第31話 フリーニャの始まり

 ……傲慢。確かにフリーニャで始めたらそんな感じで始まった。断罪されて贖罪の旅に出る。それがフリーニャの始まり。

 『薔薇伝』では派閥争いに負けて冤罪で追放されてしまった。そして、便宜を図らないようにと周辺の町に手配されて満足に働き先も見つけることが出来ず、エイリー・ブレーネ国へ行き冒険者で身をたてようとするのが始まり。だけど結局辿りつけなかったはず。周辺国へは手配されていたから結局聖地へと向かったのよね。まだ聖地なら受け入れてくれるだろうという思惑と贖罪の巡礼の為に。

「あのパーティとは荒野の途中で出会いました。水が切れて行き倒れていた私を介抱してくれて良い人達と思っていたのです」

 『薔薇伝』では旅の行商人に助けられるのよ。そこにちゃっかりセレクもいて、最初に少しエンカウントできる。上手くいけば一緒に旅をしてくれて行先を聖地へと変えるのだけど。

「行商人ではなかったのですか?」

「商人? 彼らは冒険者集団だと言っておりましたが」

「そうなのですね」

 何だか少し『薔薇伝』とは違うわね。私の知っている公式設定とのズレが少しずつある。エイリー・グレーネ王国の滅亡を免れるためのルートはあるの?

 私はまだ出会っていないセレクの行方が分かればと思っていたので少し残念に思った『薔薇伝』でのセレクは行商人兼詩人として世界を回っていた。

 だから最初からキャラバン隊を持つことが出来る。

 セレクを序盤で仲間にできれば持てる荷物や同行する人の最大数が増えるし、移動時間も削減される。

「でも王女様は冤罪だと信じて下さっていたのですか? 出会ったばかりだと悪い噂しかなかったはずなのに」

「そうね。私は出会ったときに確信しました。わが身を挺して私を庇ってくださいましたもの。咄嗟のときに人間の本性は出ますわ。私は自分で見たもの感じたことを信じます。人の噂ほど当てにならないものはありません」

 ――だって、あの正義の人のフリーニャだもん。

 そもそも将軍まで成れたのはその正義感で幼少期から鍛錬してきたからと公式設定で書いていたもの。そして、その行き過ぎた正義が周囲の人々の反感を買ってしまったのだ。悲運の将軍のフリーニャは追放されても人々の安寧のために闇の神との戦いに身を投じていくの。

 私の言葉にフリーニャは驚いていた。

 そしてただ黙って私を食い入るように見つめてくる。

「……」

 そして、フリーニャは私にエイリー・グレーネ王国の騎士の最上級の挨拶をしたのだった。

 ――え? 何かいけないことを私は言ったのかしら。

「このフリーニャ全力を持ってお仕えいたします」

「え、ええ。お願いね。とても心強く思います。居合道をともに極めましょう」

「イアイドウ? ――王女殿下は博識であらせられるのですね」


 そして、私が養生している間に樹海へフェンリルの調査と討伐隊が組まれて出発していた。

 彼らはギルドや冒険者にも協力を求めて情報収取や捜索に当たったけれど未だ発見されていない。

 樹海はまるで何もいなかったかのように静かなものだったそう。確かにまだ移動していないなら街まで襲ってきそうよね。息子のハーティもアラス様が倒したのだし。復讐にきてもおかしくないのだけど。

 そもそもフェンリルは中ボスで、確かに樹海ではなくてここから北の山岳地帯にいたはず。フェンリルを味方につけようと、雪山に向かうのよね。だけど既にフェンリルは闇側の陣営に与していたため戦闘になるの。やっつけると闇の神のデータや特殊な防具などが手に入った覚えがある。

「また行くことになるのかしらね。それかまた視察に行ってみたいわ」

「それは……、どちらにせよ。王女殿下のご参加は難しいかと」

「そうですよ。姫様があのようなところに行くこと自体がそもそもおかしかったのですよ。陛下だってもう許可はなされないと思いますよ」

「むむむ。でもまだ樹海の様子を見ていなかったのよ。入り口をほんの少しだけ見ただけだったのに」

「それでもフェンリルのような伝説級モンスターが出てきたのですよ。もうエードラム帝国への輿入れが決まっている姫様が冒険者まがいのことをするのはお相手の皇太子殿下もとてもご心配されることになりますよ」

 私はアナベルに言われてしゅんとなった。確かに無謀かもしれない。だったら、装備と訓練を強化ね。魔術は使えないからあとは基礎体力づくりよ。


「いずれ、私はフリーニャと共に戦いの場を駆け巡るかもしれません。それまでに力をつけておきたいのです。私と一緒についてきてくださいませ」

「はい! このフリーニャは王女殿下の御為にどこまでも馳せ参じましょう」

「では早速、アラス様が考えてくださった、『これで剣士に成れる』の手順で訓練をいたしましょう」

 ――フリーニャを鍛えて一緒にボス戦をこなせるようにならないとね。

「これからも忙しくなるわ」

「はい! 精進いたします」

「姫様は強くなる必要はありません!」

 アナベルは大声で否定してきたけれど強力なメンバーが入ったので頑張らないとね。いきなり中ボスクラスと遭遇するんだもの。油断はできないわね。

 そう考えて訓練に励んだけど私は視察に出ることは許されずにお城の中で過ごすことになるとは思わなかった。

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