


 笑う。


「ヨシコォォォォオオオオオオオ」

「ヨシコ、逃げろ!!」


 カヤマが銃を撃つが、銃弾は吸収されていく。カヤマが走り出した。ナカハラが走り続ける。カヤマが必死に叫んだ。ナカハラが殺気を込めて叫んだ。


「ヨシコ!!」

「ヨシコ!!」


 ヨシコが襲いかかってくるナカハラを見て、



 ……すごく不快そうな顔をした。



「気持ち悪っ」



 ――ナカハラが止まった。



「え?」


 ナカハラが聞き返した。


「今、なんて言った?」

「キモい」


 ヨシコは純粋な意見を述べる。


「本当に気持ち悪い」


 純粋な目がナカハラを見上げる。


「近づかないで」


 純粋な目に、ナカハラの心臓が止まった気がした。


「触らないで」


 拒絶。


「なんでそんなこと言うんだよぉおおおおおおおおお!!!!」


 ナカハラが絶叫した。


「触らないとお前を殺せないだろ!?」

「どうして、なんでそんな、酷いことが言えるんだ!!」

「おれは、おれはただヨシコと、殺し合いたいだけなのに!!」


 ナカハラが異常な量の汗を吹き出す。ヨシコは不快そうに眉をひそませた。


「触らないでだと!? キモイだと!? なんてこと言うんだ!! 人に、言っていいことと、悪いことがあるんだぞ!? 謝れよ!! おれに謝れよ!!」


 それは、まるでだだっこの子供のように。


「おれは中原なかはら洋貴ひろきだ!! 犯罪者だ!! 顔を見ただけで子どもが泣くのをやめる! 警察すら背筋が凍る! おれこそが大犯罪者!! 怖いだろ!? おののくだろ!? わななくだろ!? 手足が震えてどうしようもないだろ!? 不安だろ!? なあ!? すごく恐怖を感じるだろぉ!?」

「いや、だからキモいんだっつーの。鏡見てみなよ。おじさん」


 ヨシコが指をさした。その方向にナカハラが振り返った。そこには建物の窓がヨシコとナカハラの姿を映していた。自分の美しかった姿を見慣れているナカハラは、変形した自分の姿を見て、酷く驚いた。


「な、なんだ、これは……!?」


 ナカハラが絶望した。


「キモい!」


 こんなの、「殺し」じゃない。


「自殺だ!!」


 ああ、なんてことだ!


「『自殺』なんて嫌だ! ヨシコ、殺してくれ! いっそのこと、おれを、お前が、殺せえええええええええ!!!」

「うわ、やだ。気持ち悪い」


 ヨシコが後ろに下がった。


「触らないで。ばけもの」

「ばけもの……?」


 体には人造人間の顔が浮かび上がり、口の中にしまわれた舌は長くなり、巨体となった『それ』。それはもう、人間ではない。一度死んで、なにかに生まれ変わった姿だ。人はそれをばけものと呼ぶ。


「触らないと……」


 ナカハラが巨大な舌を見せた。


「お前がおれを殺せないだろぉぉおおおおおお!!??」


 叫んだ瞬間、ナカハラの額に銃弾が撃たれた。その箇所を撃たれると、全てが崩れた。ナカハラの残っていた正気も、思い出も、人間だった心も。


 彼に残っているのは、執着だけ。


「お兄さん!」


 執着の対象であるヨシコは、ナカハラから目をそらした。その視線は、自分を撃った男に注がれ、ヨシコは、あろうことかその男の元へ嬉しそうに、まっすぐと駆けていくではないか。


「待って、ヨシコ、まって……」


 行くな。


「もっと、殺し合おうよ……」


 ああ、行くな、行くなよ、ヨシコ、行くなぁ……!


「せめて……せめて……」

「お兄さん!」


 ヨシコが笑顔で駆け寄ると、カヤマが銃口をヨシコに向けた。ヨシコが笑顔のまま立ち止まる。そんなヨシコに……カヤマが不審の目を向けた。


「お前は、何者なんだ」

「……お兄さん?」

「どうしてハリセン一つで、あそこまで出来たんだ」


 前からおかしいと思っていたではないか。この少女のことを。

 ヨシコ。

 突然現れた、謎の少女。


 ナカハラという犯罪者を、たった一人でここまで追い詰めた少女。


「何者だ」

「お兄さん?」

「人間なのか? それとも」


 銃が向けられ続ける。


「人造人間なのか?」


 ――せめて、


「おれの脳を食べてくれよぉおおおお!! ヨシコォオオオ!!!」


 ヨシコとカヤマがはっとして振り返った。しかし、ナカハラの体から飛び出た手がヨシコにめがけて飛んできた。


「うわっ!」

「なんだ、これは!?」

「やっ、たすけて、おにいさ……!」


 ヨシコが手を伸ばすと、それを邪魔するかのようにナカハラの手がヨシコの足を掴んだ。


 その瞬間、ヨシコが目を見開いた。


「っ」


 息を呑んだ。

 足の皮膚が、溶かされていく。


「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 ヨシコが悲鳴を上げてその場に倒れた。


「痛いよぉ! 足が!! 足があ!!」


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!


「いやあ! おにいさっ……!」

「っ、ヨシッ……」


 ヨシコが逃げようと地面を這うと、今度は肩を掴まれる。また皮膚がドロドロと溶けるような痛みがヨシコの脳に響き渡った。


「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「おれを食べろ。食べろよ。なあ? ヨシコ……!」


 自分の腕に手に指に人造人間の顔を浮かばせるナカハラが、ヨシコの腕を強く掴み、その顔を覗かせる。


「お腹をすかせているんだろう? お前、たくさん食べてたじゃねえか……」


 だったら、


「おれの脳も食べれんだろぉ!? ヨシコォオオオ!!」

「いやああああああああああ!!」

「嬉しいだろう!? おれたち、一つになれるんだぜ! ヨシコ!! これからおれとお前は!!」


 ナカハラが歓喜の声をあげた。


「一心同体だ!!!!!」




 カヤマが銃をナカハラのこめかみに押し付け、ためらうことなく撃った。脳を通過した弾によって、ナカハラが白目を剥き、口から血を吐き、それをヨシコにぶっかけてから、――その場に倒れ、二度と動かない。


「うっ、ふうぅう……」


 ヨシコが体を震わせ、泣きじゃくる。


「ふえええええん! えええええええん!!」

「……っ、……ヨシコ……!」


 カヤマが銃を地面に落とし、ヨシコを強く抱きしめた。


「すまない。すまなかった! ヨシコ!」

「ふええええん! えええええん!!」

「お前は間違いなく人間だ。人造人間には唯一出来ないことがある」


 涙を流すこと。


「腹をすかせて食べることも、痛みを感じることも、人間でないとその感覚はわからない。お前の異常な強さに驚いて、思考が麻痺した。……おれはとんだバカ野郎だ」


 カヤマがヨシコを抱きしめ続ける。


「すまない! ほんとうにすまない! 疑って悪かった。ヨシコ。……おれのせいだ。……悪かった……!」

「……お兄さんは……」


 震える声で、ヨシコがきいた。


「わタしのこト、キらい、に、なっタの……?」


 ヨシコは涙を流す。


「お願い。あたし、良い子になるから、好きになって……。あたしには、お兄さんとお姉さんしか、いないのに……」


 お願い。お願い。お願い。


「お兄さん」

「あたしを」

「嫌いにならないで」

「嫌いに、なったら、やだよ……」


「……っ!」


 カヤマが腹から声を出した。


「嫌いなわけ無いだろ!!」

「だってぇー!」

「よし、じゃあ、無事に事が済んだら……」


 えっと、えーと、そうだな。あの、えっと、……。……あっ!


「アイスを買ってやるぞ!!」

「まじぃ!?」


 子どもは実に単純である。ヨシコの目から一瞬で涙が消え去り、笑顔が浮かんだ。


「あのね! あたし、トゥエンティーワンの! 三つ乗せの! ピーチローズチョコ味がいい!!」

「おお! もちろんいいぞ! いくらでも買ってやる!!」

「まじで!? やったぁーーーー!!」


 ……カヤマは、心からほっとし、喜ぶヨシコを見て膝から崩れ落ちそうなほど力が抜けた。


(……鍛錬不足だな。今一度、この心を鍛え直さねば)


 ヨシコは人間だ。


(この世に生まれた人間だ。それ以外の何者でもない)

(日本軍は、日本を守るための機関)


 ヨシコは日本人の少女だ。


(……おれは、この子を信じる)


 人造人間はヨシコを狙っている。塔に行けば、その真相がわかるかもしれない。せめて、それまでは。


(塔に行かなければ)


 ただ、その前にカヤマにはやることがある。目の前のヨシコを見れば、脚と腕の痛々しい火傷の傷口から血を流していた。


「出血がひどいな」

「じんじんする」

「待ってろ」


 カヤマがベルトのポーチから緊急用の治療道具を取り出し、ヨシコの腕と足に包帯を巻いた。最後に、彼女が大好きな羽織をはおらせる。


「痛いだろうが、ここから出るまでの辛抱だ。しばらく我慢してくれ」

「うん。あたし、我慢する!」

「良い子だ。……ヨシコ」


 カヤマが申し訳無さそうにヨシコを見つめた。


「すまなかった」

「もういいよ。……お姉さんだって、そう言うよ」

「……よし、じゃあ、兄さんの肩に掴まれ」

「うっす」

「絶対に離すなよ」

「うっす!」

「……良い子だ」


 ヨシコはカヤマの背中に抱えられ、言われたとおり、絶対に離さないようにカヤマの肩に掴まった。カヤマが立ち上がり、塔を囲む壁を見上げた。さて、ヨシコを抱えた状態でどうやって登るか。


「一人じゃ無理だろ。カヤマ!」


 カヤマがはっとした。後ろに振り返ると、二人を追ってきたケビンたちが無事ここまでたどり着いていた。


「無事で良かったぜ!」

「ケビン! ……皆も無事だったか!」

「壁に登るんだろ? 任せな!」

「おれたちも行きます!」

「自分も行きます!」

「軍力は多ければ多いほうが良い」


 ケビンがにやりとした笑みを、カヤマとヨシコに向けた。


「行こうぜ。ようやくこの地下ともおさらばだ!」


 塔に近づく軍人たち。たくましい背中に抱えられるヨシコ。


 そんな彼女を見つめる美しい黒い目をもつ少女が、モニタールームに一人、立っていた。


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