第30話 追放の若き将軍

 走り去って行くマドラを見送ると私も部屋に戻った。

 ――嬉しい! ついにフリーニャが仲間になったのね。

 これでメインキャラと全員出会えたのよ。

 残るはハーフエルフのセレクだけがまだ会えていない。

 彼は独特のキャラで一番『薔薇伝』の世界に精通していた。

 エンカウント率も一番良かったのできっと直ぐに会えるはず。

 ――このときはそう思っていたのだけど……。


 そもそもアラス様なんて中盤の終わり頃でないと正式に合流できないし、フリーニャなんて追放されて各地を転々としているからすれ違うことが多かったし、リルアなんてフォルティスお兄様を選ぶと終盤でないと再会できない。

 『薔薇伝』ではメインキャラを初期の段階でメインキャラを一緒のパーティに入れるのは結構難しかった。

 メインキャラだけでは戦闘が厳しいのでイベントにはお助けキャラが出てきてパーティを組めて一緒にイベントを進めることができる。

 イベントが終われば別れるのだけど時折出てくる選択肢を間違えなければずっとパーティにいてくれる。序盤はステータスが低いしとにかく人数が欲しいのでイベントキャラも大事にしていたのよね。それに結構強くなるから最終決戦まで連れていくことができる。

 その中で聖女とか暗殺者もあった。聖女と暗殺者は『薔薇伝』の中では隠しキャラだったので二周目以降はプレイできるキャラになっていた。

「今日から私専属の女性騎士が来るのよ」

 私は部屋でお茶御用意をしてくれているアナベルに話しかけた。

「それは良かったですわ。これで一安心ですわね」

「ふふ。もう少し外出先が増えるかしら?」

「それはもっと心配が増えますわね」

 そんなことを話していると騎士服に着替えたフリーニャがやって来た。

 彼女はエイリー・グレーネ王国の騎士の服装をしていた。濃紺に金で縁取りされている普段の略装のものだけどとても良く似合っていた。

「王宮騎士団、王女様付きになりましたフリーニャと申します。よろしくお願いします」

「待っていました。フリーニャ。これからよろしくお願いね。頼りにしているわ」

「早速一緒にお茶をしましょう」

「いえ、自分は護衛ですから、そのようなことは」

「いいじゃない。今日だけ。フリーニャにはいろいろと聞きたいことがあるし」

 ――衣装とか武器とか諸々ね。

 やっぱり最初は銀の胸当てとかにしょうかしら。

 いきなりミスリル製のとかビックリするかもね。

 私は絶対武器から良いのを揃える派でした。

 防具は後で揃えるのでずっと皮の鎧とかで頑張っていた。

「そう言えば、自分も王女殿下にはお訊ねしたいことがありました。よろしいでしょうか?」

「ええ、何なりと私の答えることのできる範囲でなら」

「……あの樹海で初めてお会いしたときにどうして私の名をご存じだったのでしょうか? もしそうなら、私のアマゾナス国での追放の噂も耳にされていたのではないでしょうか。どうして私を雇ってくださったのか……」

「あ、あれは……」

 ――フリーニャのことは『薔薇伝』というゲームで知っていたのとかでは無理があるわよね。

 じっと様子を覗うようにフリーニャは私を見つめてくる。

「そう、あの、私達が視察のため西の樹海の街のギルド前に赴いたとき、丁度、あるパーティの人達がいてその人があなたの名前を呼んでいたのよ。それにお兄様を心配して樹海に踏み込んだときあのパーティの方々逃げ出してきたのでそれに鉢合わせて事情を聞いたのです」

「パーティのリーダーからですか? ああ、あのときのがそうでしたか」

「ええ。大変そうだなと思って見ていました。そして、今度はリーダーからは話をお聞きして、私のところに来て欲しいと考えたのです」

 私が微笑むとフリーニャは顔を輝かせた。

「分かりました。王女殿下に救っていただいた恩は必ずや」

 フリーニャは立ち上がるとそう宣言した。

「それにしてもフリーニャは本当にアマゾナス国を追放されてしまったのですか?」

「はい。私は傲慢になっていたのです。力があるからと最年少の将軍位に就くことができましたが、それが自分だけの力でできたと慢心していたのですね。段々私は人を人とも思わぬほど傲慢になっていきました。そして、気がついたら孤立していて、隊の指揮もままならぬようになり、最後は将軍位をはく奪され国外追放を言い渡されていました」

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