第32話 アラス様が皇太子へ
「どうやらフェンリルは見つからなかったらしい」
晩餐の席でお父様がお話しされた。
何度目かの調査隊の結果は捗々しくなかったみたい。
私は魔力が戻らないので大人しく城でお勉強をしている。
お兄様は確認のため西の街までは行かれたようだった。
「ええ、父上。あれだけのモンスターがいたのですが静かなものでした。時間も経ったのでフェンリルも元に戻ったのではないかと思われます。そもそもあの樹海には生息していなかったはずなのです」
――そうよね。元冒険者のグレイヤードの手記にもそう書かれていたもの。それに『薔薇伝』の公式設定だってもっと北の山脈にいたはずなのよ。
アラス様からも詳しく調査結果を知りたいとお手紙をいただいた。
直接聞きにいらっしゃるかと思っていると第一皇子様の病状が悪化されたためエードラム帝国から離れるのは難しいとのことだった。
それから程なく第一皇子様はご逝去されてしまった。
そして、アラス様が正式に皇太子の地位に就くと発表された。
エイリー・グレーネ王国からもお悔やみと祝いの使者を送ることになり、私からも細やかな贈り物を一緒に送った。
本当なら婚約者として式に出席すべきなのだろうけどまだ体が戻らないというのを理由にしてお許しをもらった。
だって、式典になんて出席すればどうなるか分からないじゃない。
一年後の喪が明けるとともにアラス様がエードラム帝国の皇太子に即位することが決まった。
それから遅くとも二年後には皇帝位へと就くことも帰ってきた使者から知らされた。まだ正式な発表はされていないから内密にということだろう。
となるとアラス様は二十歳のときに皇帝位に就かれるということね。
第四皇子であったアラス様が皇帝位に就くというある意味あり得なかった後継者の交代劇は『薔薇伝』の公式設定と一応同じなのでどきりとする。このままではやはりエイリー・グレーネ王国も滅亡する可能性が出てくる。
公式設定がそうだったもの。エイリー・グレーネ王国はゲームが始まる前に滅亡しているという覆せないところから始まる。
その頃には私はどうなっているのだろう?
それにもう直ぐお兄様の十五歳の祝いがある。
『薔薇伝』の公式設定ではそのときに光の勇者だと判明する。
そしてお兄様を殺そうとする蠢く闇の神の存在。
アラス様の皇帝位に就いてからどちら側を選択するのだろう。
それまでに私達の関係もどうなっているのだろう。
分からないことだらけだった。
それからアラス様からはお忙しい中でもお手紙や贈り物は届いていた。
私からも返事を書いた。
私も体を鍛えたり、ファルク様の魔力回復薬を飲んで魔術の事を習ったりいろいろと忙しくていた。
◇あとがき◇
短くて申し訳ないです。次話はもっと。
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