第33話 お兄様は光の勇者に

 そして、フォルティスお兄様の十五歳の祝いの式典が行われた。

 この世界では十五歳で大人の仲間入りとされていた。

「お兄様。十五歳おめでとうございます!」

「リルア。ありがとう」

 お城のバルコニーから手を振ると国民が歓声をあげた。

 それからエイリー・グレーネ王国の名だたる人々や周辺国からのお祝いの使者を迎えパーティが開かれた。

「リルア。無理してはいけないよ」

「大丈夫ですわ。魔力が欠乏しているだけですもの」

 基礎体力作りは続けていた。だから、『薔薇伝』のリルアみたいに何かあったらふっと気絶することはないと思う。

「それでは……、聖地からの祝福を贈ります」

 そうして現れたのはエルフの神官とピンクのふわふわした少女だった。

 ――あれは、二周目から解放される聖女キャラじゃない! いたのね。

「まあ、なんて素敵な王子様! たくさん祝福を贈りますね!」

 そう言うと虹色の光が彼女の持つ杖から放たれた。

 あれは聖なる杖。あれで闇を払うことができる聖女オリジナルの武器。

 フォルティスお兄様に虹の光が集まると今度はお兄様の身体から光が溢れた。

「おおぉ! これは! 流石、エイリー・グレーネ王国、古き王国。光の勇者がここで現れました。皆様。祝福を!」

 聖地の神官がそう叫ぶと周囲の人々も口々に褒め称えた。

「光の勇者がここに誕生したのだ!」

 神殿長も力強く宣言した

 お父様達も驚きながらもそれを受け入れた。

「フォルティスが……」

「でも、そうなる気がしていましたわ」

 成人の祝いと共に光の勇者誕生の知らせが各国に知らされることになるだろう。

 宴は今までにないくらい盛り上がっていた。

「お兄様。おめでとうございますわ」

「ありがとう。リルア。でも何だか気恥ずかしいね。僕が光の勇者なんて」

「いいえ。お兄様は紛れもない光の勇者ですよ」

 私はフォルティスお兄様に微笑んで見せた。

 お兄様は気恥ずかしそうにしながらも。

「でも、聖地の予言は絶対だ。僕にできることを頑張るよ」

 私達は顔を見合わせて笑いあった。

 それでもお兄様が光の勇者に認定されて私は安心した。これでお兄様が闇の神々と対決できる力を持てたのよ。

 聖地の光の祝福。それは闇を打ち負かす力があると言われていたから。


 そうして宴会の途中で私は出て行った。バルドやフリーニャも連れて。フリーニャだけでは客も多いため危険だと言われたからだ。

 まだ成人ではないし。

 だからその後の宴席で吟遊詩人の見事な歌があったのは知らなかった。


 翌日、アナベルに身支度をしてもらいながら話をしていた。

「昨夜は素晴らしかったですね」

「お兄様は光の勇者ですものね」

「ええ、これでエイリー・グレーネ王国も安泰です」

「聖地の皆様もエイリー・グレーネ王国に暫くご滞在するとか」

「あら、そうなの? そう言えば年若い聖女がいたわね」

「ええ、虹の光を出される聖女様ですよね。初めて見ました」

 『薔薇伝』の聖女はそうして闇に堕ちた場所や人々を癒し元に戻していく旅をするのだ。聖女の癒しの旅と呼ばれていた。それでも闇の神の手先が世界を闇に染め上げていく方が早く。世界は闇の神に呑まれそうになっていた。各地で苦戦しながら最後には集まって皆で力を合わせて闇の神を打ち倒す。

「これはアラス様からの贈り物ですね。リルア様にぴったり」

 お兄様へのお祝いと共に私にもいくつも送られてきた。

 その中には帝国風のドレスまである。

「これを着ろと言うことかしら」

「でも、リルア様。ゆくゆくはお妃教育も受けられることになるのでは?」

「そ、それは……」

 今のままでは確かに婚約中、国家間も乗り気でこれを機に友好を結ぼうとしている。

 『薔薇伝』の設定ばかりを気にしていたから現実的なことまで考えられなかった。

 一緒についていたアラス様の手紙にもそういったことが書かれた。

 ――帝国でお妃教育? 『薔薇伝』ではなかったわよ。

 そして、

 私は宴に出ていた各国の大使や貴族たちが帰るお見送りをするために玄関口まで行った。

 ざわめきは思ったほどはなく、とても静かだった。

 お兄様が光の勇者だと分かったからもっと湧き上がっているはずなのに。人々の表情がどこか不自然だった。

 ……まるで人形のよう。

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